そら番外編(子連れ狼)


「先生、おはようございます!」
「おはようございます!」
「おう」
廊下を歩くたびに掛かる声に、星海坊主は小さく頷いて応える。
彼が今滞在している国では、二つの組のヤクザが互いの縄張りの防衛のためにいざこざを繰り返していた。
一つが古株のジロチョウ組、もう一つは若い組長に代替えしたカツゾウ組だ。
星海坊主は一宿一飯の恩義でジロチョウ組の助っ人を勤めているのだが、どちらの派閥が勝ってもあまり興味はない。
あと三日もすれば、次の星へと移動する予定だった。

 

「星海坊主先生、大変です」
座敷の襖を開けるなり、血相を変えて飛び出してきたのは組の小頭である石竹だ。
「どうした」
「カツゾウ一家のやつら、新たに用心棒を雇ったみたいですぜ」
「そんな奴、気にするこたぁない。こっちには、宇宙最強の星海坊主先生がいらっしゃるんだ」
「それが・・・・、その助っ人がまたべらぼうに強くて」
カツゾウが横から口を挟んだが、石竹は不安げな様子で続ける。
組では一番の力自慢で、無鉄砲であることで知られる石竹をこれほど怯えさせるとは、どうやらただ者ではないようだ。

「どんな奴だ、その用心棒とやらは」
「一見品の良い優男なのに、ひとたび腰の刀を抜けばうちの組のもんは誰も近づけない、といったあんばいで、ええ。そういや、子供を一人連れておりやす」
「・・・・子連れ?」
「まだ1歳になるかならないかの赤ん坊を背負っていて、どこにいてもひどく目立つんで。地球とかいう星の江戸から来た侍だそうですぜ」
「・・・・・・・」
そのとき、星海坊主の表情がにわかに曇ったことに、ジロチョウも石竹も気づかなかった。
彼の脳裏を過ぎったのは、娘婿である沖田の姿だ。
去年の四月に長男の卯月が誕生したことは神楽からの手紙で知っているが、仕事が忙しく2年ばかり地球には行っていなかった。

「先生!!いよいよカツゾウ一家に殴り込みをかけるんですかい」
「星海坊主先生!」
話を聞き終えた星海坊主が難しい顔で立ち上がると、血気盛んな若い者達が瞳をぎらつかせて訊いてくる。
「馬鹿、偵察だ、偵察」
まだ、その用心棒が沖田と決まったわけではない。
しかし、外に出るなりカツゾウ組との喧嘩の場面に出くわした星海坊主は、自分の希望が見事にうち砕かれたのを知った。

 

 

「つ、強ぇ・・・・」
額から冷たい汗が伝い、石竹はそれだけ言うのがやっとだった。
一瞬にしてドスを振り回す五人を蹴散らした若侍は、涼しげな顔で周りを見回している。
周囲の家々を半壊させる派手な立ち回りだったようだが、彼は傷一つ負っていないようだ。
そして背中にいる子供も泣きもせず「キャッ、キャッ」と楽しげに笑い声を立てているのだから、かなりの大物だ。
「あいつの弱点は、おそらく子供だ!子供の方を狙え」
下っ端のサブが叫ぶなり、星海坊主は彼の鳩尾にパンチを繰り出す。
「なんてこと言いやがる!!罪もない子供を殺るなんざ、外道のやることだ!!」
「す、すいやせん」
よほどダメージを受けたのか、腹を押さえるサブは息も絶え絶えな様子で呟きを漏らす。
星海坊主にすれば、若侍の方はともかく、彼が背負っている子供に怪我をさせるわけにはいかなかった。

