逢い引き 2
白昼堂々、腹を空かせた少女が道端で寝転がっていた。
食料買い出しの当番だった山崎は、ふと目に入った光景に立ち止まる。
とくに親しくもないが、知った顔だ。
仏心を出した山崎は、彼女にそっと近寄ると、買い物袋の入っていたパンの欠片を差し出す。
それが運命の出会いだった。
「うちはペットの飼育は厳禁だ!」
「違います、彼女は人間です。一応」
目くじらを立てる土方に対し、山崎はいつになく反抗的だ。
山崎の腕には、神楽がぴったりと寄り添っている。
パンを恵んで貰った神楽は、すっかり山崎に懐いたらしい。
屯所に戻った山崎は何とか神楽を追い払おうとするが、腕っ節は彼女の方が強いのだから押し切られる。
そして、連れ帰った神楽を土方に見咎められ、叱られているというわけだった。「大体、そんな凶暴娘、うちには置いておけないぞ!」
「でも、慣れるとわりと可愛いんですよ、ほら」
山崎がポケットから出した飴玉を神楽の口に放ると、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせる。
思わず微笑みを返した山崎の姿に、土方の額には怒りの青筋が浮かんだ。
「餌付けしてどうする、アホ!!!」
「まぁ、まぁ、トシ、落ち着けー」
玄関先でわめき立てる土方に気付き、とたとたと足音をたててやってきた近藤は、二人の間に割って入る。
「ペットは駄目だが、隊士としてなら大丈夫だろう?」
「は?」
「よし、チャイナくん。今日から君は真選組の隊士だ」
「わーいv」
近藤に肩を叩かれ、神楽は意味も分からず歓声をあげる。
「隊服は、総悟のお古をもらえば丁度いいな。バイト料は時給制ということで、この屯所への出入りは自由だ」
「おいおい・・・、本気か?」
破格の条件を提示する近藤に土方は顔をしかめながら訊ねる。
「ああ。チャイナくんの同僚はお妙さんの弟だ。この子がいればお妙さんとの接点も出来るし」
「狙いはそれかーー!!!」近藤と土方が揉めている間も、神楽は集まってきた隊士達にお菓子をもらってご満悦だ。
女人禁制の男所帯。
小さいとはいえ女の神楽は皆の興味を十分に惹いている。
「時給制のバイトとはいえ、金を払うからにはきっちり働いてもらうからな!」
「分かったアルヨー」
「じゃあ、チャイナくんの世話係はトシに任せるということで」
その場を立ち去りかけた近藤の一言に、土方は驚愕の表情で振り返る。
「何だ、それは。こいつを連れてきたのは山崎だろう!」
「山崎は監察だ。仕事のために屯所にいることは少ないし、お前は年中総悟と一緒にいて子供の扱いには慣れているだろう」
にこにこと笑う近藤を見つめて土方は開いた口が塞がらなくなる。
沖田の存在だけで厄介なのに、さらに同じような子供が追加されるなど、考えただけで身の毛がよだつ。「よろしくアル、多串くん」
邪気のない笑みを向けてくる神楽に、土方は大きな大きなため息を付いたのだった。
「え、じゃあ、服を脱げって言っていたのは・・・」
「そこのトイレで仕事着の隊服に着替えろってことだよ。変な意味じゃねえ」
今に至るまでの経緯を話し終え、土方は憮然とした表情だ。
「この辺は物騒なことが起こるから巡回コースの入っているんだよ。だから、いつもあいつとここで待ち合わせてから、市中見回りに行くことにしている。お前らのせいで、今日はかなりの遅刻だ」
「そうだったんですかー」
様々な謎が解け、銀時と新八は深々と頷いている。
万事屋の方の仕事は年中暇なのだから、神楽がバイトを始めたところで何の支障もない。「神楽、バイト料の半分はこっちに寄こせよ。家賃代わりだ」
「・・・・だから銀ちゃんには言いたくなかったアルヨ」
自分の額を突きながら言う銀時を、神楽は頬を膨らませて睨んでいる。
だが、あらぬ疑いが晴れ、双方すっきりとした心持ちなのは確かだ。
「じゃあ、神楽のお守り、よろしく頼むな」
「・・・ああ」
手を振って万事屋へと戻っていく銀時の言葉に、神楽の傍らに立つ土方は渋々といった様子で答えていた。
「・・・・・幸せな連中だな、こっちの話を鵜呑みにして」
「人を信じすぎるところが銀ちゃん達の良いところネ。それに、お前の話も途中までは真実だったアル」
悪戯な笑みを浮かべて自分を見る神楽に、土方もまた同じように笑う。
「早くチューするヨロシ。巡回に行く時間がなくなるネ」
可愛い年下の恋人の要求に応え、土方は彼女を抱き寄せる。
彼が多忙なためにいつも慌ただしい逢瀬になってしまうが、短い時間ながら至福の時だ。土方の体についた煙草の匂いを、神楽は目一杯に吸いこむ。
大好きな銀時とは全然違うが、彼のものならば、それもまたいとおしいと思える香りだった。
あとがき??
神楽ちゃんはバイト料とは別に、土方さんから馬鹿高いおやつ代をせしめているようです。
あれからどうやって恋仲に発展したんだか。
土方×神楽・・・・需要の方はどうなんですかね。
私の銀魂のイメージは、当初、「エリザベス!」と「土方さん格好良い」だったもので、彼には非常に思い入れがあります。
ラブラブーということで。