そら 4


「とにかく、さいてーな男だったアル!顔がいいだけの性格破綻者。あいつにのせいで、私の人生めちゃくちゃヨ」
以前、総楽が自分の父親について訊ねたとき、神楽は顔をしかめながらそう言った。
「他人が苦しんでいる姿を見るのが何より好きで、私も散々嫌がらせをされたアル。もちろん、倍にしてやり返してやったネ」
「・・・はあ」
「でも、あいつも一つだけいいことをしたアル」
握り拳を作って力説していた神楽は、ふいに表情を和らげて総楽の頭を撫でる。
「私に総楽をくれたネ。それだけは感謝してるアルヨ」
明るく笑った神楽に釣られて、総楽も微笑みを浮かべる。
新八にも同様の質問をしてみたが、父親についての評価はすこぶる悪く、総楽はひどく怖い人なのだという印象を持っていたのだ。
だが実際に会ってみて、沖田は総楽の想像とはまるで違っていた。

 

 

「食うかい?」
「はい」
頷く総楽を見た沖田は、端にそれぞれ棒が付き、真ん中で割れるようになっているアイスの片割れを彼女に渡す。
道場で汗を流したあとのアイスは格別美味しかった。
ちらりと様子を窺ったが、沖田は
TV画面のドラマに夢中のようで、あまり総楽に関心を示さない。
それでも、邪魔にされている様子もなかった。
沖田から話しかけてくることは滅多になく、どこに行くにも総楽が勝手に付いていくだけだが、彼はよく笑いかけてくれる気がする。
総楽がいることを確認するように、少し歩いては振り返る沖田の横顔を彼女は一番気に入っていた。

「沖田隊長も、やっぱり自分の子供は可愛いんですねぇ」
「本当にな」
座敷で並んで
TVを見る親子の後ろ姿に、山崎と近藤はしきりに感心している。
女子供が相手でも容赦なく虐める沖田の性質を知っている二人にすれば、総楽に自分のアイスを分ける彼の姿は驚愕だった。
沖田は基本的に、他人の物は自分の物、自分の物は自分の物という考え方の人間だ。
今のところ、総楽が何らかの被害を被っているのを見たことはなく、むしろ優しく接しているように感じられた。

「違うな。あいつはやっぱり、自分が一番なんだ」
すたすたと近藤達の脇を通り過ぎた土方の言葉が、3人の中で最も的を射ていたかもしれない。
長い付き合いで誰よりも沖田の被害を被っている土方だからこそ分かる。
同じ顔をしている総楽を虐めれば、自分が苦しんでいるようで楽しくないというのが沖田の心境に違いなかった。

 

 

 

「お前、何で男の格好なんかしてるんでェ」
「ああ・・・」
夕暮れの道を沖田と連れ立って歩きながら、総楽は自分の着物の袂へ目を向けた。
そもそも彼女が「僕」という一人称を使ったり、袴をつけていなければ男児に間違うことはなかったのだ。
万事屋の収入が少なく、子供服にまで手が回らない悲惨な状況なのだろうかと考えたが、沖田の予想はすぐにうち消される。
「母上はちゃんと女の子の服も用意してくれたんですよ。でも、僕は」
少しの間を空けると、総楽は声のトーンを落として先を続ける。
「新八と同じが良かったんです・・・・」

言葉に今までと違う微妙な含みが感じられて、沖田は傍らの総楽を見やった。
傘に隠れてよく分からないが、総楽の頬が僅かに赤くなっている。
考えてみれば、総楽の口調はそのまま新八を真似したもので、髪型も同じ、着ている物も彼のお下がりだ。
「・・・お前、あの眼鏡が好きなのかい」
「大好き」
にっこりと笑った総楽の顔が、面立ちは異なるが、新八の隣りにいるときの神楽の笑顔と重なる。
どうやら二人揃って新八には絶大な信頼を寄せているらしい。
6年の間、父親の沖田に変わって総楽の面倒を一手に引き受けていたのだから、当然といえば当然だろうか。
頭で納得しても、人の良さそうな新八の顔を頭に思い浮かべると、沖田は急に胸が悪くなった。

 

 

「総楽ちゃん、お帰りー」
志村家にたどり着くと、エプロン姿の新八がすぐに飛び出してくる。
駆け寄った総楽が抱きついて「ただいま」と言えば、誰の目にも親子としか映らない情景だ。
「沖田さんも、わざわざ送って頂いてありが・・・わっ!!」
殺気を感じた新八が抱えた総楽ごと脇に避けると、煌めく刃が彼の頬をかすめる。
目にも留まらぬ抜刀術を使ったのは眼前にいる沖田だ。
「な、な、何するんですか、突然!!」
鼓動の早くなった胸を片手で押さえる新八の耳に、「チッ」と舌打ちの音が聞こえてくる。
少しばかり痛めつけてやろうと思ったが、見かけと違って意外に勘は鋭い方だったらしい。

「両方とも、お前さんにはやりませんぜ」
「・・・・は??何のことです」
本当に分からないといった様子で聞き返した新八を無視して、沖田は踵を返す。
背中に視線は感じていたが、神楽と総楽、どちらが新八と親しくしていても面白くない。
今夜からは、わら人形で呪詛する人間が土方の他にもう一人増えそうだった。


あとがき??
どうやって総楽が出来たのか、知りたいなぁと思いました。(他人事のように・・・・)
書きたいこと書けたので一応終了。
続きは、まあ、ご要望がいくらかあればということで。
ちなみに総楽ちゃんは将来、新八のお嫁さんになるんですよ。年齢差17歳。(笑)
NARUTOで書いているパラレル未来シリーズ、某カップルと同じイメージです。


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