神様より偉い人 3
薔薇十字探偵社は榎木津、寅吉、益田の三人のメンバーで成り立っている。
だが会社のために動いているのは寅吉と益田だけで、主である榎木津は自分の好きなように惰眠をむさぼり、気の向いたときに外出し、そのまま連絡もなしに何日も帰らないという体たらくだ。
それでも巷ではあらゆる事件を解決する名探偵で通っているのが、彼の凄いところかもしれない。そして今、美由紀は薔薇十字探偵社の来客用ソファーに座っている。
そろそろ帰って明日の授業の予習をしたいと思っているのだが、どうにも身動きが取れない。
彼女の膝枕で眠る榎木津が目覚めないかぎりは、美由紀はずっと薔薇十字探偵社に足止めを食ったままだ。
「あの・・・探偵さん・・・・」
体を揺すって呼びかけてみても、すやすやと眠る彼は少しも反応せず、美由紀は思わずため息をついた。
いつもは寅吉が秘書として常在しているのだが、少し前に所用で外に出ている。
「すぐに戻りますから」と言ったわりに時計を見ると30分は経過していた。
益田も何かの事件の調査中で、もし来客があっても榎木津に対応出来るはずがなく、美由紀にしても部外者だ。
どのみち女学生の膝を枕にして眠る探偵を見れば、客も呆れて帰ってしまうことだろう。
「あっ」
扉の開く音がして、美由紀は体をびくつかせた。
寅吉以外の人間だったらどうしようかと思ったのだが、それは美由紀の見知った人物で、取り敢えず胸をなで下ろす。
「・・・・君は」
「こ、こんにちは」
近頃珍しい和服姿で、この世の不幸を一身に背負ったようなしかめ面の男、中禅寺は怪訝な表情で二人のいるソファーに近づいた。
彼とはある事件で知り合って以来、久しぶりの再会だ。
「こんなところで何をしているんだ」
「あの、東京に来てから度々お邪魔させて頂いています。今は留守番を頼まれたんですけど、探偵さんが起きてくれなくて・・・・」
改めてこの状況が恥ずかしくなった美由紀は、睨むようにして自分を見る彼から視線をそらして呟く。
何かを怒っているわけでなく、中禅寺は常日頃こうして苦虫を噛みつぶしたような顔をしているのだ。「あの、探偵さんに何かご用ですか?」
「いや、違う。榎さんは面倒だから起こさなくてもいい。それより・・・・」
『探偵』と書かれた三角錐の乗る机を一瞥した後、中禅寺は無意識に榎木津の頭を撫でている美由紀に目をやる。
「随分と懐かれているようだね」
「・・・はあ」
まるで犬猫のような物言いだが、榎木津に懐かれているというのは当たっているような気がした。
美由紀が事務所に顔を出すたびに、榎木津は諸手をあげて大歓迎してくれるのだ。
そうすると美由紀も悪い気はせず、ついついここに通ってしまっている。
「・・・君は、これのことをどう思ってる?」
腕組みをして何かを考えている風だった中禅寺は、榎木津を指差して言う。
「可愛い人だと思います」
唐突な質問だったため、美由紀はつい思ったままを口にしていた。
それからは何故か微妙な沈黙が続き、中禅寺は俯いて肩を震わせている。
何が起こったのかすぐには分からなかった美由紀だが、どうやら彼は笑っているらしい。
不機嫌の塊のような中禅寺が笑っている。
しかも、かなりの爆笑だ。「あ、あの・・・」
何か変なことを言ったのかと心配になったときに、ようやく中禅寺は顔を上げて美由紀に笑いかけた。
「いや、悪かった」
まだ大分顔が緩んでいるものの、中禅寺は頬に手を当てながら何とか平静を保つ。
好きか、嫌いか、単純な問いかけのつもりだったのだが、予想外の返答に動揺してしまった。
少し付き合えば榎木津が変人だということはすぐに分かり、普通の人間だったら近づかなくなる。
しかし、美由紀にすれば、そうしたはた迷惑な性格も「可愛い」という部類に入ってしまうのだろうか。
だとしたら、榎木津が彼女を気に入るわけだ。
「たぶん、君は正解だよ」
あとがき??
ショートショート。
・ 女学生の膝枕で寝ている榎木津さんを見て、驚いている中禅寺さん。(表情には出ない)
・ 美由紀ちゃんが榎木津さんの「特別」だと察する中禅寺さん。
・ 何気に親友の恋の行方を心配する中禅寺さん。
・ 榎木津さんが、中学生に可愛いと言われちゃってることが可笑しかった中禅寺さん。
・ 天然の美由紀ちゃん。
・ 実は狸寝入りかもしれない榎木津さん。
これを書きたかっただけです。(^_^;)
秋彦さんは益田さんに用事があったようです。
つ、次にエノミユを書くときはもっとラブラブにー。今回榎木津さん眠り姫。