3+1
「銀ちゃん、それ、私のお肉アル!!!!」
「何言ってるんだ、てめーは。肉に名前が書いてあるのか?」
「ここは私のテリトリーネ!!それに、私が網の上に置いたアル!」
「うっせー」
ちょうど食べごろとなった肉を全て箸で摘むと、銀時は神楽と新八の目の前でそれを口へと放った。
「あああああーーーーーーー!!!」
「肉ーーーーーーーーーー!!!!」
「・・・うまい」
もぐもぐと口を動かしながら、銀時は満足げに呟く。月に一度の焼肉パーティー。
普段、ろくな食事をしていない彼らが目をぎらつかせるのもしょうがないことだ。
準備をするのは新八だが、肉が彼の胃袋に納まることは滅多にない。「肉――――!!!!」
「あ、おい、やめろって。胃が口から飛び出る。下からも出る」
「何でもいいから、出すアルーー!!」
銀時にしがみついた神楽はしきりに彼の腹を叩いている。
その間、せっせと網に新たな肉を敷く新八だったが、これも頃合になれば二人に奪われるに違いない。
自分が何故いつまでもこの場所に留まっているのか、疑問に思う新八だった。
「全く・・・。僕が来るまで、一体どうやって生活していたんだよ」
掃除と洗濯をすませ、買い物に出た新八は重い荷物を抱えながら愚痴りだした。
家の手伝いをほとんどしない銀時と神楽。
まるで、二人の子供を抱える主婦になった気分だった。
万事屋の仕事も雑用ばかりで収入も少なく、生きがいといえるものではない。
それでも新たな職探しをしないのは、辛いことより、楽しいと思えるときが多いからだろう。
父が死んで以来、姉と二人きりだった毎日。
心の底から笑ったり、怒ったりしたのは、彼らと行動を共にしてからだった。
「・・・・ん」
考えながら歩いていた新八は、目の端に映った赤い色に立ち止まる。
横切った路地裏、チャイナ服を見た気がした。
夜はにぎやかだが、昼のかぶき町はひっそりとして人通りも少ない。
チャイナ服はこの町で珍しく、さらに子供といえば、彼女以外考えられなかった。
「神楽ちゃん?」
思えば、彼女は朝から散歩に出たまま帰っていない。
もし神楽ならば荷物を持つのを手伝わせようと思い、新八は通り過ぎた細い横道を覗き込む。
そして、時が凍りついた。お団子を二つ作った髪形に、赤いチャイナ服。
それだけなら別人ということもあるが、足元に転がった傘は紫色だ。
後ろ姿とはいえ、間違えるはずがない。
黒い制服の一番隊隊長とキスしていた。驚きのあまり、硬直していた新八は神楽から顔を離した彼と視線を合わせる。
おそらく、そのとき初めて新八は彼の笑顔というものを見た。
優越感を含んだ、いやな笑い。
気配に気づいた彼女が振り向く前に駆け出したのは、それが神楽だと確認するのが嫌だったからだ。
「何だよ、あれ・・・」
肩で息をする新八は、仕事場のすぐ近くまで来てようやく足を止める。
目撃したものが信じられなかった。
真選組の沖田と神楽は、会えばすぐに喧嘩する関係だったはずだ。
だから、安心していたのだ。
「って、何をだよ!」
考えがまとまらず、新八は自分の頭を乱暴にかく。
注意力が散漫だったせいか、上空から落ちてきた物が彼の頭に直撃したが、全く痛くなかった。
足元に転がっているのは、買い物袋に入っていたはずの特売のトイレットペーパー。「忘れ物ネ。お前、足遅いアル」
万事屋の二階の窓から、神楽が新八を見下ろしていた。
TVを見ながら神楽が食べているチョコレートは戦利品だ。
散歩中、道の向こうからやってきた沖田を見たとき、芽生えたのは戦闘意欲よりも食欲だった。
自分が食べている板チョコを凝視してよだれをたらす神楽に、沖田は笑いながら言ったのだ。
キスをくれたら、チョコをあげると。
鮭茶漬け目当てに喧嘩屋をしていた過去がある神楽だ。
それくらいは、何でもない。「何、怒ってるかー?新八のくせに。欲しいなら、少しくらい分けてあげてもいいアルよ」
「・・・・」
神楽がいくら話しかけても、新八は無言のままだ。
銀時がパチンコに行ってしまったため、二人きり。
同じ部屋にいるというのに会話が全くないというのは、どうも気詰まりだった。
「理由を言うアルよ」
手元にあるトイレットペーパーをもう一つ放ると、新八は当たる前にそれを手で阻む。
そして、彼女の前に仁王立ちした。
「もうキスでチョコ一枚と交換なんてしちゃ駄目だからね!」
「・・・・何で?」
「そういうことは、好きな人とでないとしちゃいけないんだよ。君は女の子だろ。もう少し慎みを持った方がいいよ」
「でも、銀ちゃんは酔っ払ってよくチューしてくるよ」
「いいんだよ、あの人は!僕達の身内みたいなものだし下心がないから。でも、沖田さんは外の人だろ」
「・・・よく分からないアル」
頭ごなしに叱られた神楽は、不満げに頬を膨らませている。
気まずい空気に視線をそらした神楽は、開いた扉に目を輝かせた。「銀ちゃん、おかえり!」
「・・・・おー」
パチンコで大負けしたのか、重い足取りで入ってきた銀時に神楽はさっそく飛びついている。
この調子では、新八の忠告などすでに忘れていそうだった。
ギャーギャーと何か言い合っている二人は全くいつもどおりの光景で、新八の心に蟠っている不安が少しだけ拭われる。
どうしてか、嫌な予感がしたのだ。
目が合った瞬間、笑った沖田を見たときに。
どんなに打ち解けて過ごしていても、本当の家族ではない。
当たり前のような日常が壊れるのは、そう遠くない未来。
奪っていくのは彼だろうか。
あとがき??
うちの新八くんは、どちらかというと、神楽ちゃんのお兄ちゃんな気分なのですね。
だから、妹を心配している感じで。
うーん。沖神←新なんて他にあるのかどうか。
すみません、この三人、みんな同じ顔に見えます。申し訳ない。
新八、何とも思っていなかったけどハリポタがモデルと聞いて(本当?)高感度アップしました。
ダンーー!!
タイトルの「3」は万事屋の方々、「+1」は沖田くん。目の上のたんこぶ。
普通の新神はもう一つくらい書くかと。お通ちゃんも絡んで。