そら 7
さぼり魔の沖田が久しぶりに仕事をして戻ると、屯所内がどこか騒然とした印象だった。
皆が廊下をせわしなく動き回り、沖田の姿など目に入っていないかのようだ。
大方、幕府直轄警察庁長官の松平片栗虎あたりが突然やってきて、もてなすのに必死なのだろう。
「ん?」
柱の影に何か落ちているのを見た沖田は、かがみ込んでそれを拾い上げる。
山崎が廊下の角から顔を出したのはそのときだ。
「あ、沖田さん、大変ですよー。あの馬鹿皇子、いや、ハタ皇子がまた妙な生き物を持ち込んだみたいで大騒ぎが・・・・沖田さん?」
自分の言葉にまるで無反応な沖田の様子に、山崎は怪訝そうに近寄った。
沖田がなにやら熱心に眺めているのは手元の写真だ。
後ろから写真を覗き込んだ山崎は、さらに不思議そうな顔になった。
「チャイナさんじゃないですか。沖田さん、チャイナさんの写真持ち歩いたりしてるんですかー」
「俺のじゃねーやィ」
からかうような口調で自分を見る山崎に、沖田は乱暴に答える。
だが、写真の中央に写っているのは確かに神楽だ。
ピンクの髪をおだんごに結わえ、チャイナドレスで、赤い傘も持っている。
問題は神楽というより、その隣り、彼女の肩を抱いて親しげな様子で写っている若い男の方だった。「・・・・あれ、それって副長ですか?」
「お前にもそう見えるかィ」
写真を凝視する沖田は、眉をひそめて呟く。
写真には二人の人物が写っているのだが、その片割れである黒髪の男は、どう見ても土方だった。
私服は着流しのみと決めているはずの彼が、神楽とおそろいの中華系の服を着ているのが謎だが、元々男前なためによく似合っている。
暫くの沈黙のあと、山崎は急に一歩その場から退き、小さく首を振った。
「あ、あの・・・・、俺、何も見ていませんから」
沖田といい雰囲気になった(はず)の神楽が、他の男ともこうして笑顔で写真に写っているとは大問題だ。
しかもそれが沖田と長いつきあいである土方となると、修羅場の予感がした。
なるべくなら、巻き込まれたくない。
「どーした?」
突然背後から聞こえた声に、山崎は心臓が口から飛び出そうになる。
毎日怒鳴られているのだから聞き間違えるはずがなく、恐る恐る振り返ると、煙草を銜えて見慣れた顔がそこにあった。
「ふ、ふ、副長・・・・」
「怪しいな。また何か妙な悪ふざけの計画を立ててやがったのか」
言葉と同時に沖田をじろりと睨め付けたが、彼は何も言わず土方の顔を見つめている。
口から先に生まれたような沖田が、土方を見て嫌味の一つも言わないとは珍しい。
「・・・総悟?」
「ロリコン副長」ぽかんとした顔になった土方と残し、沖田は無表情のまますたすたと彼に背を向けて歩いていく。
「何のことだよ・・・」
「イタタタタタッ、俺じゃない、俺が言ったんじゃないっすよ!」
土方にヘッドロックをされた山崎は泣きそうな声で「ギブ、ギブ!」と繰り返している。
玄関へと向かう沖田の耳にも山崎の悲鳴は届いていたが、それどころではない。
写真が何故廊下に落ちていたかは分からないが、気になることは本人に会って訊ねるのが一番だった。
「あっ、沖田さん!」
真っ直ぐに神楽のいる万事屋へと向かおうとした沖田は、途中、ばたばたと駆けてきた新八に出くわす。
一見して、いつも彼にくっついている総楽の姿は近くになかった。
「捜していたんですよ。いつもの公園や駄菓子屋にはいないし・・・」
「何でェ、何か急用かィ」
「そうです、急用です!」
新八は懐から出した封筒を沖田に突きつけた。
「神楽ちゃんからのメッセージです。よーく読んで、絶対に守ってくださいね」
「はァ?」
真剣な表情の新八に生返事をし、沖田は中の封を開く。
便せんに書かれていたのはたどたどしい神楽の字、文章は単純で3秒もしないうちに読み終えることが出来た。『当分、私や総楽の周りに現れないで欲しいアル 神楽』
「・・・・・・」
「そういうわけです。じゃあ」
「待ちなせェ、理由は」
突然絶縁状を叩き付けられたところで、納得出来るはずがない。
しかも、あの写真のことも何一つ分かっていないのだ。
「理由は・・・・・その顔ですよ」
沖田の顔をまじまじと見た新八は、困ったように眉を寄せて言った。
「ちょっと急いでるんで。また今度話しましょう」
遠ざかっていく新八の後ろ姿の見送る沖田の横顔はどこか切なげだ。
今すぐ神楽を問いつめたいのは山々だが、彼女の言いつけを守らなければ、あとが怖い。
まあ、それもまた次に会うことが出来たらの話だった。
あとがき??
前・後編になっちゃいましたよ。あれ。