眠り姫


ックシュン

 

自分のクシャミに驚いて目を覚ましたハーマイオニーは、寝ぼけ眼で周囲を見回した。
ホグワーツの敷地にある、林の中。
あまりに良い天気で建物内にいるのが勿体無く、木漏れ日の下、穏やかな風を感じながら読書をしていたハーマイオニーは知らぬ間にうたた寝をしていたらしい。

手はちょうど読んでいた本のページに挟まっている。

「ちょっと冷えてきたみたいね・・・」
身震いしたハーマイオニーが立ち上がろうとすると、肩にかかっていた上着が足下に落ちた。
急いで拾い上げたハーマイオニーだが、それは彼女のものではない。
ハーマイオニーとさして体格の変わらない、少年のもの。

「ハリーか、ロンかしら?」
首を傾げて言うと、ハーマイオニーは近くにあった鞄に本を詰め込んで歩き始める。
まだ夕食前の時間。
談話室に行けば、おそらく二人に会えるはずだ。

 

 

「ああ、僕だよ」
ロンとのチェスに没頭しているハリーは、片手を上げて合図する。
ハンデ付きで始めた勝負だが、いつものとおりロンの優勢でゲームが進んでいるらしい。
「あんまり気持ち良さそうに寝てたから、起こせなかったんだ。ただ、夕方になると寒いだろうからそれ置いてきたんだよ」
「そう。有難う」
「うん」
生返事をしたハリーは、まだチェス盤を見詰めている。

「ハーマイオニーだって、一応女の子なんだから、野外で熟睡するのはやめた方がいいんじゃないの?」
「一応って、何よ!!一応って!」
笑いながら言うロンに、ハーマイオニーは憤慨して言い返す。
「その勢いがあれば、平気かなぁ」
ロンは苦笑してハリーを見たが、ハリーはまだゲームの次の手を考えているようだった。

 

 

 

「失礼しちゃうわ!」
一日経っても、ハーマイオニーはロンへの怒りが収まらなかった。
「私みたいにキュートな女の子は他にいないじゃないのよ。どこに目が付いてるのかしら」
周りに誰もいないと分かっているからこそ、ハーマイオニーは大袈裟に言ってみたりする。

授業が終了したあとの午後、ハーマイオニーは林の中にあるお気に入りの読書場所を目指して歩いていた。
昨日に引き続き、今日も晴天だ。
途中で寝てしまったために返却できなかった本を、今日こそは読み終えるつもりだった。
あの場所ならばハリーとロンがたまに顔を覗かせるくらいで、他の生徒は滅多にやってこない。
読書に十分集中できるはずだ。

 

「あれ?」
立ち止まったハーマイオニーは怪訝な顔で首を傾げる。
ハーマイオニーが昨日寝ていたのと同じ場所で、誰かが木にもたれて座っていた。
彼女が今いる地点からはその者の後ろ姿がしか見えない。
だけれど、あの跳ねた黒髪には見覚えがある。

「ハリー?」
呼び掛けてみても、反応がなかった。
後ろからそっと覗き込むと、ハーマイオニー予想通り、眼鏡をかけた少年が目をつむって寝息を立てていた。
膝の上には、計算式が途中まで書かれた問題集がのっている。
この問題をハーマイオニーを訊ねようとして、待っている間に眠ってしまったのだろうか。

「・・・・危ないわね」
ハーマイオニーはハリーが握り締めていたペンを取ったが、微かに身じろぎしただけでハリーが起きる気配はない。
悪戯な笑みを浮かべると、次にハーマイオニーはハリーの眼鏡に手を掛けた。

 

 

「うわー、凄い厚み」
面白半分に眼鏡をかけてみたハーマイオニーは、視界がぐらつき、3秒と保たずにそれを外した。
「ハリーって、随分と目が悪かったのね・・・」
ハーマイオニーはハリーの方を見て言ったが、眠り込んでいるハリーからは返事はない。
トレードマークとなっている眼鏡がないと、その印象が違う気がした。

