涙 1
「よし、サイズもぴったり」
背中の帯を締め、神楽を手前から眺めた新八は満足そうに頷いた。
「似合うアルか?」
「うん、可愛いよ」
不安げに訊ねる神楽に、新八は笑顔で答える。
実家を掃除した際に出てきた、姉のお古の着物を神楽に着せたのだが、意外によく似合っていた。
新八が綺麗に髪を結い上げれば、どこをどう見ても武家の娘だ。「銀ちゃん!」
「おー、可愛い、可愛い」
まとわりつく神楽にTVを見ていた銀時は仕方なく相槌を打ったが、彼女はそれでも嬉しそうだ。
今までは異国の服を好んで着ていただけに、初めて銀時達の仲間になれた気がする。
着物で動きが制限されるせいか、所作もどことなく女の子っぽくなっていた。「散歩に行ってくるアル!!」
「気を付けてねー」
飛び出していく神楽に、新八が心配して声をかける。
おそらく、おめかしした姿を知り合いに見せたいのだろう。
捨てるかどうするか悩んでいた古着なだけに、汚したとしても叱る者がいない点は安心だった。
上機嫌の神楽は、自然と鼻歌を歌いながら歩を進めている。
登勢も、妙も、長谷川も、桂も、神楽の知り合いはみんな着物姿の神楽を褒めてくれた。
一日ぐるぐると町内を歩き、夕方になってもまだ家に戻っていなかったのは、気分が良かったからだ。
そう、神楽は思い込んでいた。
「チャイナさん」
呼び止められた神楽は、振り向くなり、つい習慣で顔をしかめそうになる。
見回りの途中の沖田と、山崎が並んで立っていた。
沖田は何故か視線を逸らしていたが、山崎はにこにこと笑顔で神楽を見つめている。
「全然分かりませんでした。着物、似合っていますよ」
「有難うネ!」
相手がいけ好かない真選組とはいえ、神楽は自然と顔を綻ばせる。
何となしに隣りを見たのは、今までと同じように、褒めてもらえると期待していたからかもしれない。
だが、沖田の口から出たのは、思ったものと全然逆の言葉だった。
「ブス」
呆気にとられたのは、神楽だけでなく、一緒にいた山崎も同様だ。
機嫌の悪いらしい沖田は、冷ややかな眼差しのまま神楽をののしり続ける。
「全然似合ってませんぜ。あんたみたいな乱暴者、見せかけだけ綺麗にしても意味ねーや。根性の悪さが顔に出てらァ」
「お、お、沖田さん!!何言ってるんですか、ちょっと!!!」
慌てて止めた山崎だが、もう遅い。
握り拳を作る神楽は、燃えるような瞳で沖田を睨み付けていた。また、殺し合いのような二人の諍いが始まる。
そう思い、身構えた山崎だったが、結果はまるで違った。
「ちゃ、チャイナさん・・・・」
変化は一瞬だった。
怒気を含んだ表情から一変、神楽の目から、涙がこぼれ落ちる。
必死に押さえようと思っても、一度出てしまえばなかなか止まらない。手の甲で目元を拭った神楽は、驚く二人を残して、そのまま駆け出していた。
馬鹿みたいだ。
自分が本当は誰を捜して町に出たか、神楽は気付いてしまった。
新八のように、彼に「可愛い」と、言ってもらいたかったのだ。
「おかえりー、随分ゆっくりしていたんだね」
開いた扉の音に振り向いた新八は、神楽を見るなりぎょっとする。
神楽が、真っ赤に泣きはらした目で下駄を靴箱に投げつけていた。
さらには、帯を無理矢理解いて着物を脱ぎ散らかしている。
「ど、どうしたの!!?」
「・・・・これ、返す。私、いらないネ」
鼻をすすって言うと、神楽は脱いだ着物の一式を新八に突き返し、下着姿のまま押し入れに駆け込んだ。
あとは、外から何を呼び掛けても、うんともすんとも言わない。「銀さんーー」
救いを求めるような眼差しに、銀時も首を振るしかない。
「俺にだって、分からねーよ。外で何があったかなんて」
気の強い神楽が泣くなど、よほどのことがあったのだろう。
どうしたらいいか分からず押し入れの前を彷徨く新八だったが、顔には出さずとも、銀時も同じ心境だった。
あとがき??
2に続く・・・・んですが、全く考えてないです。ああ。
2は沖田視点ですね。おそらく、ああした態度を取ったのは何か理由があるんでしょう。
しかし、新八好きだ。うちのナルトと性格が本当にリンクしています。
こういうときに真っ先に褒めてくれて、「可愛い」と素直に言ってくれるのは、新八なんですよ。