愛される余裕


「変われば変わるもんだなぁ」
「本当に・・・・」
昼下がりの公園、仕事もなく、のんびりとベンチに座る銀時と新八は缶ジュースを飲みながら呟く。
彼らの視線の先には、子供達と戯れる定春がいる。
以前ならば、子供の2、3人が定春に頭を噛まれて大惨事になっていた。
だが、今は子供達が背中に乗っても定春は暴れる様子はない。
そればかりか、嬉しそうにさえ見えた。
神楽が連れてきた当初、「こんな凶暴な生き物は、絶対に飼えない!」と揉めたのもいい思い出だ。
「たぶん、あれが本当の定春なんでしょうね」
「あー?」
「存在を否定されたら、誰だってぐれたくなりますよ」

ダンボール箱に入れられ、元の飼い主に捨てられた定春。
神楽があらわれるまで、どんな気持ちで道行く人を眺めていたのか。
いくら神楽が親身に世話をしても、すぐに心を開くなど無理だったのだろう。

 

「銀ちゃん、焼き芋、食べたいアルヨ!」
公園の前を横切った焼き芋の屋台を見付け、神楽はすぐさま銀時に駆け寄る。
「ばーか。そんな金あるわけないだろ」
「二人ともジュース飲んでるネ!」
「俺達のジュース代と、お前が食べて満足する芋の代金は雲泥の差があるんだよ」
「ケチーー!!!」
「何とでも言え」
二人が口論しているうちに、屋台は目の届かない場所へと行ってしまった。
口を尖らせた神楽がしょんぼりと肩を落とすと、銀時は大きくため息を付く。
「・・・横町のたこ焼き買ってやる。ひとパックだけな」

満面の笑みで銀時に抱きつく神楽を、新八は顔を綻ばせて見つめた。
孤独を感じていたという意味では、神楽も定春と同様だ。
最初の頃の神楽は嫌な経験をしたせいか周りを突き放した言動が多く、人の良い新八でも持てあまし気味だった。
銀時に懐いてからだろう。
買い物を手伝ったり、他人の気持ちを彼女なりに思いやるようになったのは。
今では新八も、神楽が少々口は悪いが心根の優しい子だと分かってきていた。

 

「生きるには、愛情って大切なんですねぇ・・・」
「はぁ?」
しみじみと呟いた新八を、振り向いた銀時と神楽は怪訝な表情で見やる。
ただ、傍らにいた定春だけが、同意を示すように一声鳴いた。


あとがき??
本誌で定春が銀ちゃんに懐いている様子だったので、こんなの書いてしまった。
愛情をかけなければ、人も動物も植物も、育たないと思います。
人間、とことん一人では生きていけないんだなぁ。


戻る