「・・・私より睫毛が長いかも」
ハリーの意識がないのをいいことに、ハーマイオニーはまじまじとその顔を至近距離で見詰める。
体の線はまだ細く頼りなげな少年だが、面差しは意外に大人びていた。
眠っていると普通は幼く見えることが多いが、ハリーはその逆だ。
長い苦労がそうさせたのか。
ロンやハーマイオニーの前で子供っぽく笑うハリーとは、別人のように見えた。

 

気まぐれに唇を合わせたのは、誰も来るはずがないという気持ちと、ハリーがすっかり寝入っていたからだ。
だから、その瞳が突然開かれると、ハーマイオニーは驚きのあまり2メートルほど後退っていた。
はたから見ると、ハリーの方が彼女に何かしたように映る。

「あの、ご、ごめんなさい!!」
恥ずかしくて、緑の瞳をまともに見ることができず、ハーマイオニーは謝罪の言葉と同時に駆け出した。
鞄を放り出しままだったことにすぐ気付いたが、戻るだけの勇気はない。
軽率な行動をひどく後悔したが、全ては後の祭りだった。

 

 

 

「居眠りの次は鞄を忘れるなんて、本当にそそっかしいね」
ロンは再び悪態を付いたが、それは半分もハーマイオニーの耳に入っていなかった。
談話室でロンに捕まったハーマイオニーは死んだような気持ちでその場に留まっていたのだが、やがて現れたハリーは平然とした顔で彼女に鞄を手渡した。
「忘れ物だよ」
その口調にも表情にも、いつもと変わったところはまるでない。
ハーマイオニーは、あれほど自分が慌てたのが馬鹿のように思えて、拍子抜けしてしまった。

「お、怒ってないの」
ロンが席を外すと、ハーマイオニーはすぐさまハリーに訊ねた。
相手によるが、自分だったら不可抗力な状態でキスをされたら怒る。
ハリーが黙ったままなのは、ハーマイオニーにはどうも納得がいかない。

 

「別に。初めてじゃないし」
そっけない返事に、ハーマイオニーは大きな衝撃を受けた。
身内同士で挨拶にするものを除けば、あれはハーマイオニーにとって初めてのキスだ。
自分がそうなら相手もというのは理不尽な考えだと思うが、ハリーにそうした相手がいるとは思いもしなかった。

「ふ、ふーん。それで、ハリーの最初のキスのお相手は誰だったの。私の知ってる人?」
さりげなく聞いたつもりだが、ハーマイオニーの声は動揺のあまり震えている。
視線を泳がせるハーマイオニーに顔を向けると、ハリーはあっさりと答えた。
「ハーマイオニー」

 

 

ハリーを穴が開くほど見詰めていたハーマイオニーは、少しの時間を置いてから声を絞り出す。

「は、初めてじゃないって言ったじゃないの!」
「そうだよ。僕の方が先に、寝ている君にキスをしたんだ」
悪切れもせずに言うハリーに、ハーマイオニーは仰天した。
「いつの話!?」
「昨日」

すぐにはピンとこなかったハーマイオニーだが、思い当たることはあった。
昨日、ハーマイオニーに上着を掛けたのはハリーなのだから、その機会は十分にあったはずだ。
「おあいこだね」
呆気にとられたハーマイオニーに、ハリーはにっこりと笑った。
「ロンも言ってたけど、外で居眠りはしない方がいいよ」


あとがき??
どうしてハリポタ駄文はキスネタが多いのかなぁ。不思議。
NARUTOだとラブラブはおろか、キスなんて恥ずかしくて滅多に書けないのにね。

実は私、ハリハー(ハーハリ)SSって半年以上前にちらりと読んだきりなので、どのような物が主流なのか全く分からない。
他サイトを見て研究した方が良いのかしら。きっと、私の駄文は凄いとんちんかんだわ。
ハーマイオニーしか目に入らないようなハリーは想像できないのですよ。(逆ならしかり)
本当なら私はハリー総受け支持者。自分で書くのはハーハリが一番楽しいけれど。


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