嫉妬?
「わっ!!」
「キャア!」
ロンやハーマイオニーと話しながら歩いていたハリーは、柱の影から飛び出してきた生徒にぶつかり尻餅をつく。
当然相手にも同等の衝撃があり、座り込む彼女に怪我はないようだが、持っていた荷物が全て床に散らばってしまった。
「ごめん、大丈夫?」
「ええ、私の方こそ急いでいたから。ごめんなさい」
「良かった、割れていないみたいだ」
転がった水晶玉を拾い、手渡すと彼女はホッとした様子で顔を綻ばせる。
「有り難う。授業で使った教材を先生の部屋まで届けるよう言われたんだけど、かさばるものばかりで」
「そう」4人で手分けをして彼女の荷物を集めると、ハリーはロン達に向き直った。
「これ、彼女と一緒に先生の部屋まで運んでくるから、二人は先に寮に戻っていて」
「えっ、そんな悪いわ。私が廊下を走ったせいなんだし」
後ろで驚きの声をあげた彼女に、ハリーはにっこりと笑いかける。
「また転んだりしたら大変だよ」
いつもの優しい笑顔を浮かべるハリーだが、何故か逆らいがたい力を感じた。
そして、荷物の大部分を抱えて彼女と共に歩き出したハリーを、ハーマイオニーは口を引き結んだまま見つめる。
妙に楽しげに喋る二人の姿が、目に焼き付いてしまった。「ハリーって、可愛い女の子には優しいよなぁ・・・」
心を見透かしたようなロンの言葉に、ハーマイオニーは目を細めて振り返る。
「相手が誰でも、ハリーは優しいわよ!」
「えっ、何で怒るのさ」
「別に!!」
口を尖らせたハーマイオニーは、ロンの歩く速度を無視してすたすたと先を行く。
誰にでも優しい、それはとても良いことだと思うが、恋する乙女としては他の女子と仲良くする場面を見るのは面白くない。
対して、ハリーがハーマイオニーと親しくする男子に目くじらを立てたことは一度もなく、彼女としてはがっかりだ。
平穏なハリーの心をかき乱す存在が、いつか現れるだろうか。
それが未来の自分であることを、祈らずにいられないハーマイオニーだった。
「ハーマイオニー、どこにいるか知らない?」
その日の授業が終了し、廊下を歩くロンとハリーは同じ寮の男子生徒に呼び止められる。
選択した授業が違うため、二人とは別行動をしていたがハーマイオニーの行動範囲は親友の彼らが一番よく知っていた。
「図書室だよ」
「そうか、有り難う!」
ハリーの返答を聞いて小走りに図書室へと向かった彼を見て、ロンは不思議そうに首を傾げる。
「あれ、ハーマイオニー、今日は天気がいいから中庭で本を読むって言ってなかった?」
「そうだっけ」
薄く微笑むハリーに悪意は微塵もなく、ロンはただ彼が勘違いしたのだと思った。
ハリーが故意に嘘をつくはずがない。
「図書室まで行って教えた方がいいかなぁ・・・・」
「どうせ寮に戻れば顔を会わせるし、いいよ。行こう」
「そう?」
ハリーに促されるとロンも彼を追うことが面倒に思えて、今の出来事はすっかり頭から消え去ってしまった。建物を繋ぐ二階部分の渡り廊下を行く二人は、何となしに下を見ながら歩く。
そこからは中庭の様子が一望できるのだが、果たして、ハーマイオニーは彼らのすぐ下にあるベンチに腰掛けていた。
ふわふわとした茶色い髪の少女の隣りには、彼女より小柄な少年が並んで座っている。
何を話しているかは分からないが、いやに楽しそうだ。
「あー、あれ、今年入学したばかりのソルダムだよ」
無言になったハリーに、ロンは頭に手を置いて彼の名前を思い出しながら話した。
人懐こい性格のソルダムは男女問わず友人が多く、寮は違うが、3つ年上のハーマイオニーにも気安く声をかけてくる。
彼女の方も弟のように思っているのか、ソルダムに付き合ってよく勉強を教えているとのことだった。
「僕は今まで77人の女の子に求婚したことがあるんだ」
「まあ、随分ともてるのねぇ・・・」
「78人目くらいは、成就させたいと思っているんだ。ハーマイオニーにその気はない?」
言葉と同時に微笑まれ、ハーマイオニーも思わず苦笑する。
「光栄よ。でも、ソルダムは私みたいに年上で、たいした取り柄もない女の子が相手でもいいの?」
「とんでもない。ハーマイオニーは綺麗だよ。君だったら40歳くらい年上でもいいや」
「あらあら」
無邪気なソルダムが相手では、ハーマイオニーも自然と気が緩んでしまう。
もちろん恋愛対象にはなりえないが、一緒にいると彼の明るさが自分の心にも伝染してくるような気がした。「じゃあ、答えはOKってことで・・・・・」
ハーマイオニーの手を握ろうとしたソルダムは、落下してきた物がまともに脳天に当たり、そのまま勢いで地面に転がった。
何が起きたのか分からないハーマイオニーは目を丸くして頭上を見上げる。
「あー、ごめん、ごめん。うっかり辞書を落としちゃって」
「ハリー」
手を振って合図するハリーを呆然と見たあと、ハーマイオニーは慌ててソルダムに駆け寄る。
「ソルダム、しっかり!!」
彼の傍らに落ちた辞書は10センチ以上の厚みがあるもので、死んでしまったのではないかと心配したが、彼の口からはうめき声がもれた。
衝撃で倒れたものの、大事はないらしい。
二階からおりてきたハリーとロンは、ハーマイオニーと共に失神したソルダムを必死に介抱する。
「もう、ハリーって意外とおっちょこちょいなのね。気を付けてよ」
「うん」
両脇に手を当てた怒るハーマイオニーと、申し訳なさそうに頭を下げるハリーを横目に、ロンは難しい顔で俯いていた。
あのとき、ハリーがソルダムを狙って辞書を投げつけたように見えたのは、気のせいなのか。
隣を窺うとハリーは頭を押さえるソルダムを気遣っている風で、とても彼がわざと辞書を落とした犯人には見えない。
「思い過ごしさ、うん・・・」
独り言と共に頷くロンは、どんな場面を目撃してもハリーを信じることのできる、非常に人の良い友達だった。
あとがき??
元ネタ『カルバニア物語』9巻でした。
何年かぶりのハリポタ更新なのに、ヘボい駄文ですみません。
基本的にお気楽更新なもので、感想を頂いたり、見ている方がいるんだなぁと思ったらまた何か書くかもしれませんね。