目印


会うたびに、「嫌なやつに会った」という顔をされる。
また、自分もそうした表情をしているのだろう。
喧嘩は先制攻撃をした方が有利だ。
神楽が傘を振り上げたときには、彼はもう刀を抜いていた。

二人の力は拮抗している。
よって、決着はいつまで経ってもつかず、体力を消耗するだけの結果となった。
だけれど、互いの顔を見ると素通りはできない妙な関係なのだ。

 

 

 

「何で三日と空けずにお前と遭遇するアルか!!さてはストーカーか?」
「あんたが、そんなに目立つ傘をさしているからでェ」
ぱくりと棒状のアイスを口に含むと、沖田は橋の手すりに座る神楽を振り返る。
見物人が集まってきたら休戦するというのが、二人の暗黙の了解だった。
警察の役目を担う真選組が、喧嘩が理由でしょっ引かれては罰が悪い。
橋の上で仲良く同じアイスを食べて会話する彼らが、つい数分前まで生きるか死ぬかの真剣勝負をしていたとは、誰も信じないことだろう。

「その傘を見ると、呼ばれている気がしやす」
「・・・・自意識過剰な男アルね」
「そうかィ?」
神楽を見上げる沖田はにやりと笑った。
虫の好かない笑いだったから、神楽が蹴りを入れると簡単に避けられる。
「そろそろけーらないと、土方さんがぶち切れてる」
「また、仕事サボったアルか?」
「サボるのも仕事のうちでさァ」

アイスを食べ終えた沖田は手元に残った棒を神楽に放って踵を返した。
『あたり』と書かれたその棒を眺めたあと、神楽は遠ざかる彼に向かって声をかける。
「次はいつサボるネ?」
「さァ、明後日あたりかもしれませんぜ」
その後ろ姿が見えなくなった頃、手すりから下りた神楽は彼とは反対の方向へと歩き出した。
『あたり』の棒と交換するアイスは、家でごろごろと寝ている銀時への土産に丁度良い。
甘いものが好きな彼ならば、絶対に喜ぶはずだった。

 

 

 

「神楽ちゃん、今日は曇っているし、傘はささなくていいんじゃないの?」
買い物のためスーパーに向かう道すがら、新八が神楽の傘を見ながら訊ねた。
夜兎族の神楽に傘は必須の持ち物だ。
だが、日差しが強くなければ、なくても支障はないはずだった。
人目を引く紫の傘をくるくると回す神楽は、すれ違う人の顔を見ながら答える。

「でも目印だから、ないと駄目アルよ」
「目印って・・・・何の?」
首を傾げる新八に、神楽はただ明るい笑い声を返した。


あとがき??
会いたいって、素直に言えない関係なのです。萌・・・。


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