ギフト 1


たまの休日、私服姿で露店の並ぶ路地を歩いていたときのことだ。

「お兄さん、お兄さん」
素通りした店の主人に呼び止められ、沖田は顔だけで振り返る。
「俺のことかい?」
「そうだよ。お兄さん、可愛い彼女にこれをプレゼントしたらどうだい?」
「・・・・」
見ると、女子供が好きそうなファンシーグッズを売る店だった。
並んだ品物の一つに目を留め、近寄ってきた沖田に主人は愛想笑いを浮かべている。
おそらく、荒っぽいことで知られる真選組の制服姿ならば、目を合わせることもしないに違いない。

「これ、いくら?」
様々な動物を模したぬいぐるみが並ぶ中で、沖田が指をさしたのは白い犬を象ったものだ。
それが、彼女が連れている大きな犬によく似ている気がした。

 

 

「どーしちまったんだか・・・」
首を傾げて歩く沖田は、自分で自分の行動が分からなかった。
ぬいぐるみを部屋に飾る趣味はない。
かといって、敵対関係にある彼女にプレゼントなど出来るはずもなかった。
直径30センチほどのぬいぐるみの包みを抱え、ぶらぶらと歩く沖田は自然と万事屋の前まで来ている。
差出人不明ということで、二階に上がる階段の前に置いておこうかと思った矢先、丁度目当ての彼女が降りてきた。

「チャイナー、いい物持ってるなァ」
彼女が食べながら歩く板チョコを見た瞬間、妙案が浮かんだ。
「チョコとこれ、交換しないかい?」
「何アルか、それ」
「あんたが好きなもの」
「・・・・いいアルヨ」
もっといろいろ訊いてくると思ったが、神楽は妙に素直だった。

 

物々交換をした神楽は沖田の目の前ですぐにその包みを開け始める。
そして出てきた物を見るなり、彼女は瞬時に瞳を輝かせた。
「可愛いアル!ちっちゃい定春」
後ろに付いてきている本物の定春と見比べると、神楽は一層嬉しそうに笑う。
自分の前で初めて明るい笑顔を見せた神楽に、沖田の顔にも自然と笑みが広がった。

「あれ・・・・」
力を加減しつつぬいぐるみを抱きしめる神楽は、はたと気付く。
「でも、お前何でこんな物持っていたアルか?」
「・・・・福引の景品」
とっさについた嘘だ。
時期をかなり外していたが、神楽は一応納得して頷いている。
間を持たせるために彼女からもらったチョコを口に含んだ沖田だったが、どこか有名店の物らしく、今まで食べたことのない味がした。

 

 

 

「沖田さんも、隅に置けないですねぇー」
板チョコを食べながら屯所に帰った沖田は、玄関付近に立っていた山崎にひやかされる。
その意味が分からず、沖田は首を傾げた。
「何のことでィ」
「そのチョコ、女の子からもらったんでしょう」
「まあな」
「今日はバレンタインデーですよ。さっきから土方さんに山のようなチョコが届いています。みんなでいくつあるか賭けている最中ですよ」
話を聞くうち、沖田は口にくわえていたチョコを落としそうになる。
言われてみれば、今日は2月14日、女が好みの異性にチョコレートを渡す日だ。
自分には縁がないことと思い、全く眼中になかった。

「・・・まさかなァ」
沖田は手元のチョコをしげしげと眺める。
今日は珍しく笑顔だったが、いつものあかんべえをする彼女の姿が見えるようだった。


あとがき??
この後、神楽ちゃんの話が続く。


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