辻占 2


最初に会った十字路の近くに、老婆は簡単に片付けられる折りたたみ式の椅子とテーブルを拵えて座っていた。
どこかの雑誌でも紹介されたらしく、彼女の占いはよく当たると評判だ。
事前に場所と営業時間をチェックした神楽が、嫌がる銀時を連れて老婆を訪ねると、すでに10人ほど客が並んでいる。
一日に何人もの客を相手にするせいか、老婆は神楽のことを覚えていないようだった。

「私と銀ちゃんの相性を調べて欲しいアル!!私達、ラブラブになれるアルか?」
「おいおい・・・」
神楽に腕を掴まれた銀時は、もう片方の手で頭をかきながら言葉を挟む。
二人の顔を見比べてタロットカードをいじっていた老婆は、その中の一枚のカードを選んでひっくり返した。
表面のカードの絵柄は若い男女が手を取り合う、「恋人」を意味するカードだ。
「あんた達、相性最高だよ。このままいくと長い付き合いになるみたいだね」
「へー・・・」
「・・・・当たってるアル」
適当に相槌を打つ銀時と違い、神楽は青い顔で客用の椅子から立ち上がった。
すでに一緒に暮らしているのだから相性が良くて当然だ。
それならば、沖田が死ぬという予言もまた、当たってしまうことになるのだろうか。

 

「さらに運気を高めたければ・・・」
「おい、神楽。どこいくんだよ」
老婆の話はまだ続いていたようだが、ふらふらと歩く神楽のあとを追って、見料を払った銀時も席を立つ。
「神楽」
肩を掴まえて振り返らせると、神楽の目には涙が浮かんでいた。
「・・・どうしよう、あいつ死んじゃうヨ」
「ああ?」
怪訝そうに聞き返した銀時に、神楽は堪らず泣きついた。
妙な占いに付き合わされたことといい、全くわけが分からないが、彼女が何かを不安に思っているのは事実だ。

「何があったんだよ、お前」
神楽の背中に手を回し、優しく問いかける銀時だったが神楽は彼の服を握り締めたまま口をつぐんでいる。
神楽自身も、何故自分がこれほど打ちのめされているのか分からない。
会えば喧嘩ばかりで、目障りな存在のはずだ.。
それなのに、本当に彼が死んでしまうかと思うと、胸が痛くてどうしようもなかった。

 

 

 

「銀さん、神楽ちゃん今日も食欲がないみたいですね・・・・」
食器を洗って戻ってきた新八は、不安げな様子で銀時に声をかける。
大食漢の神楽が米を茶碗に5杯分しか食べないとは、万事屋では大事件だ。
それが一週間以上も続いているのだから、心配するなという方が無理だった。
「何も話さねーからなぁ」
ソファに座って新聞を読んでいた銀時は、小声で話す新八に同じような口調で答える。

「ん?」
寝そべる定春の体を枕にして横になっていた神楽が急に半身を起こし、銀時と新八も彼女の注意を引いたものへと目を向けた。
つまらないワイドショーを流す
TVに、見覚えのある顔が映っている。
タロットカードを使う占い師の老婆だ。
ニュースの詐欺事件を扱ったもので、老婆が逮捕された映像と、被害にあった女性達のコメントがあとに続いた。
『そうなんですよ。幸運を招くと言われて、この壷を買わされたんですけど・・・』
どう見ても二束三文と思われる壷だったが、被害者の女性はそれを
10倍の値段で購入したらしい。
老婆の占いはまるきりのデマで、結果が良くても悪くても、相手を口車に乗せて壷を買わせるのが彼女の手口のようだった。
思えば、占いの結果のあとに彼女はいつも何かを言いかけていたような気がする。

「神楽、あれって・・・・」
「出かけてくるアル!」
立ち上がった神楽は、傘を持って事務所の二階から駆け下りていく。
階段の上から栗色の髪が見えたときは、息が止まるかと思った。

 

 

「元気そうじゃねーか」
万事屋に向かうところだったのか、不敵な笑みを浮かべた沖田は神楽にそれを放って寄こした。
『博多の明太子』と書かれた大きな包みだ。
「土産。これで酢昆布を食べた件はチャラにしなせェ」
「・・・・どこに行ってたアルか」
俯いて包みを見つめていた神楽は、小さな声で訊ねる。
「山崎に言ってあったはずでさァ。仕事で遠出するって・・・・・」

言葉の途中、神楽が懐に飛び込んできたときは出刃で刺されたかと思ったが、違った。
沖田の胸に顔をくっつけ、神楽はどうやら泣いている。
足下に転がった傘と明太子の包みを見つめたまま、どうしていいか分からず、沖田は両手を彷徨わせた。
うかつに抱きしめれば、殴られる危険性が大だ。
「・・・チャイナ?」
「妙なタイミングでいなくなるなヨ・・・・・馬鹿」

 

白昼堂々、往来でラブシーンめいたことをしている沖田と神楽を、万事屋の出入り口に立つ銀時と新八は、驚愕の表情で見下ろしていた。
「ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、銀さん、あれ、あれ!!」
「いいんじゃねーの」
慌てる新八とは対照的に、手すりの上に頬杖を付いた銀時は口元を緩めて呟く。
「元気になったみたいだし」


あとがき??
1から2まで、随分と時間が空いてしまって申し訳ございません。
その分、ラブ度を上げてみました。(これでも・・・)
話のオチ的には最初に考えたときと全く変わっていないのですが。どうも書く気力が湧かなかった。
有り難くも、度々「あれはどうなったのか?」というご意見を頂き、この度奮起して完成させてみました。
生来怠け者なもので、誰かに言われないと動けないところがあるようで・・・。
元ネタは『みゆき』です。
神楽ちゃんは素直だから、人に言われるとすぐ信じてしまいそうだなぁと思って。
しかし、彼女へのお土産で明太子ってのも、色気が無いですね。(笑)


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