新婚さん、いらッしゃ〜い
「何だー、うちの酢昆布娘はまだ寝てるのか」
「おかしいですよねぇ、もうお昼なのに。内側から支え棒をしてるようで開かないんですよ」
「ほっとけほっとけ。それより、『新婚さん、こんにちは』が始まっちまうぞ」
「・・・・」
いそいそとTVのチャンネルを変える銀時を、新八は冷ややかに見つめる。
もう少し彼女の体調を心配するなりした方が良いのではと思ったのだが、画面が変わると、ついそちらへと目がいってしまう。
彼らが毎週楽しみに見ている番組で、結婚したばかりのカップルをゲストに迎え、おもしろトークをする内容だ。
神楽がこれに出たいと主張し、「お前には百年早い」と銀時に言われたのは、つい先週のことだった。
『今週は、お若いカップルがいらしていますよー、何とお二方とも十代です』
「おいおい、聞いたかー、まだ十代だってよ。お前と変わらないぞ」
「本当ですねーーー・・・・」
画面を眺めつつ茶を口に含んだ新八は、次の瞬間、盛大にそれを吹き出した。
「きったねー!!!染みが出来るだろー」
「あああ、あ、あれ、あれ」
「・・・あれ」
布巾で周りを拭く銀時は、指をさす新八に促されて画面へと顔を向ける。
番組司会者に挨拶をしてソファーに座る、新婚カップル。
その片割れは、彼らが毎日見ている少女と瓜二つの面立ちだった。「・・・・世の中には似た顔の人間が3人いるっていうが、本当だな。何だ、隣りのは、真選組の隊長さんのそっくりさんか?」
「神楽ちゃんですよ!!!衣装に気合い入っているけど、チャイナ服にお団子頭、しかも語尾が「アル」だし!!!沖田さん、そのまんま隊服だし!」
「面白くない冗談言うんじゃないよ。何で神楽が真選組と『新婚さん、こんにちは』に出たりするんだよ」
「そんなのこっちが聞きたいですよ!!!」
二人が激論を交わす間にも、番組は着々と進行している。
『お二人のなれそめは・・・』
『私が花見の席で押し倒したアル』
『これはまた、過激な発言が飛び出しましたねぇ』
司会者の言葉に、番組の会場内はどっと湧く。
『プロポーズは、旦那様の方からですか?』
『当たり前でさァ』
『よろしければ、お聞かせ願えますか』
『「一生、卵かけご飯を食べさせてやる」って言いやした』
『私、その一言でもうメロメロになったアルよ〜』「・・・うちで飯食わせてねーみたいじゃないか」
「彼女に思う存分食べさせたら、それこそ破産ですよ」
仲良しカップルを装う二人に、銀時と新八は冷静に突っ込みを入れている。
「そもそも、何であいつらがこんな番組に出ているのか・・・・」
銀時が真顔で語り出したとき、神楽の寝床である押し入れの襖がガラリと開いた。
だが、中から出てきたのは神楽ではない。
現在、神楽と一緒にTV出演している真選組一番隊隊長の沖田だ。
「え、おい、あそこにいるのに・・・あれ?」
「それは昨日収録した番組でさァ」
「あ、そうなんだ」
沖田がうろたえる二人に対して言うと、新八は納得して頷く。
だが、問題はそうしたことではなかった。
「っていうか、お前、何でそこから・・・・」
「おはようヨー」
押し入れから出てきた沖田に続いて顔を出したのは、パジャマ姿の神楽だ。
眠たげに瞼を擦る神楽とその隣りの沖田を呆然と見つめていた銀時は、番組がCMに入った音にふと我に返った。「てめーー、支え棒なんかで襖を閉め切って、今までうちの神楽と何をしていやがった」
「・・・・・」
胸倉を掴まれて問いただされた沖田は、急に伏し目がちになる。
「そんなこと・・・・、ここじゃあ言えませんぜ、旦那」
「俺は嫌だ。あんな奴を、息子と呼ぶなんて。絶対に認めない」
「いや、神楽ちゃん、あんたの娘じゃないし。沖田さんはもう帰りましたから、しっかりしてくださいよ」
膝を抱えて座り、ぶつぶつと繰り返す銀時に新八はため息混じりに声をかけた。
「でも、神楽ちゃん、いつの間にあの人と仲良くなったの」
「仲良くないアル。共通の目的のために、一時休戦しただけアルよ」
言いながら、神楽は新八の前にどさりと酢昆布の山を積み上げた。「・・・何、これ」
「『新婚さん、こんにちは』出演者全員にもらえる景品アル。あいつは、おまけで付いてくるアイス一年分が欲しかったネ」
「・・・・ふーん」
景品、新婚と関係ないじゃん、と思った新八だが口には出さない。
「それで押し入れに閉じこもっていた理由は」
「粗品の商品券の取り分で、一晩中もめてたアルよ。これが銀ちゃんにばれたら、金券ショップで換金してパチンコ代にされるに決まってるネ。私に給料もよこさないケチ男アルから」
「そうかー」
新八はちらりと銀時の方を見たが、放心状態の彼の耳には届いていないようだった。
「あとは、日程を決めていたアル」
「日程?」
「番組の神経衰弱ゲームで当てたアル。ハワイ旅行、ペアで一週間」
「君達・・・・、本当に仲悪いの?それって、あの人と二人で行くんだよねぇ」
それまで死人のように独り言を繰り返していた銀時は、立ち上がるなり絶叫した。
「認めん、二人きりの旅行なんて、父さん許さんぞーーー!!!」
「・・・・銀ちゃん、キャラ変わってるアルよ」
あとがき??
楽しかったです。タイトルは、桂三枝の声で読んで下さい。
あとは、おまけで真選組。
おまけ
「・・・・何やってるんだ、あいつは」
近藤と二人、『新婚さん、こんにちは』を見ていた土方は唖然と呟く。
沖田が結婚したという話は、初耳だ。
いや、彼の性格上、結婚という言葉はあまりに縁遠い。
「あれは、万事屋のチャイナ娘だよな」
問い掛けと共に傍らを見た土方は、その場で泣き伏す近藤の姿に仰天する。「ど、どうし・・・」
「総悟に先をこされたーーーー!!!ハッピーウェディングー!!」
お妙との結婚を夢見る近藤はそうとうショックだったらしく、泣き喚いている。
そこには真選組局長としての威厳は微塵もない。
「・・・・世も末だ」
「ただいまけーりやした」
タイミング良く襖を開けて現れた沖田を、近藤と土方は穴があくほど凝視した。
「どーしやした?」
「お前、嫁はどうした、嫁は」
「・・・・ああ」
暫く思案したのち、沖田は懐を探り出す。
「土方さん、近いうちに旅に出るんで、休暇をくだせェ」取り出したペア旅行券を見せる沖田に、近藤と土方は揃って目を見開く。
「てめー、さぼってばかりのくせに、一人前に休暇願いなんて出して、通ると思っているのか!!」
「新婚旅行も先をこされたーーーー!!!センチメンタルジャーニー!!」毎日賑やかな真選組屯所だった。