おいでませ、疫病神社


「あーー、腹立つアルーー!!」
両手で握り拳を作ると、神楽は大きな声を出してストレスを発散させた。
歌舞伎町の北東方角にある『疫病神社』は人々に災厄を招く疫病神を奉る唯一の神社なのだが、その縁起の悪さから訪れる人は少なく、神楽は思い切り喚くことが出来る。
そして、少ないお小遣いを神社のおみくじに使ったのは、ほんの気晴らしのつもりだった。
「ゲッ!」
『大凶』の文字を見た神楽は脱力してその場に座り込んだ。
ついていないときは、とことんついていないものらしい。
今日は散歩に丁度良い曇り空だというのに、少しも歩かないうちに沖田に遭遇し、いつものいざこざが始まったのだ。
神楽は手足を負傷したが、倍にしてやり返してやった。

「神様、どうかあいつをこの世から抹殺して欲しいアルヨ。南無南無・・・」
地球の神様のことがよく分かっていない神楽は、社の前で柏手を打つと適当に願いことを呟いている。
「あいつとは、誰のことじゃ」
「決まってるアル。真選組の沖田とかいう嫌味な若造ネ・・・・・ん?」
その問いかけに答えてから、神楽は怪訝そうに足下を見やった。
いつの間に現れたのか、頭に丁髷を結った着物姿の童がすぐそばに立っている。
「お前誰アルか?」
「お前とは何じゃ!わしはこの神社の主の疫病神じゃぞ。もっと敬うが良い」
眉間に皺を寄せた童は胸を反らしてみせたが、見かけは全く人間の子供と変わらないため、威厳もへったくれもなかった。

 

「酸っぱいのぅ。これが巷ではやっている菓子なのか」
「これが癖になるアルヨ」
近くにあった手頃な岩に腰掛けながら、疫病神と神楽は彼女のおやつの酢昆布をかじっていた。
貢ぎ物と称して酢昆布を分けると、疫病神は神楽にあっさり懐いたようだ。
人が滅多に来ないため、ここ何十年か一人きりで寂しい思いをしていたらしい。
「やっくんは本当に神様アルか?」
「まことじゃ。おぬしの願いは、その沖田とかいう奴を消すことか。今すぐやってやるぞ」
疫病神がにっこりと微笑んで言うと、神楽は慌てて手を横に振った。
「あ、あれはちょっと大げさに言ってみただけアルヨ。そうアルね・・・・・あのサド男を善良な人間に変えて欲しいアル。そして、私には絶対服従になるようにして欲しいネ」
「分かった」

頷いた童は、両手を合わせて何かを念じ始める。
ただならぬ雰囲気があるような気がしたものの、神楽は半信半疑だ。
言葉づかいは古くさいが、近所の子供が誰かに遊んで欲しくてふざけているだけかもしれない。
この後、疫病神と缶蹴りをして遊んだ神楽は、家に帰る頃には自分のした願い事などすっかり忘れきってしまっていた。

 

 

 

「これ、買う物を書いたメモだから」
「分かったアル」
「おつりで酢昆布ばっかり買っちゃ駄目だよー」
「はいはい」
心配する新八に見送られながら、神楽は定春を連れて表に出た。
昨日と同じく、空は曇っている。
傘を窄めたまま歩く神楽は、往来に出来た人だかりを見るなり、鼻歌を止めて立ち止まった。
若い女性ばかりが集まり、キャアキャアと黄色い声が飛び交っているようだ。
「何アルか?」
何か面白い物でもあるのかと、彼女達の間をかき分けて進んだ神楽は、その中心にいた人物を見るなり目を丸くする。

「あの、沖田さん、これもらってください。手作りのケーキです」
「有り難う」
沖田が柔らかな微笑みを浮かべると、周りにいた少女達の頬が一気に赤く染まった。
足下にある紙袋は皆この辺りにいる少女達からのプレゼントらしいが、普段の彼ならばその毒舌が災いして女性ファンなど一人も寄りつかない。
そして、今のように優しく微笑むことなどあり得なかった。
嫌な予感がしてそのまま引き下がろうとした神楽だったが、間の悪いことに振り向いた沖田と目が合ってしまう。
「神楽!」
「えっ・・・」
言葉と同時に腕を掴まれた神楽は、体勢を崩したところを沖田に抱き留められた。
「久しぶりだね、ボクのエンジェル」
「キャーーーーーー!!!」
神楽の悲鳴は周りにいた少女達の甲高い声ですっかり掻き消される。
そのまま抱きしめられた神楽は全身に鳥肌が立ったのを感じたが、頭が真っ白になったためすぐに動くことが出来なかった。

