すいか


今日は一日曇り空。
銀時の好きなお天気お姉さんの言葉を信じたのが馬鹿だった。
今、神楽の頭上では太陽の光がさんさんと降り注いでいる。
うっかり傘を持たずに外出したせいで、神楽はグロッキー状態だ。
何とか木陰に避難したものの、立ち上がれずに座り込んでしまった。

「銀ちゃんー、新八ー、定春ー・・・・」
弱々しい声で家族の名前を呼んでみても、現れる気配はない。
早く万事屋に戻らなければ、日頃の乱暴な行いのせいか、神楽には敵が多いのだ。
また、神楽個人に恨みが無くとも、夜兎の力を利用しようと狙っている輩は大勢いる。
大きくため息をついた神楽は、自分の手前で立ち止まった足に気づいて顔を上げた。

 

「よー、チャイナ。元気そうだなァ」
「ううっ・・・」
にやにやと楽しげに笑う沖田を見て、神楽は思わずうめき声を発する。
数多い敵の中で、一番、たちの悪い奴に見つかってしまった。
人をいじめるのが何よりの快感である彼が、弱っている神楽を見逃してくれるはずがない。
敵に掴まり、火責め水責め、ありとあらゆる拷問を受ける姿が頭をかすめてゾッとする。
「傘がなくて、難儀してるのかい?」
「・・・・・・」
「おんぶとだっこ」
「・・・・えっ?」
眉をひそめて聞き返す神楽に、沖田は空を見上げながら言う。
「どっちがいいか訊いてるんでさァ」

信じられないことに、彼は神楽を万事屋まで送っていくつもりらしい。
「おんぶとだっこ」
目を丸くしている神楽を見やると、沖田はもう一度繰り返す。
「・・・何のつもりアルか」
「上杉謙信って武将を知ってるかい?」
訝しげな神楽に対して、沖田はさらに質問で返した。
脈略のない話に神楽がついていけずにいると、沖田は少しだけ表情を和らげる。
「敵に塩を送ったことで知られる、俺が尊敬している武将でさァ。お前は、万全な体調のときに負かしてやりてーからな」

まだ、疑いの眼差しで沖田を見ている神楽だが、背に腹は代えられなかった。
「・・・おんぶ」
神楽の返答を聞いた沖田は、いつもの、意地の悪い笑いを浮かべてみせる。
救いの手をさしのべたことは確かだが、天の邪鬼の彼が神楽の言うことを素直に聞くはずがなかったのだ。
自分の発言を大いに後悔した神楽だが、時はすでに遅かった。

 

 

 

「お前、最近太ったんじゃねーか?」
「グラマーになったアル」
反論はしたが、声に覇気がない。
沖田にだっこをされた状態の神楽は、頭から沖田の上着をかぶっているももの、だいぶ体力を消耗していた。
このまま太陽の下に出れば、何分かで干上がってしまいそうだ。
沖田は自分の服を握りしめる神楽を心配そうに見つめたが、彼女にはそれに気づく余裕もない。

何故だか無性に不安になった沖田は、無意識に彼女を抱く手の力を強める。
先ほどは逆なことを言ったが神楽の体は空気のように軽い。
自分と対等にやりあう少女が、これほど小さく、か弱い存在だったとは、沖田は今の今まで知らなかった。
会えば憎まれ口しか叩かなくとも、死にそうな顔をされるより、睨まれた方がずっとましだ。

「お礼はメロンで勘弁してやりまさァ。元気になったら屯所に持ってきな」
「・・・・図々しい奴」
そのまま動かなくなりそうで、絶えず声をかけると神楽は何とか言葉を返してきた。
神楽を抱えて表通りを走る沖田は皆の注目を集めている。
なりふり構わず何かに必死になるなど、随分と久しぶりな気がした。

 

 

 

「全く、曇っていても用心しろって言ってあっただろ!」
「・・・・ごめんアル」
布団に横になり、氷嚢を額にのせた神楽は申し訳なさそうに呟く。
傘を置いて外に出た神楽を、銀時と新八は必死に捜していたらしい。
沖田に連れられて戻ってきた神楽を見たとき、安堵した二人はその場でへたり込みそうになった。
「ごめんアル」
「・・・・もー、いい」

何度も謝る神楽の頭に、銀時はそっと手を置いた。
神楽が大好きな、優しい掌。
安心して目をつむった神楽は、彼とはまた違った温もりのことを思い出していた。
自分とそう変わらない年齢の子供だと思っていたが、神楽を楽々抱える腕は逞しい男のものだ。
一番落ち着けるのは、銀時のいるところに決まっている。
だが、彼に抱かれているときの神楽も、間違いなく守られていることを感じていた。

 

「銀ちゃん、すいか買って」
「何だ、腹減ったのか?」
「違うヨ。敵に塩を送るアル」
怪訝な表情の銀時を見て、神楽は口元に笑みを浮かべる。
万事屋のエンゲル係数を考えれば、それが精一杯のお礼の品だった。


あとがき??
千夏さんからリクエストで、「沖楽で、身長差もしくは年齢差を感じる話」でした。
身長差=体格差かなぁと思ったのですが、書き上げてみると全然違うテーマになっていました。
も、申し訳ない!!!
そして、長々とお待たせしてすみませんでした。(涙)
見捨てずに、今後ともお付き合い頂ければ幸いです。


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