観用少女 3


「どーいうこったー、この請求書はーーー!!!」
事務所の机に置かれた紙切れの山に銀時はぶち切れる。
だが、怒鳴られた新八はいたって冷静だ。
「観用少女に必要なものを揃えたお金ですよ。これでも最低限な予算なんですから我慢してください」
「だからって・・・」
「神楽ちゃんが枯れても、いいんですか?」
振り向いた新八ににっこりと微笑まれ、銀時は二の句が継げなくなる。
おどおどした性格だと思っていたが、観用少女と暮らすようになって妙に気が大きくなったようだ。

「まぁ、お前、人形を育てる才能はあるかもな」
ため息を付いた銀時は足元で犬と戯れている神楽を見ながら言う。
最初に見たときはどうも冴えない顔色だったが、今の神楽は普通の少女と見紛うほど生き生きとしていた。
日の光に長い間あたると変色するため、外を歩くときは傘を手放せないが、それ以外は元気がありあまっている様子だ。

 

「でも、ちょっと元気すぎねーか?」
「お転婆娘を作るための、試作品だったみたいですよ。最も、試作品だけで終わったのでこのタイプの少女は彼女一体しかなく、貴重な観用少女みたいですけど」
「・・・だろうなぁ」
彼女が作った壁の穴を見つめ、銀時は納得したように頷いた。
大人しく座っているだけの観賞用の人形が暴れ回って家を破壊したのでは迷惑千万だ。

「あ、ちょっと、銀さん!何、勝手に食べさせているんですか!!?」
「酢昆布」
「ミルクと砂糖菓子以外のものをあげると変質するかもしれないんですから、やめてくださいよ!!」
新八は神楽の手から慌てて酢昆布を引ったくったが、彼女はみるみるうちに表情を曇らせる。
「新八のいじめっ子ー」
「え、な、何で!?」
「よく分かんねーけど、好きなんじゃねーの?ちょっとくらい、大丈夫だろ」
新八から取り戻した酢昆布を再び与えると、彼女はすぐ顔を綻ばせた。
何しろ、一体しかいない試作品。
通常とは食べるものの好みも違うのかもしれなかった。

 

「はいはーい」
電話のベルに反応した銀時は、すぐに受話器を手に取る。
床の拭き掃除をしながら振り返った新八は、にやりと笑った銀時を見て、非常に嫌な予感がした。
案の定、電話を切るなり銀時はの歓喜の声と共に新八に告げる。
「新八、喜べーー!買い手が見つかった!!」
「・・・何のですか」
「決まってんだろ」
銀時は足元にいる神楽の頭をぽんぽんと叩く。
彼女の引き取り手が見つかるまで世話をするよう言われていたのだ。
いつかは別れると分かっていたのに、動揺している自分自身に新八は驚いていた。

 

 

 

「そう、むくれないでよー」
新八と別れるということが分かってから、神楽はずっとふてくされている。
観用少女の店で買った金糸の刺繍入りのチャイナドレスは彼女によく似合っていた。
新八の実家にある諸々の日用品をトランクに詰め、あとは彼女を事務所にやって来る客へ引き渡すだけだ。
向こうは裕福な家庭だというし、男手の新八が一人で面倒を見るよりずっと楽な生活が出来るはずだった。

「神楽ちゃんの幸せのためだよ。会えなくなっても、忘れないから・・・・」
自分自身に言い聞かせるように神楽の頭を撫でると、ふいに、彼女の目から涙がこぼれ落ちる。
青い瞳から落ちた涙は床に転がり、青い硝子玉のように変化した。
丁度、子供の玩具であるビー玉のようだ。
「驚いた・・・。不思議な人形の涙は、やっぱり不思議なものになるんだな」
神楽が泣き続けるおかげで、ビー玉はいくつも増えていく。
会った頃よりずっと悲しそうなその顔に、新八までもらい泣きしてしまった。
昔の新八ならば人形の涙など見たら卒倒していただろうが、今では彼女との別れがこれほど辛くなっている。

 

「僕だって、君が嫌いで手放すわけじゃないんだよ・・・」
格好悪いなぁと思いつつ、新八は袖口で涙を拭う。
給与もろくに貰えない今の生活では、どのみち金の掛かる観用少女を養っていくことなど出来るはずがない。
高価なミルク代を払えず、飢え死にさせるよりましだろう。
自分のためにも、神楽のためにも、これが一番いいのだと分かっていながら、彼女の手を離すのは大きな覚悟が必要だった。


あとがき??
次で終わりー。土方さんと沖田くんがゲスト出演。(予定)
でも、新神ですよ。


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