コンプレックス
夕食前のグリフィンドールの談話室。
ハリーが読書をする傍らで、ハーマイオニーは雑誌を広げている。
ハリーが時たま話しかけても、彼女は上の空だ。
何を熱心に見ているのかと覗き込むと、それは最新のヘアカタログだった。
巷で人気のモデルが、きらびやかな化粧と服で写っている。
その中で、最もハーマイオニーが注目しているのは金髪でロングの娘だ。「・・・いいなぁ」
言いながらハーマイオニーは自分の髪にそっと触れる。
彼女のくるくるの癖毛は小さい頃からの悩みの種だ。
すんなりと手櫛の通るストレートヘアにどれほど憧れたか分からない。
まるきり言う事を聞かない髪に、鏡の前で櫛を使うたびに憂鬱になってしまう。
「こういうのって、効くのかしらね」
ハーマイオニーは広告に載っている怪しげな通販の薬を指差してハリーを見た。
値段の張る薬で、「私はこれを使って永遠のストレートヘアを手に入れた!魅力的な美女に変身」という眉唾もののコメントが載っている。
髪に付けるためのピンク色の液体がうさんくさいことこの上ない。
理知的なハーマイオニーだが、どうやら髪に関することでは判断が狂うらしい。「・・・やめた方がいいよ」
「そうかしら」
まだぶつぶつと言っているハーマイオニーに、ハリーは穏やかな笑顔を向ける。
「今のままで十分可愛いと思うよ」緑の瞳に見入り、思わずポーッとなりかけたハーマイオニーは慌てて首を振る。
「駄目、駄目!私はこの髪を何とかしたいのよ!!」
握り拳を作って主張するハーマイオニーはいつになく頑なだった。
近頃やたら雨が多く、髪が広がりやすくなっているのが要因だろうか。
ハーマイオニーの持つ雑誌に目を向けたハリーは、彼女のためにも一計を案じる。
「んー、じゃあハーマイオニー、リボン持ってる?これ位の細さの」
「ある、けど?」
「じゃあ、持ってきてよ。あと、櫛と手鏡と髪を結ぶゴムも」
ハリーはあれこれとハーマイオニーに指示を出し、訳が分からないなりにハーマイオニーは彼に従って小道具を用意した。
そして談話室のテーブルに一式を並べると、ハリーはようやく自分の考えを口にする。「こっちの方なら、何とかなりそうかと思って」
ハリーが指差したのは、ハーマイオニーが開いていた雑誌の片面部分。
ハーマイオニーとよく似た癖毛の娘が髪を頭の上部で二つに分け、リボンを付けている。
細かい編みこみの入ったそれはプロの手によってなされたもので、その手法は具体的に書かれていない。
一人では到底無理な技だ。「これ、ハリーがやってくれるの!?無理よ」
ハリーの意図を悟ったハーマイオニーは、目を丸くする。
「いいからさ。ものは試しだし」
騒ぐハーマイオニーを椅子に座らせると、ハリーは後ろの回り込む。
ハリーの顔を見えなくなると、ハーマイオニーはどうにも反論しにくくなってしまった。
何が始まったかとグリフィンドールの生徒達がちらちらと見ているが、ハリーは構わずに櫛を手に持った。
ハーマイオニーが幼いときに母親が髪をいじったことはあったが、それは随分と昔の話だ。
自分の家族以外の人間、しかも同じ年頃の少年が髪に触るという行為にハーマイオニーは緊張した。皆の視線が集中しているように思えるのは、彼女の気のせいではないはずだ。
どきどきして自分の顔が真っ赤だということは分かるが、ハリーの方の表情はまるで見えない。
ただ、彼がなるべくハーマイオニーが痛くないよう、丁寧に髪をとかしているのが分かった。
ハーマイオニーには胸の鼓動を静めながら大人しく座っていることしかできない。
「出来たよ」
長いようで短かった時間が過ぎ、ハリーは声と共に手鏡を渡す。
恐る恐る鏡に自分の姿を映すなり、ハーマイオニーは仰天した。
雑誌に載っている髪型、そのままだ。
鏡の角度を変えてみたが、リボンを巧妙に使った複雑な編み込みをハリーは見事に再現していた。この髪型だと、ハーマイオニーの髪のふわふわした部分が魅力的に見える。
そして髪がアップになったことで、優等生然としたハーマイオニーにさらに快活な雰囲気が加わった。
イメージチェンジという点で、十分に成功している。「凄いわ、ハリー!有難う」
ハーマイオニーは思わずハリーに抱きついて感謝の言葉を告げる。
その時になって、ハーマイオニーは談話室にいる生徒達の目線が自分にあるのを再認識した。
慌てて飛び退いたハーマイオニーだが、彼らが見ていたのは彼女自身ではなく、その頭だ。
「ハリーって、器用なのね!」
「こういうのも出来るかしら」
いつの間にか談話室にいたグリフィンドールの女子達が集まり、ハリーを囲んでいる。
戸惑うハリーをよそに、ヘアカタログを片手に訊ねる彼女達の目はどれも真剣だった。
誰でも、自分を少しでもよく見せたいのだ。
特に、この年頃の少女達は。「出来る、かもしれないけど・・・・」
ハリーは言葉を切ると、ハーマイオニーのいる方角を盗み見る。
部屋の隅へと押しやられたハーマイオニーは女子の輪の中にいるハリーを見据え、面白くなさそうに口を尖らせていた。
あまりに分かりやすい彼女の態度に、ハリーは吹き出したいのを何とかこらえる。「他の人に頼んで。ごめんね」
ハリーは全員に対してやんわりと断った。
「時間があるときは、いつでもやってあげるよ」
女子達が散ると、ハリーはハーマイオニーにだけこっそりと耳打ちする。
「・・・何であの子達にはやってあげないの」
ハーマイオニーはもとの場所に戻っていく女子を見ながら訊ねる。
内心嬉しく思いながらも、彼女は訝しげな顔つきだ。
そしてハリーの答えは、しごく簡潔明瞭なものだった。「ハーマイオニーの髪じゃないと、触ってもつまらないから」
あとがき??
ハーマイオニーの髪をいじるハリーが書きたかったのです。それだけ。
男の子が彼女の髪とか結んであげるの、可愛いじゃないですか。
ハリー視点で書くとまた不純な感じの話になるのですが、やめとく。(笑)
うちのハリー、手先が器用な設定です。絵も上手い。
対して、ハーマイオニーは不器用。しまった!ロン出すの忘れた。
うちのハリハーはロンあっての物種。
というか、ハリーはロンのこともハーマイオニーと同じくらい好きなのですよ。
ただ、ハーマイオニーは女の子だからロンとは扱いが多少変わる。うちの三人の気持ちを簡単に書くと、
ハリーのことを好き好き大好きアイラビューン状態のハーマイオニー。(私とのシンクロ率120%(笑))
ハーマイオニーを好きだけど素直になれないシャイなあんちくしょうロン。(心根の純粋度200%)
ロンもハーマイオニーも大好きなハリー。(腹黒度数測定不可能)
こんな感じ。(笑)