SOUL KISS××× T
冬期休暇中、両親のもとへと里帰りしていたジニー。
彼女は、ハリーへのプレゼントを荷物に詰め込んでホグワーツ魔術魔法学校へと戻ってきた。
ほどなく新学期が始まり、校内は本来あるべき賑わいを取り戻す。ジニーは何とか持参したプレゼントをハリーに渡そうとするが、どうしてもきっかけをつかずにいた。
もし兄に見つかれば、はやしたてられる事は必至だ。
そうなれば、ハリーの方も気まずい思いをすることだろう。
都合の悪い事に、ジニーのすぐ上の兄、ロンはいつも親友のハリーに張り付いている。
運良くハリーが一人のときを狙っても、彼は有名人である。
常に人目に晒されている。
寮が一緒でも、学年が違えば、接触できる機会も少ない。
いつ会ってもいいよう、ハリーへのプレゼントの包みはずっとジニーの鞄に入れられていた。
中身は、自宅の台所で作ったクッキーだ。
日だけが経過してしまい、そろそろ食べなければ湿気てしまう。「・・・駄目かぁ」
放課後、ジニーは広場の片隅のベンチに腰掛け、ため息をついた。
傍らには、紅茶の入った水筒。
「しょうがないわよね」
ジニーは一人呟き、ハリーに渡すことのできなかった包みのリボンを解き始める。
どうせ、ハリーと面と向かっては、まだ上手く喋れないのだ。
機会があったとしても、首尾よく渡せていたとは思えない。包みを開くと、バニラエッセンスの甘い香りが漂ってきた。
ジニーは大きく息を吸い込み、暫しその香りを楽しむ。
アーモンドやチョコチップを散らした自信作。
もの欲しそうな父からしっかりとガードし、ハリーのために、形が崩れないよう注意して持ってきたというのに。
「こんなことなら、パパにあげればよかったわ・・・」
「何を?」
唐突に返ってきた返事に、ジニーは思わずクッキーを取り落としそうになる。
「わっ!」
驚かせた張本人が、ジニーの手からこぼれかけたその包みを掴まえた。
そうして、包みを片手にジニーに向かって申し訳なさそうに言った。
「ごめん。びっくりした?」
ジニーは答えることもできず、ただぱくぱくと口を動かした。
目の前にいる人物が、本当にハリーなのかと疑いながら。
「ろ、ロンは?」
「居残り。ハーマイオニーは図書館に向かったよ」
ハリーは答えながら、ジニーの隣りの席を指差す。
「隣り、いい?」
ジニーは慌ててベンチの隅によると、ハリーの座るスペースを作った。
ハリーが隣りに腰掛け、二人の間に暫しの沈黙が続く。無言のまま、経過する時間。
ジニーがちらりと隣りを窺うと、ハリーはつまらなそうでも、さりとて楽しそうでもなく、ただ前方と見詰めている。
こういうときに限って、誰も周りを通らない。
前の授業が規定の時間より早く終わったこともありジニーは一人だったのだが、ハリーも同じらしい。さわさわと風の通り抜ける音が二人の耳に届く。
視界には厳かな雰囲気の漂う校内の建物と、豊かな水を湛える噴水。
どちらかが口を開くこともなく、ただ静かな空気が流れている。待ちに待った夢のような時間だというのに、ジニー泣きたいような気持ちで俯いていた。
沈黙が胸に突き刺さる。
大好きなハリーが隣りにいるのに、満足に喋ることができない。
きっと、ハリーにつまらない子だと思われている。
そんな考えばかりが頭の中をぐるぐるとまわる。
おかげで、よけいに言葉が出てこない。
「これ、美味しそうだね。君が作ったの?」
もじもじと落ち着かないジニーを気にした風もなく、ハリーは唐突に声を出した。
クッキーを指差しながら。
形のいびつなクッキーは一目で手作りのものと分かる。
「食べてもいい?」
その問い掛けに、ジニーは心臓が爆発しそうな気持ちで何度も首を縦に振った。
彼女の返事を確認して、ハリーはクッキーの欠片を手に取り、おもむろに口に放り込んだ。緊張の面持ちでハリーを凝視するジニー。
