花泥棒
春物の白いワンピースを着た神楽は、くるりと体を一回転させた。
唇には色つきのリップクリーム、爪にはネイルアート。
二つに纏めたお団子頭には、大きな花飾りが付いている。
「今日はデートアル」
にっこりと可愛らしく微笑んだ神楽を、銀時と新八は呆然と見つめた。「だ、だ、誰と?」
「内緒」
鼻歌を歌う神楽は、ビーズの飾りの付いたポシェットを手に持つと、駆け足で玄関に向かう。
「いってきますヨー」
驚きの冷めやらぬ二人は、扉の閉まる音を聞いた後もその方角を見つめ続けた。
「・・・・誰だよ、相手は」
「神楽ちゃんに声をかける人なんて・・・・真選組のあの人しか思い浮かびませんけどね」
ハックション
「花粉症か?」
「・・・・さァ」
首を傾げた沖田は、鼻をすすりながら土方を見る。
「で、ご用件は?」
「お前が毎日喧嘩して帰ってくる相手のことだよ」
話しながら、土方は新しい煙草に火をつけた。
「万事屋のチャイナ娘、好きなんだろ」
「・・・・・」
「天の邪鬼なお前には無理かもしれねーが、もたもたしてると誰かに持っていかれちまうぞ。女ってのは、優しくしてくれる方にすぐ靡くからな」
好き放題喋り続ける土方に、沖田の顔がにわかに険しくなる。「・・・土方さんは、いつから恋のキューピットになったんでさァ」
「お前の方が付き合い長いから、心配してやってんだよ」
煙草を手に取ると、土方は煙を口から吐き出した。
言われた意味が分からず怪訝な表情の沖田を一瞥し、土方は彼の部屋の襖を開け放つ。
「いいか、忠告はしたぞ」
奥歯に物が挟まったような言い方だった。
何故彼が人の色恋に首を突っ込むような発言をしたのか、理由があるはずだ。
妙な胸騒ぎを感じる沖田はその理由を考えながら廊下を歩く。
神楽の顔を見れば、少しは安心できそうな気がした。
「あ、沖田さん」
玄関先には、非番の山崎が一人で外出の支度をしていた。
下駄に足を通した山崎は、新調した着物の袖を伸ばして沖田に見せる。
「これ、変じゃないですかね。春っぽい色を選んだんですけど」
「どこか、行くのかい?」
「デートです」
「ああ・・・・、あの、小間物屋のバイトの」
山崎が親しくしている娘の姿を思い浮かべた沖田だったが、彼は首を横に振る。
「彼女とは別れました。今日は万事屋の神楽です」会話に、暫しの間が空いた。
沖田はにこやかな山崎の顔を穴が開くほど見つめている。
「え・・・」
「神楽ですよ。万事屋のチャイナさん、神楽って名前なんです」
そのようなことは言われずとも知っていた。
驚いたのは、山崎が彼女をあっさりと呼び捨てにしたことだ。
自分が容易に口に出来ない、大事な名前を。
「たのもー」
ふいに聞こえた声に振り返ると、傘をさした神楽がすたすたと彼らの方へ歩いてくるのが見える。
門番を脅して中に入った神楽は、沖田と目が合うなり思い切り顔をしかめた。
「今日はお前に用はないネ」
「・・・・」
「退!」
飛び付いてきた神楽を受け止めると、山崎は沖田に笑いかける。
「じゃあ、いってきます」明るく笑う山崎とあかんべえをする神楽を、沖田は無表情のまま見つめた。
薄い布地のワンピースに、白い花の髪飾り。
普通の女の子にしか見えない神楽は、愛らしいと表現するのがぴったりだ。
全てが突然で、どうして彼女が山崎の手の内にあるのか、その光景がどうも理解出来なかった。
「あいつなぁ、結構女にもてるらしいぞ。少し頼りない感じが、母性本能くすぐられるそうだ。気の強い女だと、守ってやりたくなるんだと」
屯所の門の前に佇む沖田に、いつのまにか傍らにいた土方が声をかける。
山崎が暇そうにしていた神楽を誘い、ミントンをしているのを見かけたときから、何となく予感がした。
仕事では失敗が多い彼だが、女に取り入ることは上手いようだ。
無自覚にやっているのだから、また質が悪い。「忠告、したろ」
「・・・遅すぎまさァ」
衝撃のあまり、一日で随分と寿命が縮んでしまった気がする。
彼女に手を出す命知らずが、自分以外にいるとは思ってもいなかった。
あとがき??
可哀相な沖田くんとお節介な土方さんとちゃっかり屋の山崎と幸せな神楽の話。
「神楽」「退」と呼び合うところが書きたかっただけ。
うちの山崎は女たらしのようです。沖田を書くと自然と土方を出したくなるのは何故なのか??
山神はまた書きたいです。ラブな沖神の次あたりに。
しかし、これ以上マイナーカップリングを増やしてどうするんだろう。近藤&神楽もいつか書きたいゴリ。ちなみに、この話の続きは、山崎が神楽ちゃんの大事なものをあれやこれや奪っておいて、別れちゃうというもの。(浮気が原因!?)
そんで、傷心の神楽ちゃんを沖田くんが慰めてそのままゴールイン・・・・。(妄想世界)