ギフト 2
好きな男の人に、日々の感謝の気持ちをこめてチョコレートをあげる日なのだとTVで言っていた。
この日のために酢昆布を我慢してためた小遣いを持ち、神楽はチョコ専門店に向かう。
自分と同じようにバレンタインデーのチョコ目当てで集まる女子をかき分け、神楽がゲットしたチョコの数は4つだ。
帰りの道すがら、神楽は買い物袋をチェックしつつ配当を決める。「銀ちゃんにはハートの形の特大チョコレート、定春には犬でも食べられるチョコチップクッキー、新八には義理専用のチロルチョコ・・・・」
数えているうちに、一つ余ってしまった。
一番値が張った、外来物の洋酒が入った板チョコだ。
確か酒が好きだと言っていた覚えがあると、彼の姿を思い浮かべた神楽は、それを否定するように首を振る。
「最後は、私用ね!」
当日、神楽から何か貰えると思っていなかった分、銀時は大いに喜んでくれた。
「よしよし、来月からはちゃんと給金をやるからな」
「うん」
頭をなでる銀時に、神楽は笑顔で応える。
おそらく口から出任せだろうが、気持ちだけでも嬉しかった。
「えーと、神楽ちゃん、有難うね・・・」
銀時と自分のチョコのあまりの大きさの違いに、顔を引きつらせながら新八は礼を言う。「感謝するヨロシ。ホワイトデーのお返しはダイヤの指輪が良いアルヨ」
「嘘!!何倍のお返しだよ、それは!」
甲高い声をあげる新八の脇では、定春が美味そうにチョコチップクッキーを食べている。
皆にそれなりに感謝され、大満足だった神楽だが、ポケットにはまだ一つチョコレートを残っていた。
「渡せるはずが、ないアルヨ・・・」
手摺に頬杖をつき、遠い空を眺める神楽は小さく呟く。
売り場での恋する乙女達の熱気に押され、つい購入してしまった物だ。
普段ならば、絶対に買わなかった。
「早く始末するが吉ネ」
長々と悩むことが煩わしくなり、袋を開けた神楽はそれを口に突っ込む。
後ろにいた定春が一声あげなければ、階下に佇む彼にも気付かなかったことだろう。「チャイナー、いい物持ってるなァ」
もそもそとチョコを食べながら降りると、沖田はいつものように意地悪な顔つきで言う。
彼から物々交換の話が出たとき、神楽はあまり考えることなく承諾していた。
少し囓ってしまったが、元々彼のために買ったのだから、異存があるはずがない。
そして代わりに沖田から受け取った包みは、神楽を喜ばせるのに十分な物だった。「可愛いアル!ちっちゃい定春」
白い犬のぬいぐるみを抱きしめて後ろを振り返ると、本物の定春も興味があるのか、鼻をすり寄らせてくる。
可愛いぬいぐるみを手に入れたことより、目の前にいる彼が穏やかな表情をしていることの方が嬉しい。
思えば、それが初めて見る彼の心からの笑顔だったのかもしれない。
「あんな顔もするアルねー」
鼻歌を歌う神楽は、さっそくぬいぐるみを自分の部屋である押し入れに仕舞う。
だが、それを目に留めた銀時は、怪訝な表情で近づいてきた。
「どーしたんだ、これ」
「あ、返すアルヨ!!私の定春3号」
神楽の剣幕に驚いた銀時は、取り上げたぬいぐるみをすぐに神楽の手元に戻す。
大事そうにそれを抱えた神楽は、まだ銀時を睨んでいた。「福引の景品でもらったアルヨ」
「・・・・今頃?」
首を傾げる銀時に、神楽は初めてその不自然さに気付く。
「そう・・・言っていたアルヨ」
「そりゃー、下手な言い訳だな。これはどう見ても、神楽用のぬいぐるみじゃねーか。な、定春3号」
銀時はぬいぐるみを神楽が付けた名前で呼ぶと、ぽんと頭に手を置いた。
真選組の屯所と万事屋では、方角がまるで逆だ。
沖田は何でこの場所を彷徨いていたのか、わざわざ購入したとしたら、このぬいぐるみは誰のためか。
考え始めた神楽は、頬が熱くなっていくのを感じて思わず俯いた。
「ボーイフレンドでも出来たのかー?」
「うるさいアル!」
言い捨てると、神楽はさっさと押し入れに入り込み、乱暴に襖を閉めてしまった。難しいことを考えるのは苦手だ。
次に会ったとき、彼の頭をどつけば、このもやもやした恥ずかしい感情は消えるはずだった。
あとがき??
神楽ちゃんが、思った以上に乙女に・・・。恥ずかしい。
反動で、外道で鬼畜な沖神を書きたくなったが需要がなさそうなのでやめる。