florist 1
広大な敷地を誇る、ホグワーツ魔法魔術学校。
その廊下の片隅で、一人の男子生徒が途方に暮れて立ちつくしていた。彼は手に、沢山の書物を抱えている。
前の時間、最前列の座席で授業を受けていた彼は、授業終了と同時に担当の教師にそれを渡された。
この本を図書館に戻せば点数が寮に加算されるということで引き受けたのだが、運悪く彼は方向音痴だった。
ただでさえ広い校内。
慣れない新入生が迷うのはよくあることだ。
そういう場合、通りかかる生徒に道筋を訊ねれば良いことだが、何故か先ほどから誰も通りかかる者がいなかった。「・・・砂漠で遭難した人って、こんな気持ちなのかなぁ」
新入生、フラン・バスクは破れかぶれで呟く。
ほんの数分迷っただけだが、心細さもあり、もう何時間も歩いているような錯覚に陥っていた。
入学してすぐのオリエンテーションで校内を案内されたのだが、あまり役には立たなかったようだ。
迷路のような道がこのまま延々と続けば、発狂してしまいそうな気さえする。
手が痺れるほど重い本など放り出して、助けを呼びに行こうかと考えていた矢先、視界の端を、誰かが横切ったような気がした。
慌てて振り向いたフランは、その方角に駆け出す。果たして、それは確かに人だった。
長い髪を背にたらした女生徒。
思わず出そうになった涙をこらえ、フランは彼女を呼び止める。「あの、すみません!図書館への道を・・・・」
振り返った女生徒の顔を一目見るなり、フランはそのままの姿勢で一切の動きを止めた。
同時に、思考さえも停止している。
緑の瞳が印象的な赤毛の美少女は、首を傾げてフランを見つめた。
そうして、彼の背格好から状況を瞬時に理解したようだ。
「一年生?」
「あ、は、はい」
「図書館に行きたいんでしょ。この先の道、分かり難いのよね。案内してあげるわ」にっこりと微笑んだ彼女は、フランの目に、誇張ではなく本当に天使のように映った。
先導するように歩き出した彼女は、すぐに立ち止まる。
そして、後ろを歩くフランに対して、手を差し出した。「な、何ですか」
「その本、半分貸して」
「・・・でも、重いですよ」
「重いからよ」戸惑うフランに、彼女は柔らかく微笑む。
会った当初から、本を持つフランの手が震えていたのを、見逃していなかったようだ。美少女と呼ぶに相応しい彼女の容姿と優しい笑み。
それらは、純真無垢な新入生の心を奪うのに十分たるものがあった。
あとがき??
まぁ、序章ということで。
名前考えるのが超億劫なので、フランは『カルバニア物語』から。
話の元ネタは『Wジュリエット』ですが。
フランくんの実家がお花屋さんの設定なので、フローラみたいな名前にしたかった。
次からはジェームズくんも出てくるので・・・・・。ちょっと怖い。修羅場か。修羅バカ。