florist 3


「年下の男がタイプなのか」

中庭で本を広げていると、そういって話しかけられた。
声の主に気付いていたリリーは苦笑しながら振り返る。
「何でそう思うの?」
「フランとかいう奴に妙に親切だ」
仏頂面で言った後、シリウスはリリーの隣りに腰掛けた。
愛想のない訊ね方だが、親友カップルの動向を彼なりに心配しているらしい。

「あの子ね、私のことを姉みたいな存在だと思っているのよ。恋愛感情じゃないわ」
「・・・そうか?」
「そうよ。本人は気付いてないけどね」
膝の上の本を閉じると、リリーは芝生の上でボール遊びをする下級生達に目を向けた。
その横顔からは、彼女が何を思っているか、窺い知れない。

「今日ね、南の回廊にフランを呼び出しておいたから、そのときはっきり言うわ」
リリーは、小首を傾げて傍らのシリウスを見やる。
「有難う。いろいろ気を遣ってくれて」
「・・・別に」
顔を背けたシリウスに、リリーはくすりと笑った。

 

 

 

初めてのリリーからの呼び出しに、フランは浮き立つ心を抑えられない。
飛ぶような足取りで南の回廊に向かったというのに、待っていたリリーの表情は暗かった。

「あなたからのお花はもう受け取れないわ」
いつものように花束を持参したフランに対し、リリーは首を振って言った。
目を見開いたフランは、一瞬、頭の中が真っ白になる。
「な、何で!」
「私、ジェームズが好きなの。尊敬できる人だし、ずっと一緒にいたいと思ってる。だから、彼を怒らせるようなことはしたくないのよ」
眉を寄せたリリーは、悲しげな声を出した。
自分が、彼女を困らせているのだと思うと、胸が詰まる。
だけれど、行き場の無くなった気持ちをどうすればいいのか、フランには分からない。

 

「半年前にあなたのお姉さんが亡くなったことは、人づてに聞いたわ」
ぽつりと呟いたリリーに、フランは体を硬直させた。
何故、この場でリリーの口から姉の話が出るのか。
その理由はすぐに知れた。

「ごめんね。私は、お姉さんの代わりにはなれないの」
申し訳なさそうに言うリリーに、フランは二の句が継げなくなった。
フランの脳裏の甦る、二つ年上の姉の顔。
姿形は違うが、花が好きなことと、優しい笑顔はリリーによく似ていた。
死んだ姉とリリーを重ねて見ていたかと問われれば、フランには、完全に否定できる自信はなかった。

「私よりもフランのことを思っている人は、すぐ近くにいるわよ」
顔をあげたフランに、リリーは柔らかく微笑む。
フランの想いはけして姉への思慕だけではなかったが、自分が完璧に振られたということは分かった。
泣くことを我慢できたのは、彼らの窺っている第三者に気付いたからだ。

 

 

「・・・・見てたのか」
「うん」
言いにくそうに答えるリンデルに、フランはため息をつく。
柱の陰から心配そうにフランを見ていたのは、彼女だ。
失恋現場を見られていたと思うと気恥ずかしいが、あまり怒りはなかった。

「やる。必要なくなったから」
フランが放ってよこした花束を、リンデルは慌ててキャッチする。
その顔は嬉しそうに綻んでいたが、フランには見えていない。
リリーの言葉の意味にフランが気付くのは、もう少し先のことだった。


あとがき??
間がえらい空いてしまってすみません。
この後ろにジェームズくんとリリーさんのラブ場面があったはずなんですが、さすがに1年以上も経過すると続きなど書けなくなりました。
申し訳ない・・・・。


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