落書


笑顔の優しい、物静かな少年。
ハリー・ポッターという、超が付くほど有名な名前を除けば、彼に対する印象はそうしたものだ。
だけれど、その日のハリーは様子が違った。

 

「僕のノート、見なかった!!!?」
血相を変えたハリーに訊ねられ、ロンとハーマイオニーは目を丸くする。
「し、知らないよ」
「ねぇ」
「本当だね!」
念を押したハリーは、二人が頷くの確認してから踵を返す。
ハリーが廊下の角を曲がって見えなくなっても、二人は唖然とした表情のままその場に佇んでいた。

「・・・・何事?」
「さぁ。でも、ハリーがあんなに慌てているの初めて見たわ」
「ノートとか言ってたよね」
腕組みをしたロンは、唸り声を上げて考え始める。
「うーん。ノートに何か大事な物がはさまってたのかな。へそくりとか」
「誰かの悪口が書いてあるのかもしれないわ」
「誰かって、誰さ」
「・・・知らない」
二人の会話はそこで途切れ、捜査は早くも行き詰まった。

「あ、そういえばジョージに呼び出されてたんだ」
悩んでいる間に約束を思い出したらしく、ロンはポンッと手を叩く。
「ちょっと、行ってくるから。また、夕食のときにね」
手を振りながら駆け出したロンを、ハーマイオニーは呆然と見送る。
ハリーが必死になって捜している物について真剣に考えていたというのに、すっかり気がそがれてしまった。

 

 

一人、寮の談話室に戻ったハーマイオニーは、いつもの席に腰掛けて、持っていた教科書とノートを広げた。
食事を食べ損ねることがあっても、毎日の予習復習は絶対に欠かさないハーマイオニーだ。

数冊の教科書を並べると、その中に、自分のものではないノートが一冊
目を見開いたハーマイオニーは、さり気なく周囲を窺った。
緑の表紙のそれは、おそらくハリーがいつも使っているものだ。
昨夜、ハリーやロンと一緒に勉強会をしたとき、ハーマイオニーの荷物に紛れ込んだらしい。
ノートを見据えたハーマイオニーは、ごくりと唾を飲み込む。

何かは予想が付かない。
だが、ハリーの秘密が確かにここにある。
ノートの表紙に書かれた文字を見る限り、ハーマイオニーが授業を受けていない選択の教科に使っているものらしい。
日記ではないようだから大丈夫だろうと思いつつ、ハーマイオニーはこっそりとノートを開いた。

 

 

 

「ハリー、ノートってこれのことかい?」
談話室にやってきたハリーに、ロンは緑の表紙のノートを掲げて訊ねる。
慌てて駆け寄ったハリーは、ロンの手からノートを奪い取った。

「中、見た?」
「見てないよ。僕がここに来たとき、机に置いてあったんだ。他に誰もいなかったよ」
「そう」
ホッと息を付いたハリーは、確かめるようにぱらぱらと頁をめくる。
そして、ある一点でハリーの手はピタリと止まった。

「・・・・・ない」
「え?何が」
ロンが後ろからノートを覗き込むと、ハリーは急いでノートを閉じた。
「な、何でもないよ」
そのまま、ロンを振り返ることなく、ハリーは階段へと向かう。
ハリーの顔が不自然に赤い理由は、ロンには皆目見当が付かなかった。

 

 

「あら、似てるわね」

ハーマイオニーのベッドの傍らにいた女子が、感心して呟く。
振り向いたハーマイオニーは、にっこりと笑って彼女を見上げた。
「そうかしら?」
「うん。ハーマイオニーが笑うと、こんな感じよ。描いた人はあなたをよく見てるのね」
彼女の返答に、ハーマイオニーは一層顔を綻ばせる。

ハーマイオニーのベッドから丁度見える場所に貼られた、一枚の絵
ノートの切れ端に描かれているのは、はにかんで笑うハーマイオニーだ。
おそらく、退屈な授業中に、暇つぶしに描かれたもの。
会えないときも、彼が自分を思い出してくれているのだと思うと、嬉しくてたまらない気持ちのハーマイオニーだった。


あとがき??
他人のノートを勝手に覗いたり、破ったりしてはいけません。(笑
うちのハリーは、絵が上手いのです。(『プロポーズ』参照)
ノートなんて使っていない気がしますが、見逃して。
5巻ではチョウちゃんとハリーがラブラブらしいので、こんなの書いているのに罪悪感が・・・・。


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