秘密の恋人
その日、何か相談があると呼び出されたハーマイオニーは、ロンの口から予想だにしなかった話を聞くこととなった。
「ハリーが夜中に寮から抜け出してる!!?」
「そう」
素っ頓狂な声をあげたハーマイオニーに、ロンは頷いて答える。
最初はトイレに行ったのだと気にしていなかったロンだったが、一度外に出たハリーは1、2時間は帰ってこないらしい。
「ここのところ、毎日なんだ。撲や君にも秘密にしてるってことは、ただごとじゃない」
神妙な顔つきのロンとは違い、ハーマイオニーは真っ青な顔で振るえている。「・・・・・女だわ」
「え?」
「どこかの女と密会してるのよ!!それ以外考えられないわ!!!不潔よーーーーーー!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
大声でとんでもないことを喚き散らすハーマイオニーに、ロンは慌てて周囲に目を配る。
幸いなことに寮へと続く廊下に人気はなく、誰かに聞かれた様子はなかった。「そんな風に考えてことなかったなぁ」
ロンは思案顔で腕組みをする。
ロンの見る限り、ハリーと親しくしている女子はハーマイオニーとジニーくらいだった。
年中ハリーと行動を共にしているロンならば、ハリーに近づく子がいればすぐに分かるはずだ。
だが、ハーマイオニーはすでに女がいるのだと決め付けている。「浮気は許さないわ!ロン、今夜から張り込むわよ!!」
ハーマイオニーはロンの顔を覗き込んで強い口調で言う。
「浮気」の部分がひっかかったが、ハリーが何をしているか興味があったロンはとりあえず頷いておいた。
「来た来た・・・・」
深夜になり、扉のすぐ近くで張り込みをしていたロンとハーマイオニーは首尾よく寮から出てきたハリーを見つけた。
「透明マントを使わずに歩くなんて、度胸があるわね」
不敵な笑いを浮かべるハーマイオニーに、ロンは落ち着かない気持ちになる。
何が不満なのか、今日のハーマイオニーは別人のようだ。
鬼気迫る迫力というのは、こういうことかと初めて実感する。「やっぱりやめようよ。あとをつけるなんて」
怖気づくロンをハーマイオニーは睨みつける。
「私は一人でも行くわよ!相手の女の正体を見極めるんだから!!」
小声ながら凄みのある声を出すと、ハーマイオニーは振り返ることなく駆け出した。
もめている間に、ハリーの後ろ姿は闇に消えてしまいそうになっている。
もちろんハーマイオニーを一人で放っておくことなどできず、ロンも渋々そのあとを追った。
「・・・旧講堂?」
ハーマイオニーはハリーが入っていった扉をじっと見つめる。
それは老朽化が進み今では使われていない講堂だった。
月明かりが頼りで視界はおぼつかなかったが、二人は確かにそこにハリーが入っていったのを目撃した。「確かに人が来ないわ。逢引には打ってつけね」
ハーマイオニーは怒りを押し殺した声で言う。
ロンは怖くて、もうハーマイオニーの顔を見ることができない。
すぐさま扉に駆け寄ったハーマイオニーは音が立たないよう慎重に扉を開けた。ハーマイオニー達のいる場所からはハリーの姿しか見えないが、確かに女の声がする。
ハーマイオニーの予想が当たっていたことにロンは驚いたが、ハーマイオニーの方はもとより承知していた、という顔だ。
楽しげに微笑むハリーを見た瞬間に、ハーマイオニーは扉を乱暴に開いていた。
「現行犯よ!!!」
犯人を追いつめた刑事、または夫の浮気現場に乗り込んだ妻といった口調でハーマイオニーはハリーに駆け寄る。
「夜中に女と会うなんて、どういう了見よ!!実家に帰ってやるわ!」
「え、ちょ、ちょっと、待ってよ、え?」
突然現れたハーマイオニーに首根っこを掴まれ、ハリーはしどろもどろとなる。
何が起きたのか、状況を把握できていない。「・・・・ねぇ、ハーマイオニー」
「うるさいわね!今、取り込み中なのよ!!」
「いや、でも」
「何なの!!」
しきりに背中を突付くロンに、ハーマイオニーは怒りの形相で振り返る。怯えるロンの傍らには、ハーマイオニーに手を振る貴婦人の姿。
そして、彼女の体はしっかりと額縁の中に固定してある。「・・・肖像画?」
「ハリーが話していた彼女は、この人みたいだよ」
呆気にとられるハーマイオニーに向かって、貴婦人はにっこりと微笑む。
「ハリーの愛人って、絵の中の人だったの?」
「違うって・・・・」
この期に及んでまだ見当違いなことを言うハーマイオニーに、ロンは額に手を置いて嘆息した。
「彼女が一人で寂しそうだったから、話し相手になってたんだ」
帰りの道すがら、ハリーは二人に事情を説明する。
夜中に抜け出していたのは、旧講堂が古くて危ないということで立ち入り禁止になっている建物だからだ。
それに、規則に厳しいハーマイオニーが知れば反対するかもしれない。「来週には絵は新しい講堂に移動するそうだから、もう行かないよ」
「・・・ハリーってば、絵の中の人でも女の子には優しいのね。毎晩人目を忍んで会いに行ってあげるなんて」
誤解が解けても相手が女だということに変わりはなく、ハーマイオニーの機嫌はあまりよくない。
つんとした顔のハーマイオニーは、ハリー達の数歩前を足早に歩いていた。
「・・・ハリー」
何か言いたげな顔をしたロンに、ハリーは人差し指を唇に当てて沈黙を促した。
ハーマイオニーはまるで気付いていないようだが、ロンは何故ハリーが貴婦人画に親切だったのか、彼女を見た瞬間に分かってしまった。
絵の中で、優しい微笑みを浮かべる貴婦人。
衣装や髪の色が違い、いくらか年嵩だが、彼女の顔はハリー達の前を歩く女友達に瓜二つだった。
あとがき??
探偵ハーマイオニー&ロンを書きたかっただけです。
半年くらい前に書いた話のような気がする。