本命チョコ
「これ、土方さんに」
2月14日、屯所をうろついているときにチョコレートの包みを渡され、彼は絶句する。
屯所内は通常女人禁制だ。
もちろん、土方にチョコレートを差し出した相手は男だった。
「・・・何のまねだ、総悟」
「何って、本命チョコに決まってまさァ」
けろりとした顔で答えると、沖田は意味深な笑いを残して踵を返す。今日の夜は絶対に悪夢を見る。
どんな敵が現れても怯えたことはない土方だが、沖田の笑いだけは心底恐ろしかった。
「いーんですか、チャイナさんからの贈り物だって言わなくて?」
「だって、面白いじゃねーですかい」
一部始終を見ていた山崎の問いかけに、沖田は楽しげに答える。
懐から出したチョコレートを彼はもう齧っていた。
「ゴリラと、パン屋に」と言われたチョコレートはもう近藤と山崎に渡してある。
土方にだけ神楽の名前を出さなかったのは、彼の反応がいちいち愉快だからだ。
そして、もう一つ。「・・・土方さんの箱、他より一回り大きかったなァ」
「あ、何だ、やきもちですか!」
合点がいったというように呟く山崎は、沖田に勢いよく頭をはたかれる。
チョコレートを持ってやってきた神楽に、つい、土方は不在だと嘘を付いた。
その理由など、今は考えたくもない。
「トシ、見ろ!」
夕食のあと、いつもの歌舞伎町のスナックから帰ってきた近藤は土方の部屋に駆け込んだ。
彼が見せつける戦利品のチョコレートは、常日頃思いを寄せる妙からもらったものだった。
「やっぱり、お妙さんも俺のことを・・・・」
「で?」
「え、何だ」
「3月14日は何が欲しいとか、言われたんじゃねーのか?」
「ああ・・・、そういえば」
すっかり浮かれていた近藤は、顎に手を添えて考え始める。
「エルメスのスカーフとグッチの鞄とフェラガモの靴とヴィトンの財布が欲しいって言っていたような・・・・」大きくため息を付いた土方だったが、それでも近藤は幸せそうだった。
近藤が持っているチョコレートはどう見ても、スーパーで売っている安物だ。
海老で鯛を釣るというのはこういうことだろうか。
だが、単純に喜んでしまうのが近藤の良いところであり、彼はこのままでいて欲しいとも思ってしまう。
「お、トシももらったんだな。誰からだ?」
机に置いてあった包みを見てにこにこと訊ねる近藤に、土方は何故か動揺した素振りを見せた。
「そ、それは・・・」
「まだ開けてないじゃないか」
勝手にリボンを解き始めた近藤から慌てて包みを奪うと、土方は口籠もりながら返事をした。
「総悟からもらった」
「・・・・・え」
ぽかんと口を開けた近藤は、我に返ると土方の顔をまじまじと見る。「お前達、いつの間にそんな関係に・・・」
「どんな関係だ!やましいことは何もないぞ!!むしろ、日々殺されかけている」
だからこそ怖かった。
中に何が入っているのか見当が付かない。
チョコレートに毒物混入か、それとも開けると爆発するびっくり箱か。
どちらにしても、土方に有害な物に違いなかった。
「ハハハッ、総悟が悪戯でくれただけだろう。そんな変なものは入っていないさ」
「おい!気を付けろ」
人の良い近藤は土方の心配をよそに簡単に箱を開けてしまう。
思わず身構えた土方だったが、もちろん箱が爆発することはなかった。
「・・・・トシ」
「な、何だ、時限爆弾か?」
「いや、そうじゃなくて。ラブメッセージらしきものが書いてある」
「ああ!?」近藤の不可解な言葉に土方は恐る恐る箱の中身を窺う。
ハート形のチョコレートには、確かにホワイトチョコレートで文字が書かれていた。
『多串くんへ』に続くのは、『中華一番!』という文章。
近藤には全く意味不明だ。「誰、多串くんって?」
「えーと・・・・」
不思議そうに訊ねてくる近藤に、土方は考え込む。
持ってきたのは沖田だが、彼からのチョコレートだとは決まっていない。
今のところ、彼を「多串」の名前で呼ぶのは2名だけだ。
この時期男がハートの形のチョコレートを買うはずもなく、チョコレートの送り主はおのずと知れる。
「どうしたんだ、トシーー!!顔が真っ赤だぞ!風邪か」
「・・・ほっとけ」
真っ赤な顔で俯く土方を心配する近藤だが、冷たくあしらわれる。
予想外な人物からの贈り物だけに、どう反応すればいいかも分からなかった。
あとがき??
何気に近妙。いいですよねー、近藤さんv
日記に書いたSSはそのまま消えてしまうのですが、感想を頂けたので残してみました。
有難うございます。