まごころを君に
「・・・何をやっていたんですか」
日が暮れ始めた頃、泥だらけになって屯所に帰ってきた沖田に、山崎は怪訝な表情で訪ねる。
彼が仕事をさぼるのはいつものことだ。
服が汚れるまで働くなど、絶対にありえない。
「これでさァ」
「ゲッ!!!!!」
沖田が制服のポケットから出した物を見て、山崎はとっさに顔をしかめて後退る。
にょろにょろと動く蛇を沖田は平気な顔で掴んでいた。
反対の手に持っているのは、蜥蜴だ。
おそらく、これらを捕獲するために服が泥で汚れたのだろう。「どうするんですか、これ。うちで飼うつもりじゃないですよね」
「チャイナ娘へのプレゼント」
いやに楽しげに答える沖田に、山崎は大きなため息をつく。
「本当に嫌いなんですねぇ・・・」
会えば喧嘩をする万事屋の神楽との関係は山崎も承知していた。
他者への嫌がらせのためならば、蛇や蜥蜴を追いかける苦労は全く気にならないのだろう。
沖田はそういう人間だ。「普通はですね、女性には花やお菓子をプレゼントするものですよ」
「・・・・そうかい?」
呆れ返った山崎の呟きを聞き、沖田はしきりに首を傾げていた。
「・・・何、それ」
早朝、定春を連れた散歩から帰ってきた神楽は花束を持っていた。
色とりどりの花は彼女の手では抱えきれず、定春の背中にくくりつけてもまだ余る。
万事屋に花を飾る趣味のある者はおらず、花瓶など置いていない。
流しに水をためた神楽は花をそこに浸し、足りない分は風呂場へと運んでいた。「馬鹿な奴からの、新手の嫌がらせアル」
「沖田さんか」
振り向いた神楽の一言で、新八はそれを贈ったのが誰なのか察した。
犬猿の仲だというのに、二人は不思議と互いに絡みたがる。
本当は好きあっているのではないかと勘ぐってしまうほどだ。
「嫌なら捨ててくればいいのに・・・」神楽が外出するたびに持ち帰る品々は皆彼からの嫌がらせらしい。
食べかけのソーセージに、蝙蝠を模った小銭入れに、呪いの藁人形に、呪術について書かれた本、等々。
ろくなものではない。
今回の大量の花束は置き場所に困るが見目が綺麗なだけマシだ。
神楽がどんな物も律儀に持ち帰るおかげで、掃除をする新八が一番迷惑をこうむっている。
「挑戦状は受け取らないと逃げたことになるネ」
「・・・・ふーん」
つくづくよく分からない二人だと思う新八だが、彼らだけで通じるものがあるらしい。
風呂場から戻った新八は椅子に座る神楽へと顔を向ける。
頬杖をつき、コップにいけた花を見つめる神楽は嬉しそうに微笑んでいた。
おそらく、贈り主である彼には見せたことのない明るい表情で。
あとがき??
沖田くん、今までの贈り物も全部嫌がらせではなく、大好きな神楽への心からのプレゼントのつもりだったんですけど・・・・。
自分の好むものを彼女に贈っていたという。
変な趣味ですね。