「親父さん、よーやく見つけやしたぜ。星から星へ、ちょこちょこ移動しないでくだせェ」
路地の陰であれこれ相談するジロチョウ一家に気づいたらしく、振り向いた沖田は明るい口調で言った。
彼が見つめているのが星海坊主だと分かると、ジロチョウ一家の面々は驚愕に目を見開く。
「親父!?あいつ、今、そう言ったのか」
「あの化け物、星海坊主先生の息子さんなんで?」
「アホ、そんなことあるか!!俺と全然似てねーだろ」
とっさに答えると、石竹とサブは納得気味に頷く。
「ああ、まあ、確かに」
「あいつの妙に整った顔立ち・・・・、星海坊主先生と同じ血が流れているとは到底考えられねぇ」
言い終えるや否や、サブの腹に再び星海坊主渾身のボディーブローが入り、彼は泡を吹いて地面に転がった。
「サ、サブーーー!!」
サブに駆け寄り大騒ぎするジロチョウ達を残して、星海坊主はずいと前へ進み出る。
「やい、貴様!馴れ馴れしく俺のことを親父なんて呼ぶんじゃねぇ!」
「じゃあ、つるっぱげ」
「本気で殺すぞ、てめぇー!!!」

 

 

星海坊主の咆哮が、戦闘開始の合図となった。
傘から繰り出された銃弾を脅威の跳躍力で避け、気づいたときには沖田が星海坊主の懐へと潜り込んでいる。
間一髪、傘で刀を受けた星海坊主は、彼を誘うように屋根の上へと舞い上がった。
人間離れした身体能力を持つ二人の戦いに誰も手出しができず、組の者達は必死に彼らの姿を目で追いかける。
猛烈な勢いで繰り出される傘の攻撃を沖田が剣で軽くいなし、人目が遠ざかったのを確認した星海坊主は小声で問いかけた。
「おい、何しに来た」
「神楽がこいつを「パピーに見せたい」って言うもんで。居所を突き止めるのに、半月かかりやした。あんたも用心棒の真似事をしてるんですかい?」
沖田は背後の卯月へと目をやったが、会話の間も二人の手は止まっていない。
はたからは剣を交えつつ何か悪口の応酬をしているようにしか見えないはずだ。
「そうだよ。神楽も来てるのか!?」
「いや、あいつは地球でさァ。俺は代理」
「何でだ」
「3人目が腹にいるから、無理は出来ないんでさァ」

視界が大きく揺らいだ気がしたが、星海坊主は何とか踏ん張り、地表へと着地した。
「・・・・いくらだ」
続いて屋根から下りてきた沖田に、星海坊主は苦虫を噛みつぶしたような顔で訊ねる。
「50両」
「何!こっちは20両だぞ」
「じゃあ、取り分は半金で決まりですかねェ。落ち合う場所は、木ノ葉神社ってことで」
多くを語らずとも星海坊主と意思は通じたらしく、追いついてきたジロチョウやカツゾウの取り巻きを見比べて、沖田はにいっと笑った。

 

 

 

「総悟から写真が届いたアルーーー!」
座敷でパソコンを開いた神楽は、顔を綻ばせて歓喜の声をあげる。
メールボックスを調べると、沖田から写真を貼付された宇宙メールがピカピカと光って着信を知らせていた。
タイトルは、『ハゲ親父』となっている。
「写真?」
「パピーに会った証拠として、写真を送るようにデジカメを渡しておいたアル」
新八と総楽がパソコンの脇に寄ってくると、神楽は笑顔で説明した。

ファイルをクリックして最初に映し出されたのは、傘と刀を持って対峙する星海坊主と沖田、そして彼らを囲む柄の悪いチンピラ達の写真だ。
見ているだけで不穏な空気が伝わってくる。
思わず黙り込んだ新八だったが、神楽は嬉しそうに頬を緩ませた。
「みんな、元気にやってるみたいアルな〜〜」
「いや、これ、そんなのんきな状況じゃないでしょう、絶対。助けに行かないと」
「新八、新八」
慌てる新八の袖を引っぱると、総楽は沖田の背後を指差して言う。
「たぶん大丈夫だと思うよ。卯月、カメラに向かってピースサインしてるし」
「・・・・本当だ」

 

 

 

