そら 11
総楽が相談があると言って屯所にやってきたとき、沖田は座敷で昼のメロドラマを見ている最中だった。
よほど悩んでいるのか、山崎が茶菓子を出しても手を付けずに俯いている。
「母上が変なんです・・・」
「それは前から知ってますぜ」
「いえ、そうじゃなくて。以前は一度の食事にどんぶり飯10杯で我慢していたのに、今はその倍は食べるんです。何か悪い病気じゃないかと心配で」
「それであの体型ってのが凄いですよね・・・・」
沖田の隣りに座る山崎がすらりとした神楽の体つきを思い出しながら呟くと、唐突に横から頭を叩かれた。
「な、何するんですかーーー!!!」
「変な想像した罰でさァ」
ふてくされた山崎を一瞥すると、沖田は居住まいを正して総楽に向き直る。「それだけじゃ判断できねーなァ。他におかしなところは?」
「よく酸っぱいものが食べたいとか言ってるかな・・・・。あとは気分が悪くなって、たまに吐いたりしてる」
「・・・・・・・・」
記憶の糸をたぐり寄せて話す総楽から、沖田はふいに視線をそらす。
山崎も同じ考えに行き当たったのか、探るような眼差しで沖田を見据えた。
「・・・それって、まるで妊婦みたいですね」
「は、早合点するない」
「じゃあ、沖田さん、身に覚えはないんですか!?このごろ仕事さぼってちょくちょくチャイナさんと会っているじゃないですか」
身を乗り出した山崎に真剣な声音で問いつめられ、沖田の表情が陰った。
「・・・・ちゃんと、してたはずでさァ」
「でも、現にこうして総楽ちゃんが出来たじゃないですか!前も作ろうと思ってやったわけじゃないんでしょう。今度こそ責任取らないと駄目ですよ」
口論を続ける二人を眺めながら、総楽は事情が呑み込めずにきょとんとした顔をしている。
よく分からないが、いつも虐められる立場の山崎が沖田に対して強気な立場なのは、随分と珍しい光景だと思った。
「えっ、子供が出来たかもしれない!?」
沖田が総楽と連れ立って志村家に向かい、その推測を話すと新八は驚きに目を見張った。
だが、それならば神楽の変調の説明がつく。
「・・・そういえば、総楽ちゃんが出来たときも、神楽ちゃんご飯食べまくっていたような」
「やったーー!嬉しいアルー」
困惑した空気が広がる中で、一人歓声を上げて万歳をしたのは当事者である神楽だ。
浮き浮き顔で腹に手を置くと、神楽は首を傾げて沖田を見やる。
「総悟は嬉しくないアルか?」
「えーと・・・」
総楽の存在を知ったときと同様に、父親になった実感がないというのが本音だが、手放しで喜ぶ神楽を見ていると正直に言うのが憚られた。「・・・あのさ、これを機に二人ともちゃんと入籍した方がいいんじゃないのかな」
総楽の頭を撫でた新八は、神妙な表情で神楽達に切り出した。
「夫婦になれってことですかい」
「そんなの嫌アル!!面倒くさい」
とたんに口を尖らせた神楽は、新八の左腕に自分の手を絡ませて熱く主張し始める。
「私は新八のところにずっといたいネ!!」
「おいおい、それは聞き捨てならねーなァ」
「じゃあ、お前、私のパピーにちゃんと結婚の報告が出来るアルか?」
「・・・・」沖田の頭に浮かんだのは、星海坊主の異名を持ち、宇宙最強と謳われる強面の神楽の父親だ。
真選組で一番の剣の使い手である沖田であっても、娘を溺愛する父親の存在は怖い。
「まァ、このままでも不便はないか・・・・」
「ちょっと、ちょっとー!」
そのまま結婚話が立ち消えそうになると、新八は慌てて声を大にした。
「沖田さんも神楽ちゃんも親としての自覚を持ってくださいよ。総楽ちゃんのときはともかく今は沖田さんが江戸にいるんだし、次に産まれてくる子供のためにもしっかりとしておいた方がいいですよ」子供のためと言われると、さしもの神楽もいい加減な言動は出来ない。
幸い銀時や新八といった父親代わりがそばにいたため、総楽も寂しい思いをすることはなかったが、本来ならば家族は同じ場所で暮らすものだ。
父や母と過ごした懐かしい記憶を思い出した神楽は、上目遣いに沖田の顔を見つめる。
成長すれば子供達は親元を離れていくのだから、一緒にいられる時間は確かに大切かもしれなかった。
「じゃあ、してみるアルか、結婚」
「俺は別にかまいませんぜ」
ようやく話がまとまり始め、ほっと息を付いた新八だったが、連打されたチャイムの音に体をびくつかせた。
姉の妙はチャイムを鳴らさずとも鍵を持っており、銀時は大工仕事のバイトに行っているはずだ。
そして、こうして乱暴にチャイムを鳴らす者は、新八の知る上で一人しかいない。「おう、久しぶりだな」
家の人間が門を開閉する前に、塀を乗り越えて入ってきたのか、庭先から星海坊主が顔を出した。
「ぼ、ぼ、坊主さん・・・・」
思わずどもってしまった新八だったが、星海坊主は我が家のような気安さで縁側から上がり込む。
そして、神楽と並んで立つ沖田を見やると、怪訝そうに眉をひそめた。
「・・・・どこかで見た顔だな」
「い、今は私服ですけど、真選組の隊長さんなんですよ。屯所で会ったんじゃないですか?」
「そうか。で、何でその隊長さんがここにいるんだ」
「あの、それは、その・・・・」
しどろもどろになった新八に代わり、一歩前へと進み出た神楽は笑顔で沖田を指し示した。
「こいつは私の婿ネ。今度結婚することにしたアルヨ」あまりにストレートな物言いに仰天した新八だったが、それ以上に驚いたのは目を皿のようにした星海坊主だろう。
「何ーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「もう子供がお腹にいるアル」
追い打ちを掛ける一言に、星海坊主は口をぱくぱくと動かしたが肝心の声が出ていない。
衝撃が強すぎたのか、そのまま前方に倒れ込んだ星海坊主に皆が慌てて駆け寄った。
「パピー!」
「ぼ、坊主さん、しっかりーーー!!!傷は浅いですー!」
「お爺様!!」
わいわいと騒ぐ3人を遠巻きに眺め、沖田は頬をかきながら呟きを漏らす。
「出来るのかねェ・・・、結婚」
あとがき??
つ、続く・・・・・。まさに修羅場か。
この先の展開はあまり考えてないです。(^_^;)
たぶん、沖田VS星海坊主+ギャラリー&賞品の神楽って感じ。
元ネタのハレグゥの通りなので、原作を読めばどうなるか分かりますよ〜。