そら 13
どこから予算を集めたのか、『第一回神楽争奪戦』の出場者はボタンを押して回答するクイズ番組のようなセットに座らされていた。
これから様々な競技が行われ、一番ポイントが高かった者が神楽をゲットできるというルールらしい。
まずはセットに合わせたクイズ形式の種目から始まるようだ。「えー、神楽についてどれだけ知っているかのチェックです。神楽のスリーサイズは?」
司会の銀時が言い終える前に、素早くボタンが押される。
「上から、90、56、88でさァ」
「ぴったりアル!!」
「正解です〜」
驚きの声を上げる神楽の反応を見て、銀時が判定を下した。
歯ぎしりをする星海坊主は、殺気のこもる眼差しを正解者である沖田に向ける。
「何でお前がそんなこと知ってるんだよ」
「触っていれば大体分かるもんでさァ」
「なにぃ!!」
一触即発の雰囲気の中、銀時はマイクの音量を大にして繰り返す。
「そこ、静かに、静かにーー」
ざわつく会場を見回した星海坊主は、何とか怒りを抑えて自分の席に戻った。
とにかく、勝ちさえすればこの男との縁は切れるのだから、もう暫くの我慢だ。
「次は、皆さんそれぞれ自分の言葉で神楽を喜ばせてください。新八達はプロポーズの言葉、親父さんは娘を讃える言葉だな。判定は神楽、お前がやるんだぞ」
「分かったアル」
銀時に数字の札を渡された神楽はしっかりと頷いた。
「まず一人目はそこの・・・、地味な人」
「山崎です!!!地味地味言うの、やめてくださいよ!」
銀時に指をさされた山崎は、思わず声を荒げて主張する。
思えば、結構長い付き合いになるが、山崎は銀時に一度も名前で呼んでもらったことがなかった。「ああ、そうそう。じゃあ、山崎くん、どうぞー」
「全くもう・・・・」
改めて神楽を見やった山崎だったが、恋人のいない山崎には女性が喜ぶ言葉などまるで分からない。
「えーと、炊事、洗濯、家事全般得意なので、僕に任せてください」
『39点』
取り敢えず、自分の得意なことでアピールしたのだが、神楽の判定は辛辣だった。
「低!!」
「んー、やっぱりどちらか一方じゃなくて、恋人とはお互いに努力したいアルヨ」
「・・・・・家では新八を奴隷のようにこき使っているだろ」
ぼそぼそと呟いた銀時を、神楽は鋭い目つきで睨み付ける。
「何か言ったアルか?」
「別に」
「通販で買った卵割り器、譲ってやってもいいですぜ」
自分の番になった沖田がさらりと言うと、神楽は頬を緩めて得点を出した。
『90点』
「ええーーーー、何、その高得点!?」
「卵割り器は大事アル!!!」
新八の疑問に、神楽は真顔で応える。
何が良いのか悪いのか、彼女の基準が全く分からない。
ちなみに、星海坊主は「段々、顔が俺に似てきたな」という彼なりの褒め言葉(?)でマイナス30点という屈辱的な点数だった。
やはり神楽を一番喜ばすことが出来るのは、彼女と過ごした時間が長い新八のようだ。
「神楽ちゃん、いくら食べても止めないよ」
『100点満点v』
その後も玉入れ競争やパン食い競争など、普通の運動会のような競技が続き、これまで獲得したポイントの合計が発表された。
身体能力が高いとはいえ、沖田と星海坊主は互いに足の引っ張り合いをしたため得点が伸びず、新八と山崎が同率一位となっている。
だが、彼らの差は最期の競技で入れ替わることが可能な程度のものだ。「では、いよいよ最期の競技になりました。今回は出場者の方でなく、ここに集まった皆様に協力して頂きます。神楽を一番幸せに出来ると思った人物に投票してくださいー」
会場にいる人々にはすでに投票用紙が配られ、中心には投票箱が置かれている。
この町の住人ではない星海坊主は知名度の点でいささか不利だったが、乱暴な検挙を行うせいか、巷の評判が頗る悪い沖田の方が問題だった。
「まずいんじゃないですか、沖田さん・・・・。あれ、沖田さん」
山崎が傍らを見ると、沖田の姿が忽然と消えている。
首を巡らすと、沖田は町でごろつきと呼ばれている集団に向かって刀をちらつかせて脅しをかけていた。
「逮捕されたくなかったら、俺に投票しな」
「へ、へぇ・・・・」
「沖田さんーーーーー!!!職権乱用はやめてくださいーーーー!!また副長に怒られますよ」沖田の行動を横目で見ていた星海坊主は忌々しそうに舌打ちをする。
「ちっ、権力を行使するたぁ、なんて卑怯な奴だ」
ぶつぶつと呟く星海坊主は、屋台で買った綿飴を食べる子供達に近づいていく。
「おいお前ら」
「何―?」
「これをやるから、俺に票を入れな」
「うん、分かった」
紙幣の束を渡され、子供達は無邪気な笑顔を浮かべて頷いた。
端で見ていた新八は彼らの行動に呆れるばかりだ。
「坊主さんの方が腹黒ですよ・・・・」
あとがき??
いよいよ次回結果発表―。果たして、坊主さんと沖田くんは仲良し親子になれるのか。
こんなに長い話になるなんて・・・。すみません。