彼女の熱い視線を感じつつ、ハリーはただ黙ってもぐもぐと口を動かしている。
ジニーには、とても長く感じられる時間。
ごくりと飲み込んでから、ハリーはようやくジニーと向き合った。
にっこりと明るい笑みを浮かべる。「美味しいよ」
ジニーは天にも昇る気持ちで瞳を輝かせた。
「ジニーって家庭的なんだね。将来の旦那さんが羨ましいや。ハーマイオニーなんて、勉強は一番だけど料理は全然駄目なんだよ」
言いながら、ハリーは二つ目のクッキーを口に運んだ。
「あ、あのお茶・・・」
ジニーは慌てて水筒のコップを手に取る。ちょうどその時、授業が終了したのか、大勢の生徒達が広場になだれ込んできた。
中には、ジニーの兄である、ジョージとフレッドの顔もある。
遠目でもすぐにそれと分かる、ウィーズリー一家の証であるジニーの赤毛。
彼女に気付いたジョージとフレッドは、ハリー達のいる場所へと一直線に近づいてきた。
そして、彼らの姿を視界に入れるなり、ジニーは嫌そうな顔をして兄達を見詰める。
「何だよ、こんなところでデートか?」
「お熱いねぇ」
案の定、彼らは揃ってハリー達にニヤニヤとした笑いを向けてきた。
「や、やめて。そんなんじゃないわ!」
真っ赤になったジニーが強く否定すると、ジョージとフレッドはさらに面白そうに笑う。
口笛を吹くジョージに、たまらずベンチから立ち上がったジニーはぽかぽかと拳をぶつけた。
「やめてったら」
必死なジニーだが、か弱い力であまり効果はない行動だ。
ジョージは笑いながらジニーをなだめている。苦笑気味に様子を傍観していたハリーに、フレッドが思い出したように声をかけた。
「そういえば、ロンが捜してたぞ、ハリー」
「え、本当?」
ロンの名前を耳にしたとたん、ハリーは弾かれたように立ち上がった。
いそいそとベンチの隅に置かれた教科書をまとめて、ハリーは傍らのジニーに残りのクッキーを手渡す。
「これ、ご馳走様ね」
笑顔で言うと、ハリーは足早に駆けて行った。遠ざかっていくハリーを、ジニーは少しだけ寂しい気持ちで見送る。
ロンとハーマイオニーはハリーの親友で、特別な存在。
彼らの固い絆に、自分が入り込む隙間はないことを知っていたから。
気落ちした様子のジニーを気にしたのか、フレッドがジニーの頭を撫でる。
「何だよ、これ、お前が作ったのか?」
ジョージはジニーの手の上のクッキーをひょいと取り、口に入れた。
ジニーの許可など、始めから取るつもりはないらしい。横目でジニーが睨むそばから、ジョージの目が大きく見開かれる。
次の瞬間、むせ込んだかと思うと、ジョージはクッキーを吐き出して苦しげに咳を繰り返した。
「おい、大丈夫か?」
フレッドが慌ててその背中をさする。「お、お前、これ何入れたんだよ・・・」
涙目のジョージが、荒い息でジニーに訊ねる。
困惑気味のジニーは戸惑いながらも返事をする。
「ふ、普通の材料で作ったのよ」
「・・・・食べてみろ」
ジニーは言われるままに、クッキーを口に含んだ。
そして、そのままの表情でジニーは固まってしまった。
石化したかのように動かない。
フレッドが心配げにジニーを見る。
「ジニー?」
フレッドを振り返ることなく、ジニーは呆然と声を出した。「不味い・・・」
ジニーの手にある、クッキー。
それは、作った張本人が思わずそう呟いてしまうほどの出来だった。
あとがき??
うがー。何でハリジニ(ジニハリ)になってるのーーー!!!
ハリハーを書こうと思ったのに。ハーマイオニー、陰も形もないよ。トホホ。
書きたかった場面、まだ全然書いてないんですけど。
つ、次こそは!(タイトルも意味不明だし(汗))
Uはジニーが良いんだか、悪いんだか、微妙な目にあいます。
うちのハリーってば、本当に(以下略)。ジニーの気持ちが痛いほどよく分かって、なんだか切ないなぁ・・・。