サディスティック・19
周りにいる人間をいじめて楽しむ。
それは沖田の昔からの性分だった。
相手のことが、好きでも、嫌いでも関係ない。
弱い子供や老人以外は全てが対象だ。
そうした意味合いから、彼とは気があっていたのだろう。「面白いものを見せてやる」
沖田一人がその屋敷に呼ばれたのは、何か見せ物があるためとのことだ。
沖田と大名家の次男坊の彼は護衛任務で知り合い、すぐに意気投合した。
彼が、沖田とよく似た性格の人間だったからだ。
以来中世の拷問資料等を貸し借りする間柄だったが、この日だけは妙に気乗りがせず、沖田は重い足を引きずるようにして門をくぐる。
そして、案の定、嫌な予感は的中した。
「珍しいだろ。夜兎という種族らしいよ」
「・・・さいですか」
知っていると言いかけて、沖田は初めて聞いた顔をしておいた。
見慣れた桃色の髪の少女が、強い日差しの下で、縛られた状態で倒れている。
太陽の光を集める仕組みの檻は彼女の自由を奪うには何よりのものだ。「最強の戦闘民族だそうだけれど、もろいものだね。傘を奪われて日差しをあてれば、すぐに弱ってくる」
「どうやって捕まえたんでさァ」
「公園で遊んでいた子供を人質にしておびき寄せたのさ。簡単に引っかかってくれたよ」
「・・・・」
硝子の檻を見つめる沖田は、静かに目を伏せる。
何故だか、この光景を直視出来なかった。「あとどれぐらい日に当てれば死ぬか、賭けないか」
「それは、面白そうですねェ」
楽しげに話す彼に、沖田も笑顔で相槌を打つ。
彼は、真選組に活動資金を援助する金持ちの息子。
逆らえばまずい立場になるということは、あとになって考えた。
気付いたら、神楽のいる方へ向かって駆け出していたのだ。
我に返ったのは、神楽の体を横抱きにした時だった。
「お前は、俺と同じ種類の人間だと思ったのに・・・・・」
檻を刀で壊し、神楽を救い出した沖田を見つめて彼は残念そうに呟いた。
「俺も、そう思っていやした」
だが、違うのだ。
嫌がらせはしても、本当に殺す気などない。
ただ、自分を見てもらいたかったのに、死なれてしまっては意味がなかった。「今度こいつに手を出したら、俺があんたを殺しやす」
その瞳をひたと見据えて、沖田はよどみなく声を出す。
彼はただ悲しげに瞳を揺らしただけで、何も言わなかった。
屋敷を出る沖田を追わず、何の咎めもなかったのは、それまで親しくしていた彼の最後の温情だろうか。
「チャイナ、おい、起きな」
取り敢えず、神楽を近くにあった公園の東屋に運んだ沖田は、頬を叩きながら呼び掛けた。
全く反応はないが、一応、息はしている。
遅かったのだろうかと思いつつ、沖田は途中で買ったペットボトルの水を飲ませようと、それを口元へ持っていった。
意識がないせいか、せっかくの水は喉を通らず横から滑り落ちていく。
仕方なく、中身を口に含んだ沖田は彼女と唇を合わせて無理矢理それを飲ませた。
あとで知ったら怒られるかもしれないが、目の前でひからびて死なれるよりはマシだ。「・・・んっ」
少しでも水が体に入ったのが良かったのか、眉を寄せた神楽は途切れ途切れに声を出し始める。
「銀・・ちゃん・・・」
「・・・・」
ホッとしたのも束の間、ひどく腹立たしかったが弱っている相手を怒鳴るわけにもいかない。
「悪いなァ。旦那じゃなくて」
皮肉げに言う沖田がその手に触れると、思いがけず、力強く握り返された。
目を開けた神楽は、今度はしっかりと沖田の顔を見つめている。
「・・・何でお前がいるアルか」
「お姫様を助けた王子だからでさァ」
「・・・・随分意地の悪い王子ネ」
不満げな神楽だったが、これだけ話せるようになればもう大丈夫だろう。
夜兎族が普通の人間より頑丈というのは本当のようだ。
「もう、変なのに捕まるんじゃねーよ」
安心したせいか、いつもより優しい口調で沖田は笑う。「本当にお前が私を助けたアルか」
「そう、言った」
「・・・何で」
問われて、沖田は答えに窮する。
神楽とは天敵の間柄で、こうして静かに会話をするなど初めてだ。
しいて理由と付けるなら、こう言うしかない。
「お前は俺の獲物だから、かねェ」
他の奴にいじめられているのは、気にくわないという風に言う沖田に、神楽は思わず苦笑する。
「やっぱり意地悪な王子ネ」
それでも、神楽の掌を握る彼の手は優しい。
銀時がいなければ、ずっと縋っていたいような気のする、温かな手だった。
あとがき??
随分前に考えたんですが、何となく書いてみる。ただこれだけの話。
タイトルのサディスティック・19は、立花晶の漫画ですね。内容、関係ないですけど。
「サディスティック」というと、どうも「ナインティーン」と続けたくなるもので。