日が沈み始め、カラスが鳴き出した頃になってようやく沖田は木ノ葉神社に姿を見せた。
賽銭箱の前に座る星海坊主は、ゆっくりとした足取りで近づいてくる沖田を不満げに睨んでいる。
「遅かったじゃねーか・・・・」
「ジロチョウ組をやっつけた祝いの席に招かれたもんで。でも、ちゃんと依頼料はもらってきやしたぜ」
懐に手を入れた沖田は、25両を星海坊主に差し出した。
「つるっぱげの取り分でさァ」
「・・・・それ、やめろ」
「じゃあ、親父」
珍しくにっこりと笑う沖田を見上げ、星海坊主は憮然とした顔つきになる。
普段の言動は殺したいほど憎らしいというのに、彼はたまにこうして人懐こい表情をするのだ。
何だかんだ言いつつ沖田を冷たく突き放すことが出来ないのは、星海坊主と神楽親子、共通した感情なのかもしれない。

あの後、現場はそれぞれの一家が入り乱れての喧嘩騒ぎとなったが、星海坊主が沖田に斬られたふりをして倒れたため、ジロチョウ一家は総崩れとなった。
カツゾウ一家が勝ち鬨をあげ、今後ジロチョウ一家はこの辺りで大きな顔は出来ないはずだ。
星海坊主への助っ人代金が少なかったために、とんだ損失だった。
そのまま騒ぎに紛れて星海坊主は姿を消したが、こうして沖田と一緒のところが見られれば、ただではすまないことだろう。

 

「お前、何で地球に留まってるんだ」
ターミナルへと続く道を歩きながら、卯月を抱いてあやす星海坊主は、ふと真顔になった。
元々尋常でない力量があったが、2年前に比べ、沖田の剣術の腕はさらに凄みを増している。
本気で戦えば星海坊主でさえ互角か、または紙一重の差で敗北するか、どちらかだ。
今日の戦いにしても、沖田は全力を出しているようにも見えず、星海坊主に対して薄く微笑む余裕すらあったのだから全く底が知れない。
性格面は大いに気に入らないが、神楽が選んだだけのことはあった。
「外の世界に興味はないのか」
「へェ・・・」
「宇宙に出れば、天下狙えるぞ。俺が保証する」
星海坊主が言い終えないうちに、沖田はからからと明るい笑い声を立てる。
「馬鹿なこと言いなさんな。そんな面倒くさいこと、俺ァしたくありませんぜ。一生寝たまま生活したいと思っているくらいなんで」
真剣な話を笑い飛ばされ、むっとした星海坊主だったが、傍らを見ると沖田の顔から笑顔は消えている。
「まァ、本当のこと言うと、地球に守りたい人がいるからそう長いこと空けられねェ。それに、家に帰れば女房と子供が待ってる。それ以上に幸せなことってありますかい?」

穏やかな顔つきで語る沖田の瞳には、一点の曇りもない。
若い時分の星海坊主が妻を失うまで気づかなかったことを、沖田はとうに知っている。
ぐずりだした卯月を抱え直すと、星海坊主は口元を歪めて前方にそびえ立つターミナルを見つめた。
「ちげーねぇ」
「親父さんの帰る場所も、地球にありますぜ。神楽も総楽も寂しがってまさァ」
見上げると空にはすでに星が瞬き始め、地球の風景が懐かしく思い出される。
家族と共に過ごす幸せを味わうのに、遅いということはないのかもしれない。
「・・・もう2、3件仕事が残ってる。あと2ヶ月ばかりしたら帰るよ」
「伝えておきやす」


あとがき??
新選組は「壬生狼」と呼ばれていたし、丁度いいかなぁというタイトル。
「子連れ狼」っていうより、「三匹が斬る!」が元ネタっぽい。(笑)
卯月くん(近藤さん命名)は4月生ですね。夜兎族っぽい名前が良かったので、こんな感じに。
沖田くんは宇宙でも活躍出来るんじゃないかなぁと思った話でした。
近藤さんがいるかぎり、地球から離れないでしょうが。


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