告白
「予鈴だ」
遠くから響く音を耳にして、ハリーは振り返る。
壁にある時計は、授業開始の5分前を告げていた。
本来ならば予鈴に敏感に反応するハーマイオニーが、今は微動だにせずハリーを見つめている。「立てる?」
優しく問われて、ハーマイオニーは初めて自分がハリーを凝視していたことに気づいた。
「え、ああ、うん。平気よ!」
差し出された手を握ると、ハーマイオニーは慌てて立ち上がった。
スカートについた草を払うハーマイオニーの横で、ハリーは彼女の分の教科書を拾い上げている。
中庭の芝生に座って話しているうちに、昼休みはとうに終わっていたらしい。「また、あとでね」
自分に向き直ったハーマイオニーに、ハリーはにっこりと笑いかけた。
いつもの、人当たりの良い優しい笑顔。
それなのに、ハーマイオニーはまともにその顔を見ることが出来なかった。
ハリーが急ぎ足で廊下に消えたあとも、ハーマイオニーはその場所で佇んでいる。彼とは違う授業を選択しているせいで、もう夕食の時間まで会えない。
突然のキスの理由も、訊けそうになかった。
「でさー、その先生が凄くむかつくんだよ。ハーマイオニーもそう思わない?」
「ええ、そうね」
話半分で聞きながら、ハーマイオニーはいらいらとした気持ちで相槌を打つ。
クウィディッチの練習が長引いているのか、ハリーは一向に夕食の席に現れない。
その間ロンの愚痴に付き合うハーマイオニーは、ストレスで胃に穴が開きそうだった。
普段ならば聞き流しているのだろうが、他に気になることがあるせいで、よけいに癪に障る。「あ、ハリーだ。おーい、ここだよ」
手を振るロンの隣りで、ハーマイオニーはどきりと胸を高鳴らせた。
急に昼間の出来事が思い出されて、顔がみるみるうちに赤くなる。
「あれ、ハーマイオニー、熱でもあるの。顔が真っ赤だけど」
「う、うるさいわね!」
ハーマイオニーが乱暴に言った後に、ようやくハリーが二人のいる場所にたどり着く。「あれ、待っていてくれたの?先に食べていて良かったのに」
「誰かさんが待ってようって言ったからさ」
少しふてくされたような口調で言うと、ロンはハーマイオニーをちらりと見る。
「や、やっぱり、みんなで食べた方が美味しいし。いけなかった?」
「いや、嬉しいよ」
やんわりと答えると、ハリーはロンの向かいの席につく。それからは、まるでいつもと変わらない情景だった。
自分にもロンにも、同じように話しかけてくるハリーに、ハーマイオニーは戸惑いを隠せない。
動揺している彼女と比べてハリーは通常通り、昼間のことなど無かったかのようだ。
「あれ、あそこのテーブルにあるケーキ、こっちにはないよな」
会話の合間、違った種類のデザートを目ざとく見付けたロンは、取り皿とフォークを手に取る。
「ハリー達のも貰ってくるから。待ってて」
遠ざかっていくロンを横目で確認し、ハーマイオニーは訊くなら今しかないと思った。「は、ハリー」
「ん、何」
「あの、キ、キ・・・」
「キ?」
首を傾げて聞き返すハリーに、ハーマイオニーは少しだけ声のトーンを落として訊ねる。
「どうして、キスなんてしたの」
「してみたかったから」チキンのソテーをフォークで突いたハリーは、しごくあっさりと言った。
そのあまりの即答に、ハーマイオニーの頭に一気に血が上る。
「誰でも良かったってこと!!?」
思わず声を荒げたハーマイオニーを、ハリーは困ったように見た。
「どうでもいい子とキスをしようと思わないよ」
「お待たせー!」
ケーキの3つ乗った皿を持って戻ってきたロンは、満面の笑みのまま椅子に座り直す。
「ナッツが沢山入ってるんだけど、二人共、苦手じゃなかったけ?」
「ちゃんと好きだよ」
ハリーは何故か皿を持つロンではなく、彼女の方を向いて言う。
頬を染めたハーマイオニーの笑顔のわけに、ロンが気づいた様子はなかった。
あとがき??
ただ、校舎内でチューする二人を書きたかったのですよ。
誰かに見られたらどうしようーという緊張感がたまらないと思うのですが。
夢でチューする二人を見たので書いたお話。
書いているうちに自然とハーハリになってしまうので、ハリハーを書きたいなぁと思う今日この頃。しかし、ロンはいいなぁ。書きやすい。
ハリーはまるで何考えてるか分からないもので。全然思い通りに動いてくれないです。(涙)