そら 12


快晴の空の下、夏は盆踊り大会、冬は雪祭りが開かれる広場には歌舞伎町の住人が多数集まっていた。
出店も多数並んでいたが、秋という季節を考えるとどちらの催しが行われても不自然だ。
おそらく、この場にいる誰もがただの祭り好きで、何かあるのか正確には分かっていないに違いない。
そのうち「マイクテス、マイクテス〜、マイクのテスト中〜」という音声がスピーカーから流れ、やる気のないだらけた声があとに続いた。

 

「え〜、ただいまから『第一回神楽争奪戦』を始めたいと思います〜〜、皆様応援どうぞよろしく〜」
広場では歓声があがり、取り敢えず盛り上がってはいるらしい。
銀時がマイクの音を切ると、結婚騒動が町内単位まで広がったことに呆れていた新八がようやく突っ込みを入れた。
「ちょっと銀さん、何なんですか、これは!」
「神楽の父ちゃんから司会進行を頼まれたんだよ。これも万事屋の仕事のうちだ」
銀時は司会を受け持ちながらも、パチンコ仲間の長谷川と焼きそばの屋台を出して金を稼ごうという魂胆らしい。
よく見ると、キャサリンは売れ残った定ちゃん饅頭を売りさばき、お登勢やお妙の勤める店も何らかの商売をしている。
理由は何であれ、飲んで食べて騒ぎたいというのが歌舞伎町全体の思いのようだ。

「・・・第一回って、第二回や三回もやるつもりなのか」
ため息をついた新八が傍らを見ると、賞品である神楽が派手な衣装と念入りなメイクで特等席に座っている。
彼女の意思に関係なく、その身柄は勝者の手に渡るというのに余裕の笑顔だ。
「随分とのりのりだね、神楽ちゃん」
「うん、楽しいアル〜。私のために、争わないで〜〜♪って感じアルか」
「それがもうすぐ二児の母親になる人の台詞ですか・・・」
「新八、これ、美味しいー」
神楽のオプションとして、同じく特等席に座る総楽は、口の周りに青のりを付けながらたこ焼きを頬張っている。
この先何が起こるか分かっておらず、その笑顔は無邪気なものだ。

 

 

「沖田さん、大丈夫なのかな・・・」
『第一回神楽争奪戦』の出場者の待機場所へと目をやると、やる気満々の星海坊主、娘婿になる予定の沖田、そしておどおどと周りを見回す山崎の姿があった。
「あれ?」
首を傾げた新八は、怪訝そうに山崎に歩み寄った。
「何で山崎さんまでここにいるんですか?」
「知りませんよ。沖田さんのお目付役としてくっついてきたら、星海坊主さんが参加しろって無理矢理・・・・」
「眼鏡、お前も出るんだぞ!」
星海坊主に肩を叩かれた新八は、驚きに目を丸くする。
「ええ!?聞いていませんよ、そんなの」
「味方は沢山いた方がいいからな。お前だって神楽のことは大事だろう」
「はあ、まあ・・・・」
「あいつにだけは、神楽は渡さん!」
言葉と共に、星海坊主は沖田の横顔を睨み付けた。
必要以上に敵意の眼差しを向けているのは、彼が総楽の父親であることに気づいたからだろう。
戻ってきたとはいえ、一度は孕んだ神楽を置いていなくなったのだから、親として許せるはずがない。
対して、沖田の方はといえば殺気を含んだ星海坊主の視線を無視して、総楽に買い与えた物と同じたこ焼きを黙々と食べ続けていた。

「面倒くせェ・・・・」
何かに熱中するということが少ない彼にすれば、自分以外の者のために体を動かすのは非情に億劫だ。
このまま逃げ出してどこかで昼寝をしたいのは山々だが、そうなると一生神楽と結婚は出来ない。
結婚という制度に興味が無くとも、神楽とずっと一緒にいる約束をするのは少しばかり魅力的だった。
「沖田さん、新八くんも参加するみたいですよ。大丈夫ですかね」
山崎は心配そうに沖田の袖を引っぱったが、沖田は鼻で笑う。
「心配するない。誰が勝っても、あいつが他の男に付いていくはずが・・・・」
たこ焼きを食べ終わった沖田が顔を上げると、丁度特等席にいた神楽が出場者の待機場所にやってきたところだった。

 

「新八も参加するアルか!?」
「・・・まあ、成り行きで」
本当は星海坊主が怖くて断れないだけなのだが、新八が頭をかきながら答えると、神楽は満面の笑みを浮かべて彼に飛びついた。
「頑張るアル。応援してるアルヨ〜v」
「もー、神楽ちゃんが応援するのは僕じゃないでしょう」
背中に手を回してきた神楽に、新八は窘めるようにして言う。
長い付き合いの彼らは兄妹も同然の間柄だ。
神楽にすればペットである定春にじゃれつくのと同じ感覚なのだろうが、傍目にはラブラブにしか見えない。

「・・・・本当に大丈夫ですか?」
「・・・・」
彼らの様子を眺めつつ、もう一度繰り返した山崎に沖田は無言の返事をする。
神楽の性格からして、沖田が負けて新八が勝てば、素直にそっちになびいてしまいそうな気もした。
顔は無表情のままだが、静かに闘志を燃やす沖田は握り拳を作って気合いを入れる。
ここは、無理をしない程度に頑張る必要があるようだった。


あとがき??
沖田くんの最大のライバルは星海坊主ではなく、新八なのですよ。(笑)
つ、つづいてしまいました。珍しく銀ちゃんがいますね。
そらシリーズに銀ちゃんがあんまり出てこないのは、私が4人以上の人間が登場する
SSを書くのが苦手だからです。
あと、愛がありすぎて、銀ちゃん書くのが苦手・・・。


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