そら 2


「へー、じゃあ、お前さん達親子は万事屋じゃなくて、お妙さんの家に住んでいるのかい」
「ええ。僕が産まれたとき「鳴き声が煩い」って苦情が来たので、敷地の広い志村家に母上と一緒に移ったんです。それ以来居ついてしまって」
お茶とお菓子をぱくつく総楽は、はきはきと近藤の問いかけに答える。
万事屋の給料が少ないためか、総楽の着ているものは全て新八のお下がりだ。
それでも貧弱な見た目にならないのは、顔立ちが他の子供より整っており、どんなものでもそれなりに着こなしてしまうせいかもしれない。
「いつでも、うちに遊びに来ていいからな」
「はい」
頭を撫でる近藤に、総楽はにっこりと笑う。
もともと子供好きの近藤は総楽をよく可愛がり、総楽の方も彼の言葉に甘えて屯所をよく訪れている。
志村家や万事屋にいるときよりも菓子の質がいいというのも頻繁に足を向ける理由だった。

 

「・・・・・なんでェ、また来てたのかい」
座敷にやってきた沖田は、近藤と並んで座る総楽を見るとその向かい側に座布団を持ってくる。
総楽用に用意した煎餅を口に運ぶ沖田を気にせず、近藤は話の続きを総楽に促した。
「で、どんな感じなんだい、その、家での新八くんとチャイナさんの雰囲気は。三人で歩くと、親子に間違えられるそうだが」
「・・・・」
妙な話題のときに入ってきてしまったらしい。
近藤の茶を自分の手元に引きずった沖田は、自分でも知らぬうちに話に聞き入る。
「普通ですよ。母上がお腹がすいただの、肩をもめだの、新八をこき使っている感じで。新八が可哀相です」
「なんだ、じゃあ一緒に暮らしていてもラブラブってわけじゃないんだな。良かったなー、総悟」
「・・・・・別に」
にこにこ顔で自分を見た近藤に、沖田は素っ気なく答える。
内心ホッとしたとは、絶対に言えない。

「そうだ総悟、今日はお前、非番だろ。総楽ちゃんと一緒にチャイナさんに会いに行ったらどうだ。やっぱり親子ってのは一緒にいた方がいいと思うぞ、うん」
「えっ・・・・」
「そうですねー。母上がそろそろ起きてくる時間ですし、今帰れば丁度いいです」
戸惑う沖田を気にせず、時計を見た総楽は立ち上がって彼を促す。
「行きましょう、父上」

 

 

 

一日大好きな昼寝をして過ごす予定だった沖田は、よく分からないうちに志村家に向かうことになっていた。
私服の袴姿で、傍らには総楽が付き従って歩いている。
何故か敵のアジトに乗り込むときよりも緊張する心持だ。
「おい」
「なんでしょう」
「お前何であのとき、俺が父親だと思ったんでェ」
「・・・ああ」
初めて会ったときのことを言われているのだと気づいた総楽は、小さく頷いてから沖田を見やる。
「新八に父上について聞いたことがあるんですよ。そうしたら、真選組の隊長をしていて、剣の腕は立つけれど根性悪だと言っていたので、あなただろうかと。容姿もなんとなく僕に似ていたし」
「・・・・へェ」
「それに母上が」

何かを言いかけて、総楽はふいに立ち止まった。
すぐ目の前にあるのは、塀に囲まれた中流階級の武家の住居だ。
「ここが志村の家です」
「・・・そうかい」
総楽はそれまでの会話を忘れたかのように、すたすたと中に入っていく。
なんとなく続きが気になったものの、沖田は総楽の背中を追いかけて敷地内に足を踏み入れた。
そして最初に耳に入ったのは、寝起きらしい神楽と、それに続く新八の声だ。

 

「新八ー、まだ眠いアルーー」
「駄目、もう9時過ぎてるしあんまり寝ると馬鹿になるよ。早く顔を洗ってきてよ」
「んー・・・・」
二人は沖田と総楽が庭先から様子を窺っているとは知らず、いつもどおりの会話を繰り返している。
キャミソールとショーツのみという薄着の神楽は、新八の背中にべったりとしがみついた。
「今日のおかずは何アルか?」
「神楽ちゃんの好きな甘い玉子焼きと、焼き魚だよ」
「わーい、新八はいい子ネーvvやれば出来る子アルよー」
「はいはい」
神楽がくっついたまま、苦笑する新八は廊下を横切って洗面台へと向かう。
始終ベタベタとした新八と神楽の朝の光景を目撃した沖田は、唖然としてすぐには声が出せなかった。

「・・・・おい」
「なんでしょう」
「あれのどこが普通なんでェ。ラブラブじゃねーかい」
「あの二人は昔からずっとあんな感じですよ。あれが普通です」
あっさりと答えた総楽に、沖田は少なからず衝撃を受ける。
あれでは勝てる気が全くしない。
自分には一度も見せたことのない明るい笑顔を、神楽は惜しげもなく新八に向けているのだから絶望的だ。
一気にテンションの下がった沖田に気づく風もなく、総楽は家の中へと駆け込んでいった。

「母上ー、父上が来ましたよーー」
沖田が青い顔で総楽の口をふさごうとしたときには、もう遅い。
キャミソール姿の神楽は鬼のように表情を険しくして玄関先へとやってきた。
「出入りアルか!!」
「・・・・俺はヤクザじゃねーやい」


あとがき??
まだ続くらしい。なかなか沖神にならないな・・・・。
元ネタはハレグゥ。クライヴ先生=沖田くん、ウェダ=神楽ちゃん、アシオ=新八。
総楽ちゃんはハレとグゥを足して割った感じで。
ちなみに、このシリーズの新八と神楽ちゃんは親子みたいな関係なので、恋愛感情はないです。
ただ、お母さん(新八)に懐く子供(神楽ちゃん)のような。


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