試金石


ふと気づくと、縺れるようにして床に倒れ込んでいた。
下に目を丸くする神楽がいて、上では沖田がその顔を見下ろしている。
確か、毎度の小競り合いをしているうちに、いつの間にかこうした体勢になってしまったのだ。
偶然といえば偶然、必然といえば必然。
場所が使われていない廃寺なことも、神楽が女の子であることも、彼の頭にはあった。

神楽があと数ミリ動けば首が飛ぶという位置に刀を突き立て、唇を吸う。
抵抗はなく、ただ互いの舌が絡まった。

頭にあったのは、女の肌とはどんなものかという素朴な疑問。
その対象として、何故手頃な色町の女ではなく、子供体型の神楽を選んだのか自分でも不思議だ。
昼ドラ好きの彼女も、おそらく嫌悪感より好奇心が勝ったのだろう。
共犯としては、なかなか都合のいい相手だった。

 

 

 

「沖田さん、どうしたんですか。最近ぼーっとしてませんか?」
「別に」
心配する山崎に、沖田は素っ気なく答える。
「何か、悩みがあるんだったら何でも相談にのりますよ。お金のこと以外なら」
「・・・・団子」
「え、お団子ですか?お団子が食べたいんですね」
「・・・・」
そうではなく、神楽のお団子頭が頭に浮かんだのだが言い出せない。

あの日以来、神楽のことばかり考えていた。
彼女の甘やかな声と、服の下に隠れた異様なほど白い肌を夢に見る。
この世に怖い物などない沖田だが、頭がどうにかなったのかと、少しだけ不安だった。
団子を買いに走った山崎のことなど知らず、沖田は皆が集まる座敷から出ようと立ち上がる。
「総悟、暗い顔しやがって、腹でもくだしたんだろー。お前に悩み事なんてあるわけねーからな」
意地悪く笑う土方を冷ややかに見やると、沖田は彼の真横の壁を指差した。
「・・・そこに、地縛霊が」

「どこだー!」
「憑いてるぞーー!!」
怯えた叫びが行き交い、大混乱となった座敷を沖田は今度こそ何の未練もなく立ち去った。

 

 

 

誰も来ない廃寺はさぼりに最適な場所で、沖田は昼寝のたびに利用していた。
木造のお堂は埃っぽく、半分傾いでいる。
寺へと続く道には「立ち入り禁止」の立て札があり、町で見かけた沖田のあとを尾行するまで、神楽はここに何があるかも知らなかった。
腕に白い兎を抱く神楽は、竹林の小道を急ぎ足で進む。

 

扉が開けっ放しになっているお堂では、目当ての人物が無意味なアイマスクを付けて居眠りをしていた。
忍び足で近寄りその体の上に兎を落とすと、彼の鼾はぴたりと止まる。
「・・・何しやがる」
「お前の子供を生んだアル。責任取るヨロシ」
アイマスクを取って睨む沖田に、神楽はぴょこぴょこと周りを走る兎を指差して言う。
その姿は、どう見てもただの白兎だ。
そして、二人がこの場所で秘密を持ったのはつい三日ほど前。

「そんなに早く、生まれるもんかい」
「宇宙人を舐めちゃいけないネ、地球人の常識は通用しないアル」
「・・・・」
「今はあんな感じでも、夜兎は成長すると人間の姿に近づくネ」
きっぱりと言い切られると、つい、そうしたものかと思ってしまう。
身に覚えはあり、子供まで生んだ女を捨てるのはあまりに不人情だ。
「一生嫌いでいてくれるなら、責任取って結婚でも何でもしますぜ」
「何でヨ?」
妙な条件に神楽は首を傾げ、近寄ってきた兎を捕まえた沖田は楽しげに笑った。
「怒った顔が一番気に入っているからに決まってまさァ」

 

腕組みをして悩む神楽の傍らで、沖田は兎の顔を引っ張って遊んでいる。
好きなものはいじめたくなるのが彼の性分だ。
「兎の次は何が生まれる、狐かい、狸かい?」
「試してみないと分からないアル」
暴れる兎を彼の手から奪うと、神楽は口を尖らせながら言った。


あとがき??
兎はその辺に捨てられていたものだと思います。
沖田くんも分かっていて付き合っているようです。
幸せならいいのです。(私が)
沖田くんかそのお仲間か知りませんが、本誌でエロ本エロ本言っていたので、一応女体には興味はあるんだなぁと思いまして。
対象が神楽なら良いなぁと思いまして。
・・・あれ、もしかしてこれ、神沖だったんでしょうか。沖田くん自覚無いし。
私が書いたはずなんですが、どういう話なのかよく分かっていません。


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