そら 8


まず、写真からの情報をもとにして推理することにした。
神楽は赤いチャイナ服、新八や総楽といるときにしか見せない自然な笑顔だ。
土方とよく似た男(もしくは本人)は神楽の肩を抱いて、これまた笑っている。
どう見ても恋人同士、または夫婦を撮影したものに間違いなかった。
「・・・・いけねェ、いけねェ」
反射的に写真を破きそうになった沖田は、何とか気持ちを落ち着ける。
百歩譲って、神楽が別の男と楽しくデートしていたとしても、写っている背景がまた問題なのだ。
「これって、宇宙だよなァ」
二人のいる上空に月らしきものが二つあり、地球ではけしてあり得ない風景だった。

 

 

「邪魔するぜ」
言葉と共に屯所に入ってきたのは、ハタ皇子が連れ込んだ危険生物の駆除ために地球を訪れた、星海坊主こと神楽の父だ。
挨拶がてら近藤と土方に会いに屯所を訪れ、一時間ほど前に帰ったばかりのはずだった。
「あれ、坊主さん、どうしたんですか?」
「忘れ物をした」
丁度玄関で自分の革靴を磨いていた山崎は、履物を脱いでどたどたと屯所の廊下を歩き出した彼の後ろに付いて歩く。
「あの、忘れ物って、どんなものですか?」
「写真だよ、写真」
「・・・・・・写真って」
山崎の頭に、沖田が拾ったという土方とよく似た男(もしくは本人)と神楽が写った写真が浮かんだ。
確かに、神楽の父ならば彼女の写真を持っていてもおかしくない。

「捜すの手伝いますよ。ど、どんな写真なんですか?」
「女房と新婚旅行中に撮った写真だ。手帳に挟んでいつも持ち歩いていたんだが、さっき、ここでスケジュールを確認したときに落とし・・・・・どうした?」
山崎が目を丸くして自分を見ていることに気づいた星海坊主は、怪訝そうに訊ねた。
「あ、あの、チャイナさん、いえ、坊主さんのお嬢さんってお母様に似ているんですか?」
「ああ、年々そっくりになっていくな。それがどうした」
「・・・・・・・」
衝撃のあまり、山崎は口をぱくぱくとさせるだけで声が出ない。
話を総合すると、沖田の拾った写真に写っていた神楽は彼女ではなくその母親、隣りに写っていた土方とよく似た男の正体は、星海坊主だったのだ。
山崎の目の前にいるのは、髪がすっかりはげ上がった冴えない中年男で、いくらなんでもこの変貌は「詐欺だ!」としか言えない。

「坊主さんって、昔は毛があったんですね・・・・」
ようやくそれだけ言葉に出来た山崎に、星海坊主は暫しの間を空けて微笑んだ。
「喧嘩売ってんなら買うぞ、この野郎」

 

 

 

久しぶりに地球にやってきた星海坊主を歓迎するため、志村家では焼き肉パーティーの準備が行われていた。
殆どが野菜、肉は僅かだったが皆が集まるということに意義があるのだ。
新八の手伝いで野菜を洗っていた神楽は、時計を見て「遅いアルネー」と呟く。
パーティーの主役である星海坊主は、行き先も告げず、ふらりと外に出たままなかなか帰ってこなかった。
「せっかく新八がパピーのために急いで材料買いに行ったのに、どこに行ったアルか」
「まあまあ、焼き肉パーティーをやるってことは伝えてあるし、大丈夫だよ。もうすぐ戻ってくるって」
「・・・それもそうネ」
小さく頷いた神楽は、足下にいた総楽に服の裾を引っぱられ、振り返る。
今日は新八や神楽から屯所に行くことを止められ、ずっとふくれ面のままだ。

「いつになったら、父上に会いに行っていいんですか?」
「パピーが帰ったあとアルヨ」
「総楽ちゃんと沖田さんが一緒にいるところを見られたら、沖田さんが坊主さんに殺されちゃうんだよ」
「お爺様はお優しい方です。そんなことしません」
ぷいと顔を背けると、総楽はとたとたと歩いて台所から出ていってしまう。
滅多に顔を見せないが、星海坊主は地球に来るたびに大量の玩具やお菓子を買ってくれる、大好きな祖父なのだ。
沖田に会ってはいけないと言われたり、星海坊主の前で彼の話を禁止される理由は、総楽にはまだよく分からない。
「・・・・怒らせちゃったよ」
「でも、本当のことアル」

 

6年前、神楽に子供が出来たと知った星海坊主は「娘を傷物にしたのは誰だーーー!!!」と万事屋に怒鳴り込んできた。
万事屋の事務所が半壊した上に、疑われた新八は重傷を負い、3ヶ月も入院生活をしたのは思い出したくない過去だ。
孫である総楽は可愛いらしいが、その父親のことは今でも憎んでいるらしく、顔を見たら殺すと息巻いている。
嫁入り前の愛娘を孕ませてとんずらしたという最悪な印象を持っているのだから、当然だろうか。
何しろ、沖田と総楽はうり二つの風貌だ。
もちろん性別や年齢が違うために雰囲気は異なるが、並べば親子だということは一目瞭然だった。

 

 

 

「・・・・・・・何か用があるなら、口で言え」
「いえ」
星海坊主が帰ったあと、座敷で
TVを見る土方の顔を凝視していた沖田と山崎は、小さく首を振って応えた。
あの写真の星海坊主だとするならば、土方も数年でああなってしまうということだろうか。
もとが滅多にお目にかかれない色男なだけに、非常に悲惨な気がする。
土方に歩み寄った沖田は、山崎から事情を聞くなりすぐに買いに行ったある物を、彼に向かって差し出した。

「土方さん、これ、俺の気持ちでさァ」
「ああ??」
沖田から渡される物など、これまでの経験上危険物以外にあり得ない。
恐る恐る、用心して袋を開いた土方は、中に小さな瓶が入っているのを確認する。
ラベルには『有効成分を毛根細胞へ深く届ける育毛剤「モジャモジャ」これであなたもふさふさ!』と明記してあった。
ちなみに、土方は髪の心配など今のところ一度もしたことがない。
「・・・・・新手の嫌がらせか」


あとがき??
坊主さん、昔は格好良かったという設定です。今も素敵なんですが。
時は無情なり・・・・・。


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