ブラックリストに名前が追加された日
そのペットと一緒に公園で遊んでいるとき、神楽は心の底から楽しそうだった。
誰といるときよりも笑顔で、邪気のない表情は年相応の幼さをかいま見せる。
だが、犬猿の仲である彼を視界に入れると、その顔は一変するのだ。
自分と定春に向かって歩み寄る沖田を、神楽は警戒心をあらわにして見つめている。
「あんたは、その犬がよっぽど大事みたいですねェ」
「決まってるアルヨ。定春は私の2番目に“大事”なものアル」
話題が愛犬のことになると、険しい表情だった神楽も少しだけ頬を緩める。
「へェ、1番は?」
「1番は故郷のパピーとマミー、3位に姉御。4と5が無くて、6位は新八にしておいてやるアル」
「・・・・さいでっか」
当然といえば当然だが、そこに沖田の名前はない。
気落ちするなと自分に言い聞かせ、彼は他にもう一つ足りなかった名前について訊ねてみることにした。「旦那は?」
沖田はてっきり銀時が一番かと思っていた。
彼女が銀時をしたっているのは誰の目にも明らかだ。
町中で仲睦まじく歩く二人を見るたびに胸が悪くなる沖田だったが、もちろん顔には出さない。
また、神楽も彼の内心など知らずにはきはきと返事をしてくる。
「銀ちゃんは私の“特別”アル。順位なんて付ける意味はないネ」
沖田と視線を合わせると、神楽は表情を和らげて言葉を繋ぐ。
「銀ちゃんのためだったら何でも出来る、この命が無くなっても構わないアルヨ」神楽は今まで見た中で、一番女の子の顔をして言った。
卑怯だと思う。
いとけない子供の表情の裏に、彼女はちゃんと女の顔を隠し持っていたのだ。
目の前の少女が、先程までとはまるで別人のように映る。「俺は何番目だい?」
駄目もとで訊ねてみると、彼女は実に素っ気なく返答した。
「お前は眼中にないアル」
規定外という意味では銀時と同じ沖田だが、その内容は全く違っていたのだった。
「おーい」
神楽と別れ、重い足取りで歩いてきた沖田は、その声を聞くなり眉を寄せた。
今、一番会いたくないと思っている人物だ。
振り向くと案の定、紙袋を持つ銀時が笑って彼に手を振っている。
「それ、拾ってくれねーか?」
「・・・それ?」
彼が指差す方を見ると、足元に酢昆布の箱が落ちていた。
おそらく、パチンコの景品だろう。「帰る途中に落としちまってよ、戻ってきたんだ」
「・・・・チャイナ娘に土産ですかい?」
「おお。知ってるだろ、あいつの好物」
明るく笑いかける銀時に同じく笑顔を返し、次の瞬間、沖田はその酢昆布の箱を思い切り踏みつけた。「あああーーーー!!!!」
「自分で拾ってくだせェ」
叫び声をあげる銀時を尻目に、沖田は踵を返す。
自分を非難する銀時の目を感じながら、胸の内のもやもやした物が少しはすっきりした。
敵は土方のみと思っていた沖田だったが、今この時は、彼以上に銀時が憎らしい。
「これ以上嫌われないと思えば、気楽でさァ・・・・」
足元の小石を蹴りながら、負け惜しみのように呟く。
今は、下の下の状態。
遙か高みにいる銀時と張り合えるようになるまで、かなりの月日が必要になりそうだった。
あとがき??
頑張れ、沖田くん。
普通にラブラブ(?)な沖神も書きたいよぅ。またの機会に。