彼女の秘密
その日の朝、ハーマイオニーはいつもより早起きをして食堂へ向かった。
皆の反応を思うと、少しだけ胸が高鳴る。
だが、平常心だ。
様子が変だと気取られると、正当な評価をしてもらえないかもしれない。
「おはようー・・・」
グリフィンドールの席について待つと、暫らくしてロンがやってきた。
眠そうに目をこすっているうえに、髪は寝癖で上を向いている。
「髪、凄いわよ」
「・・・そう?」
指摘されてもロンはあまり気にせずハーマイオニーの隣りの席に腰掛ける。
いつも、ロンと一緒にやってくるはずのハリーの姿はどこにもない。「ハリーは?」
ハーマイオニーは戸口付近を窺いながら訊ねる。
「寝坊。でも、すぐ来るよ。僕が部屋を出るときちょうど着替えてたから」
「そう」
がっかりしたハーマイオニーだが、来ることは来るのだ。
焦れた気持ちのまま、ハーマイオニーは手元のパンを小さくちぎった。
それから暫らくロンと談笑したハーマイオニーだが、内心は気が気ではない。
元々短気なハーマイオニーは、ついには自分から話を切り出す。「ねぇ。何か、気付いたことない?」
ハーマイオニーの言葉に、ロンは訝しげな表情になる。
「何のこと」
その様子では、全く気付いている様子はなかった。
さらには、
「ああ。パンの種類がいつもと違うよね。ジャムが入ってて、なかなか美味しいや」
と、全くとんちんかんなことを言い出す始末だ。
パンをしげしげと眺めるロンに対し、笑顔を取り繕いながら、ハーマイオニーは心の中で毒づく。“ニブチン!”
「おはよう」
やがて食堂に現れたハリーは、晴れやかな顔で挨拶をしてロンとハーマイオニーの向かいの席に座る。
その直後に、ハリーは目を見開いた。
「あれ!?」
「な、何?」
「今日はパンがいつもと違うね」
楽しそうに言うハリーに、ハーマイオニーは大いに脱力した。
「・・・そうね」
泣きたい気持ちで俯く。「よく似合ってるよ」
パンの籠に手を伸ばしたハリーは、ふいに呟いた。
弾かれたように顔を上げたハーマイオニーに、ハリーはにっこりと微笑む。
その言葉はまさに、ハーマイオニーに向けられた言葉だ。
ハリーは、気付いている。
そう思っただけで、ハーマイオニーは頬が熱くなるのを感じた。「何のことだよ」
不思議そうなロンに、ハリーは黙って微笑していた。
「ハリー」
授業終了後の夕刻、一人で廊下を歩いていたハリーをハーマイオニーは捕まえる。
「ねぇ、朝のことだけど、本当にそう思う?」
「うん」
彼女が何を言っているのかすぐに察したハリーは、穏やかな笑顔をハーマイオニーに向ける。休み期間中に購入した、色付きリップクリーム。
それを、今日のハーマイオニーは密かに付けていた。
淡い色のせいか、今日一日で気付いたのはハリーだけだ。
だけれど、その一人の人間に望む言葉を言ってもらい、ハーマイオニーは十分満ち足りていた。「でもね」
「何?」
「ホグワーツにいるときに付けるのはやめておいた方がいいよ」
思いがけない言葉に、ハーマイオニーは驚いてハリーを仰ぎ見る。
「何で!?」
「先生達にばれるとまずいし」
「・・・・」
ハーマイオニーは僅かに表情を曇らせる。
確かに、規則に厳しいホグワーツでは、何が減点の対象になるか分からない。
それが自分の属するグリフィンドールの生徒全てに関わることなのだから、ハリーの言い分ももっともだ。
肩を落としたハーマイオニーに、ハリーはさらに言葉を続ける。「あと、撲が困るから」
「え?」
急に立ち止まったハリーに合わせ、ハーマイオニーも足を止めた。
周囲に人がいないことを確認すると、ハリーはハーマイオニーに肩に手を置いて素早く唇を合わせる。
突然のことに、ハーマイオニーは棒を呑んだように立ち竦んだ。「こうすると、撲の方にも色が移っちゃうかもしれないだろ」
自分の口元を指差すと、ハリーは邪気のない笑顔を浮かべて言った。
あとがき??
久々ハリハー。楽しいですねv
構想&執筆時間が1時間なもので、短いです。
ハリー駄文って、何気にキスネタ多いですね。
また、何か書きたいですわ。