baby don't cry


「まったく、口ばっかり達者になりやがって・・・・」
ぶつぶつと呟く銀時は、散らかし放題だった和室の片づけを終え、大きく伸びをする。
他の部屋は皆が交代で掃除をしているが、和室だけは銀時が自由に使っている領域だ。
「銀ちゃんもマダオ決定アルな」などと冷ややかな眼差しで言われては、さすがに何とかしないわけにいかない。
食費の大部分を彼女が消費していることといい、居候の身分というものを、神楽は全く分かっていないのだ。

「新八もそう思うだろー」
「は、何の話ですか?」
エプロン姿で襖の前を通った新八は、不思議そうに聞き返す。
「・・・・いや、なんでもない」
「そろそろ夕飯の時間ですよ。こっちに来てくださいよ」
「はいはい」
二度同じ返事を繰り返すと、銀時はのそのそと和室から
TVのある部屋へと移動した。
先ほどから神楽の姿を見かけないが、おそらく近所に住む悪友と遊びほうけているのだろう。

「神楽ちゃん、遅いですね・・・」
時計を見た新八はエプロンを取ると玄関に向かって歩き出した。
「ちょっと迎えに行って来ます」
「腹が減れば勝手に帰ってくるだろー。あいつだってそんなに小さな子供じゃないんだから」
「子供ですよ」
振り向いた新八は、銀時と目が合うとにっこりと微笑む。
「神楽ちゃんは、まだまだ小さい子供です」
「・・・・・」
「すぐ戻りますから、
TVでも見ていてください」
言い終えるなり戸を開いて出て行った新八は、軽い足取りで階段を下りていった。
「・・・・なんだよ」
自分の方が、神楽については詳しいのだと、暗に言われたような気がする。
夜兎の頑丈な体を持っているはずの神楽に対して、新八は銀時以上に過保護だ。
妙に面白くない気持ちだったが、その理由について考えるのは面倒で、銀時は頭を乱暴にかきながらソファーに腰を下ろした。

 

 

 

ビルの谷間の空き地での缶蹴りゲーム。
時間が経つにつれ子供達の姿は一人、また一人と減っていった。
夕日が沈み始めると、それぞれの母親が子供を迎えに来るのだ。
手を振って去っていく友達を見送った神楽は、同じく一人残っている少年へと視線を向けた。
「お前は、まだ帰らないアルか?」
「婆ちゃんが体調を崩したから、先週から母ちゃんが大阪行っているんだ。当分、帰って来られないみたいで・・・」
「ふーん」
気落ちした様子で目線を下げた少年に、神楽は微かな笑みを浮かべて言葉を続ける。
「私のマミーの方が遠くにいるアルな」
「えっ?」
「だって、天国だもの」
少年が目を見開いたのと、脇道を歩いてきた人物が声を出したのは、ほぼ同時だった。

「神楽ちゃーーん」
二人が振り返ると、夕日を背にした新八がにこにこと笑って手を振っている。
「ご飯だよー」
「はーい」
手を上げて新八に応えた神楽は、正面から少年の顔を覗き込む。
「婆ちゃんが良くなって、母ちゃんが早く帰ってくるといいアルね」
「・・・うん」
神楽の笑顔釣られて微笑んだ少年は、首を縦に動かした。
母親がいなくても、彼女にはちゃんとこうして迎えに来てくれる人がいる。
そのことに、少年は何故だかひどく安心した。

 

 

「新八―、今日はいつもの公園じゃなくて、ちょっと遠出したアルよ」
「そうだね。よっちゃんも一緒じゃなかったし」
「どうして私のいるところが分かったアルか」
不思議そうに首を傾げた神楽に、新八はくすりと笑う。
「なんとなく」
「・・・何ネ、それ」
「なんとなくは、なんとなくだよ」
随分と曖昧な返答だったが、新八からそれ以上の答えを引き出すのは無理なようだ。
神楽の帰りが遅くなると、いつでも新八は姿を現した。
一度わざと分かりにくい場所に隠れてみたのだが、それでも新八は神楽を探し出してみせたのだ。
人に訊ねたり、定春の嗅覚に頼ることもあるが、神楽の日頃の行動を観察している証拠だった。
「私がもっともっと遠くに行ったらどうするネ」
「迎えに行くよ、どこにいても」
神楽が意地悪く訊ねてみても、新八は平然としている。

新八が幼い頃、一人で遅くまで公園に残っていた彼を見つけてくれたのは、姉の妙だった。
その存在にどれだけ救われたかは、到底言葉に出来ない。
母親を亡くし、父親とも離れて暮らす神楽を見ていると、どうしても昔の自分の姿を重ねてしまう。
彼女が寂しくないように、その笑顔が曇ることがないように。
会話を続けながら、神楽と繋いでいる新八の掌に自然と力がこもった。

 

「それで、今日のおかずは何アルか?」
頭が夕飯のことで一杯になっているらしい神楽の問いかけに、新八は思わず苦笑する。
「お魚だよ」
「金目鯛の甘辛煮がいいアル!」
神楽は鼻息を荒くして言ったが、万事屋の予算では高価な鯛など滅多に買うことは出来ない。
だけれど、無理だとはっきりと言っても神楽を怒らせるだけだ。
「また今度、次のお給料が入ったらね」
「うん」
やんわりと応える新八に、神楽も無邪気な微笑みを浮かべた。
彼女が笑うと、それだけで心が軽くなり、嬉しくなる。
守ったつもりで守られて、必要としてくれているその掌の温もりに救われているのは、二人同じだったのかもしれない。


あとがき??
随分と前に考えた話。ちょっと『地球の王様』を意識か。
どうも、銀魂は神楽ちゃんと新八のダブルヒロインという気がしてならない。可愛すぎる。
力が足りずに銀ちゃんを頼ったりするけど、神楽ちゃんがピンチのときに真っ先に動くのは新八だと思います。


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