そら 5
ある日、いつものように沖田に会いに屯所に行った総楽が、家を出たときと違う服を着て帰ってきた。
沖田と町をぶらついたときに買ってもらったらしい。
白い布地に花の刺繍の付いたワンピースに、同じ柄のリボンが付いた麦わら帽子もセットでかぶっている。
梅雨が明けて晴天続きの毎日には丁度良い夏服だ。
男の子のような着物姿ばかりを見ていただけに、新八と神楽は目を丸くしてしまった。「・・・・・変?」
玄関先で自分を凝視したまま動かない新八に、総楽はおずおずと訊ねる。
「えっ、そんなことないよ。うん、びっくりしたけど、可愛い。やっぱり女の子はそういう格好がいいね」
総楽の言葉を慌てて否定すると、新八は明るい笑顔を浮かべてみせる。
安心した総楽が嬉しそうに顔を綻ばせたのは、褒めてくれたのが大好きな新八だったからだ。
はき慣れないスカートは足下が涼しく落ち着かなかったが、新八から「可愛い」という言葉を聞ければ全て満足だった。
「総楽には随分と優しいアルね・・・」
総楽に続き、後から門をくぐって入ってきた沖田を神楽は意外そうに見やった。
「可愛い女の子には優しくするよう、近藤さんに言われてるんでさァ」
「お前の目の前にも、とびきりの可愛い子がいるアルヨ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・お前やっぱり嫌な奴ね」
自分を見つめたまま黙り込む沖田に、神楽は頬を膨らませて言う。
そのまま立ち去ろうとした矢先、彼の手が神楽の髪に触れた。「帽子と靴と鞄もまとめて買ったら、おまけでもらったんでェ」
驚いた神楽はすぐに頭に手をやったが、鏡がなければそこに何があるか確認出来ない。
桃色の髪に蝶々の形をした髪飾りを留まらせた沖田は、満足そうに口端を緩めた。
店員の口車に乗せられて随分前に買ったものだが、ようやく渡せる。
顔を上げた神楽は微笑を浮かべており、昔は花より団子だった彼女も、装飾具に興味を持つようになったのかと思った。
実際は、沖田が珍しく笑ったのを見て、それに釣られたのだが彼が気づくことはない。
以来、神楽の髪には硝子細工の蝶々がよく留まっている。
万事屋に仕事が入るのは相変わらず稀で、その日新八は実家で掃除と洗濯に精を出していた。
ふと座敷を覗くと、縁側に続く板敷きの上に神楽が座って空を見上げている。
天気予報によると今は曇っているが、午後から太陽が顔を出すらしい。「総楽ちゃんは?」
「また、あいつのところネ。こんなに入り浸っていると性格まであいつに似てきそうで怖いアル」
神楽は頬を膨らませて悪態を付いた。
「総楽ばっかり、ずるいアル。この前もお菓子を山ほど買ってもらって帰ってきたアルヨ」
「あれは総楽ちゃんっていうより、神楽ちゃんが食べる用に買ったんだと思うけど・・・・・。そんなに気になるなら、一緒に屯所に行けばいいんじゃないの」
「嫌アル。私だけ追い出されるに決まってるネ」
「ふーん・・・・」
そんなことはないだろうと思いつつ、新八はあえて言葉にはしなかった。
「じゃあ、この洗濯物を干すの手伝ってよ。暇なんでしょう」
究極に不器用な神楽は、布を破くことを考慮して、主にタオル干しばかりを頼まれた。
雲が空を覆ううちに干さなければ日の光に弱い神楽はすぐに具合が悪くなる。
ハンガーにシャツをかけていた新八は、突然後ろから体当たりをされ、前のめりに倒れかけた。
神楽は軽い力でやったのだろうが、新八にすればかなりの衝撃だ。「新八ーー」
「ど、どうしたの」
「何だか私、変アル・・・・」
新八の背中にくっつく神楽は、手を彼の腹部に回してくる。
銀時や新八はよくこうして抱きつかれるが、昔と違い、背中に当たる彼女の胸の感触に緊張してしまう。
嬉しいような、困るような、不思議な感覚だ。「神楽ちゃん?」
「新八とならこうやっても全然平気ネ。でも、あいつが触ると違う感じがするアル」
狼狽える新八の気持ちなど知らず、神楽は思い詰めたような声音で続ける。
「ドキドキして、顔が熱くなるネ。私、病気アルか」
「・・・・・」
新八が神楽の手を解いて振り向くと、彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
からかっているわけではなく、どうやら真剣らしい。
「あー・・・、それは病気じゃないから、安心していいよ。誰でも経験することだから」
「本当アルか」
「うん」
これでどうやって子供を作ったのだろうかと考えながら、新八は不安げに俯く神楽の頭に手を置く。
総楽のためにも、二人が仲良くなるのはいいことだ。
だが、妹同然の神楽が彼に惹かれ始めたと思うと、それはそれで複雑な心境の新八だった。
あとがき??
続きを見たいーとおっしゃってくださった皆様、有り難うございましたv
相変わらず、私の「新八大好き」パワーが伝わってくるSSのような気がします・・・・。
沖神のはずが、新八とのラブ度の方が高いよ。あれ。