本音トーク


「大丈夫?」
風の吹き抜ける回廊を歩く中、二、三度咳を繰り返したハリーにハーマイオニーが心配そうに訊ねる。
「うーん。喉もちょっと痛いし、風邪かもしれない」
「のど飴ならあるわよ、のど飴!」
慌ただしく鞄をさぐると、ハーマイオニーは飴玉の包みを一つ取り出した。
「気休めくらいになるわ。ほら、これもちゃんとして」
ハーマイオニーは自分のしていたマフラーを外すと、素早くハリーの首もとに巻き付けた。
多少強引なところはあったが、ハリーは有り難くその飴玉を受け取る。

「見たことない飴だね。爆発とかしないの?」
「ただの、普通の、のど飴よ」
ハーマイオニーは「普通」の部分を少し強調してロンに答える。
「僕にもちょうだいよ」
「あれが最後の一個なの」
二人の会話を聞きながらハリーは飴玉を口に放り込む。
もぐもぐと口を動かすハリーを、ハーマイオニーは何故か食い入るように見ていた。

「ど、どう?」
「何が」
「味とか」
「・・・・レモン味みたいだけど」
「何だよ、君が買ったものなんだろ」
「そうだけど」
訝しげに訊ねるロンに、ハーマイオニーは不自然に視線を泳がせる。

 

「・・・・ハリー、ちょっと聞きたいことがあるの」
「ん?」
「レイブンクローにいる、アデル、知ってるわよね」
「知ってる、知ってる!うちの学年で一番の美少女と評判の!!彼女の笑顔を見てると、何でもしてあげたくなっちゃうよね」
「ハリーもそう思う?」
ロンの言葉を受け流しながら、ハーマイオニーはハリーの顔を覗き込む。
腕を組んで考えるような仕草をしたハリーは暫く経ってからようやく手を叩いた。

「ああ、蛙色の瞳の子だ。その子がどうかした?」
「・・・・」
ロンの評価とはまるで違うハリーの口振りに、二人は思わず顔を見合わせる。
「も、もっと、何かないの。長く伸びた蜂蜜色の髪が綺麗だとか、翡翠の瞳は吸いこまれそうなほど澄んでるとか、物腰も上品で魅力的だとか」
「だって、あまり話したことないし」
「そうだけど。じゃあスリザリンのマリアルイゼはどう?」
「・・・・・アリアルイゼ」
アデルに負けず劣らずの美少女のマリアルイゼは、今年度のミスホグワーツ確実と周りから言われている。
それでも、ハリーの口から出たのは「ケチャップを頭からかぶっちゃったみたいな髪の色だよね」というものだった。

 

「ハリー、おかしいよ!」
ハリーに向き直ると、ロンは勢いよく主張した。
思えば、少年達の間で女子の話題で盛り上がっているときに、ハリーはとくに意見をしなかった気がする。
「もっと、可愛い女の子と仲良くしたいとか、楽しくお喋りしたいとか、思わないの」
「女の子はみんな可愛いよ。それぞれ個性があって、お花みたいだよね」
にっこりと微笑んだハリーに、ロンは毒気を抜かれてしまう。
「仲の良い子は、ハーマイオニーがいるから他は別にいいよ」

答えるのと同時に回廊の時計を見上げたハリーは、二人から離れて右に曲がる道を歩き出す。
「これから練習なんだ。じゃあね」
「体調が万全じゃないんだから、無茶しないでよ」
声をかけたハーマイオニーに、ハリーは手を振って応えた。

 

 

 

「実はね、ハリーにあげたのは本音が口から出る魔法の飴だったの」
ハリーがいなくなるとすぐに、ハーマイオニーは飴玉の入った瓶をロンに見せて事情を説明し出す。
「雑誌の通販で買ったの。ハリーってば誰にでも優しいから誰が本命なのかと思って。でも、女の子で一番は私みたいね」
嬉しそうに顔を綻ばせるハーマイオニーの横で、ロンはしきりに首を傾げている。

「本音と建前が一緒の人間なんているはずがないよ。その飴は不良品だ」
「・・・そうかしら」
「決まってる。アデル達よりハーマイオニーがいいなんて、普通なら言わないよ」
強く念を押され、ハーマイオニーはさすがにムッとした表情になる。

「なら、ロンも食べてみなさいよ。この飴をなめながら嘘を言えるかどうか。私が言うことに、何でも「イエス」で答えるのよ」
「いいよ」
ロンが飴を食べたことを確認すると、ハーマイオニーはおもむろに問い掛ける。
「アデルやマリアルイゼより、私の方が可愛いと思う?」

 

もちろん、決められたとおり、ロンは「イエス」と言おうとした。
だが、口から滑り出たのは、それとは正反対の言葉。
いや、口は「イエス」と動いているのだが、出てきた声はロンの心情そのままだった。

「そんなはずないじゃないかー。彼女達と比べたらまさに月とすっぽん。ハーマイオニーじゃまるで比較対象にならないよ。というか、比べること自体がおこがましいっていうか。ハハハ」
高笑いをするロンに、ハーマイオニーの表情はみるみる険しくなる。
思ったことを全部吐露した頃には、ロンの顔にはハーマイオニーの拳による大きな青あざが出来上がっていた。


あとがき??
元ネタは『猫でごめん!』か。
うちのハリーは恋愛ごとに興味が薄いようで。


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