 

「な、な、何するアルかーー!!!この、痴漢!!」
怒りのボルテージの上がった神楽が攻撃をしかけると、その拳を易々とよけた沖田は困ったように首を傾げる。
「ごめん、驚かせちゃったみたいだね」
「・・・・え?」
素直に謝罪し、しょんぼりと項垂れる沖田を見て神楽は目と口を大きく開けた。
別人にしか見えなかったが姿形は間違いなく沖田で、きちんと真選組の制服も着ている。
やっかみ混じりの少女達の視線が恐ろしく、それ以上に沖田の存在が怖かった。

「き、気持ち悪いアル!!あっち行けヨ」
「・・・・ボク、何か君を怒らせるようなことを言ったんだね」
その場で跪いた沖田は、おもむろに刀を鞘から抜いた。
「死んでお詫びをするしか・・・」
「お、怒ってない、怒ってないアル!だから早く立つネ」
真剣な顔つきできらりと光る刃を腹に当てようとした沖田を、神楽は慌てて止める。
彼の命などどうでも良かったが、自分のせいで死なれたら寝覚めが悪い。
伏せていた顔をあげた沖田は、焦る神楽を凝視した後、晴れやかな笑みを浮かべてみせた。
「良かった」

アハハッと明るく笑う沖田に釣られて、神楽も同じように笑顔を作る。
そのまま意識が遠のきそうになったが、すんでの所で踏みとどまった神楽は、沖田に背を向けて駆け出した。
「あ、ボクのエンジェル、どこへ行くんだい!?」
沖田が追いすがったが、全速力で走る神楽は何とか彼を振りきった。
確かに絶対服従だと言ったが神楽の望んだ形とはだいぶ違う。
いや、あまりに違いすぎた。
疫病神社に直行した神楽は、境内を歩き回って手鞠で遊ぶ童を見つけだすと、必死の形相で詰め寄る。
「おお、神楽、どうした?」
「昨日の願い事は撤回するアルーー!!!!」

 

 

 

自分をボクと呼ぶ沖田、歯を光らせてさわやかな笑みを浮かべる沖田、熱っぽい眼差しで見つめてくる沖田。
強烈な印象だったせいか、夢にまで現れてしまった。
「悪夢アル・・・・」
青い顔で往来を歩く神楽は、足下をふらつかせている。
原因は夜兎の天敵である太陽の光ではなく、睡眠不足のせいだ。
小銭を握りしめて駄菓子屋の前に立った神楽は、その傍らのベンチにアイマスクをして眠る元凶を見つめ、頬を引きつらせる。

「今日は取り巻きはいないアルか?」
「何のことでさァ」
やはり起きていたらしく、ベンチで横になる沖田はすぐに返事をしてきた。
「女の子にキャーキャー言われてたアルヨ」
「・・・・・」
アイマスクをずらした沖田は、眉をひそめて神楽を見上げる。
「もう頭がボケたみてーだな、チャイナ。酢昆布ばかり食ってるせーじゃねーかィ?」
その姿は今まで通りの、憎まれ口を叩く沖田だ。
神楽の顔には自然と笑みが広がり、訝しげな表情をした沖田は半身を起こして呟く。
「何でェ、気持ちわりィ・・・」

 

それからはいつものように悪口の応酬が始まった。
どちらからともなく剣と傘を交え、駄菓子屋の主人は見慣れた光景なのかあえて止めずに眺めている。
沖田のことは嫌いだが、夜兎の神楽を全く恐れることなく、対等にやり合えず人間などそうそういない。
「やっぱりこれが一番アル」


あとがき??
元ネタは『神様がいっぴき』です。さわやか沖田・・・想像すると怖いです。(^_^;)
性格がよければ、沖田くんも土方さんのようにもてもてなんでしょうけど。
沖神ということ以外とくに指定がなかったので好きに書かせて頂きました。
500000
HIT、結有様、リクエスト有り難うございました。


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