可愛さ余って・・・


昼の1時から放送するメロドラマを見ることは、沖田にとって欠かせない日課だった。
仕事をさぼっても、これだけは忘れない。
愛憎劇を売り物にしたドロドロとしたストーリーは沖田が何より好むものだ。

「・・・・悪趣味ですねぇ」
「そーかい?」
珍しく、沖田が爆笑する声を聞いた山崎は座敷を覗いたのだが、
彼はTVの前で一人寝そべっている。
見ている内容といえば、二人の女が一人の男を巡って争い、とっくみあいの喧嘩をしている場面だ。
普通は、笑うところではないだろう。
何となしに傍らに座った山崎が見ていると、どうやら男は片方の女の旦那で、主人公は浮気相手共々夫を殺す計画をたてているらしい。
憎い女だけでなく、自分を裏切った夫にまで殺意を抱いているのが怖いところだ。

 

「あの・・・面白いですか?」
「さァ」
ぱりぱりと煎餅を食べる沖田は、訝しげな山崎を見て首を傾げる。
主人公の女心など沖田に分かるはずもなく、物語の筋書きはどうでもいいのだ。
ただ、女達が醜くいがみ合う姿を見ると胸がすっとするという奇特な性分なだけの沖田だった。

 

 

 

 

「これ、弾がもう入っているよーですぜー」
「こんなところで出すな!!」
上から支給された短筒をいじくって歩く沖田に、土方は声を荒げて言う。
全く仕事をしない沖田を無理矢理巡回に付き合わせたのはいいが、彼の関心はもっぱら手元の短筒にあるようだ。
そもそも、土方は侍が刀ではなく短筒を持つこと自体に納得がいかない。
「暴発でもしたらどうする」
「大丈夫でさァ。こんなに近ければ、絶対に狙いは外さねー」
「外せよ、コラ!!」
冗談めかして自分に短筒を向けている沖田に土方はがなりたてる。
彼が本気でやっていることは、今まで何度も殺されかけたためによく分かっているのだ。

「おら、みんな見てんだろ」
往来の人々は真選組がやってくると後ろ暗いところがなくとも萎縮するのだが、沖田が短筒をちらつかせているために、よけいに避けて歩いている。
市民を守るための真選組が怯えさせてはしょうがない。
「山崎に預けておけ・・・」
「ニコ中ーーー、ようやく見つけたアルー」
二人と共に歩いていた山崎へと目をやると、通りの向こうから駆けてくる者が視界に入る。
誰もが恐れる鬼の副長を、ニコチン中毒を略した名前で呼ぶ傍若無人な人間は一人しかいない。

 

「これ、この前のお礼ネ!」
手前にいる沖田と山崎を押しのけて土方に近づくと、神楽はにっこりと笑ってそれを差し出す。
彼女の大好物である、酢昆布の箱だ。
「・・・・嫌がらせかよ」
「私が酢昆布を人に分けるなんて、滅多にないネ。感謝するアル」
神楽は胸を張って言ったが、箱の中には小さな酢昆布の欠片しか残っていない。
ゴミの処分に困った神楽が、酢昆布を一枚残して土方に始末させようとしているとしか思えなかった。

「お礼って、何のことですか?」
「・・・知らねーよ」
こそこそと耳打ちする山崎に、沖田は無表情のまま答える。
一見、仲がよさそうに会話をする土方と神楽を見ているうちに、何だか無性に腹が立ってきた。
理由はよく分からないが、短筒を持つ沖田の手に力がこもる。

 

 

「てめーな、あんとき食ったたこ焼きの数、100個だぞ!こんなもんで礼なんていえるか、ボケ」
「感謝は物ではなく、心が肝心アルヨ」
「何を分かったようなこと言いやが・・・」
大人気なく神楽と言い合う土方は、その瞬間聞こえた銃声に思わず身をかがめる。
だが、その必要はなかった。
一瞬早く傘を開いた神楽が、狙われた土方をかばうようにして、その前に立っていたのだ。

「・・・・何のつもりアルか」
「試し撃ち」
目をつり上げて問い質す神楽に、短筒を撃った張本人である沖田は涼しい顔で答える。
彼女がいなければ、弾は確実に土方の体に命中していたことだろう。
下手すれば即死だ。
「アホかーーー!!!今度という今度は、本気で怒ったぞ、てめーー!!」
「いきやしょう、山崎」
「は、はあ・・・・」
顔を真っ赤にしていきり立つ土方を無視して、沖田は踵を返す。
土方を撃てばイライラが少しは解消されると思ったのだが、神楽がかばったせいで、よけいに落ち着かない気持ちになってしまった。

 

 

 

小走りで急ぎ足の沖田に追いついた山崎は、不安げな様子で彼の顔を見つめる。
「あの、ほ、本気だったんですか?」
「当たりめーでェ。先にチャイナを狙えば良かった」
「な、何で・・・・」
「さァ」
沖田は本当に分からないという顔で首を傾げる。
日頃から憎らしい土方が、あのとき一層目障りな存在に感じられたのだ。
「何でだろうなァ」と独り言を言う沖田を横目に、山崎は心の中で密かに納得して頷いた。

昼メロだ。


あとがき??
ちょっと、沖田に狙われる土方を神楽が助ける、というシチュエーションをやりたかった。
我知らず嫉妬している沖田くんでした。
タイトルは『可愛さ余って憎さ100倍』から。


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