BELLE 2


廊下の向こうから、ベルとその取り巻きらしい女子達が来るのを見たとき、ハーマイオニーはすぐに別の道を行こうとした。
楽しそうなベルの笑顔を、見ていたくなかったから。
だが、ふと耳に付いた「ハリー」の名前に、ハーマイオニーは思わず立ち止まった。
柱の陰にいるハーマイオニーに、会話に夢中の彼女達は気付いていない。

「どうしてハリーに交際を申し込んだかって?そんなの、みんなに注目されたいからに決まってるじゃない。“ハリー・ポッター”っていう名前以外に、あの子の取り柄なんてないわよ。容姿だって十人並みだし」
「ひどいわね」
ベルの不遜な態度に、傍らの女生徒はくすくすと笑い声をたてる。
「何がひどいの。校内一の人気者の私と付き合えるんだから、光栄のはずでしょ」
声高々に言うベルが視界に入るなり、ハーマイオニーは柱の陰から飛び出していた。

 

突然現れたハーマイオニーにベルは驚いたようだったが、それも一瞬のことだ。
仲間の女子が傍にいることもあり、余裕の表情でハーマイオニーを見下ろす。

「何かご用?」
「あなたに、ハリーの素敵なところは一生分からないわ」
燃えるような瞳でベルを見据え、ハーマイオニーはきっぱりと言った。
僅かに顔を歪めたベルだが、すぐにふんっと鼻を鳴らす。
「あなただって、同じでしょ。“ハリー・ポッター”の名前を知らない魔法使いはこの世にいないもの。彼が友達だと自慢できるから、傍にいるに決まってるわ」
「あなたと一緒にしないで!ハリーは“ハリー・ポッター”の名前を持った、普通の男の子だわ」

その後ベルやその友達と言い合ううちに乱闘にまで発展し、どちらから手を出したのかはすぐに分からなくなる。
ハリーとロンがその場に到着したのは、騒ぎがようやく収まろうとしたころだ。
ハリーの姿を見ると、周りで見物していた生徒達は自然と道をあけた。

 

 

「何があったの?」
服はところどころ破れ、擦り傷だらけになった女子を前にハリーは当惑して訊ねる。
「あの子が突然私に掴みかかってきたのよ!!乱暴な子ね!」
ベルは憤然たる面持ちでハーマイオニーを指差した。

ハリーは無言のままハーマイオニーを見詰める。
どうしてそのようなことをしたのかと、問い掛けているように見える瞳。
その視線にいたたまれなくなり、ハーマイオニーは面を伏せた。
争いの発端となった会話を聞いていたのはベル本人とその取り巻き、そしてハーマイオニーだけだ。
ベルはきっと自分に不利になるようなことは口にしない。
ハーマイオニーには、大事にしている恋人と自分では、自ずとハリーがどちらの言い分を信じるか分かる気がした。

逃げるようにその場を駆け出したハーマイオニーの行動は、騒ぎを見物していた生徒達にベルの言葉を肯定したも同然だった。

 

 

 

自分に近づくその足音が、ハリーのものだと気付いていたハーマイオニーは僅かに体を固くする。
傷薬の入った救急箱を持ったハリーが、ハーマイオニーの姿を発見したのは、学園内にある湖の近くだった。
ベンチに座ったハーマイオニーは、死人のような青白い顔で湖面を見詰めている。

「・・・手、出して」
ハリーはハーマイオニーの傍らに座り、手を差し出すよう促す。
「手」
繰り返された言葉に手を伸ばすと、ハリーはハーマイオニーの腕の怪我をじっと見つめた。
医務室にいけばすぐに治るだろうが、その理由を聞かれる。
ハリーは口を開くことなく、黙々とハーマイオニーの腕に傷薬を付けた。

 

「何も訊かないの?」
「言いたくないんだったら、黙ってていいよ」
「・・・・ベルのところに行かなくていいの」
「もう、彼女とは関係ないからいいんだよ」
その一言に、ハーマイオニーはハッとなる。

「私のせい?」
自分が、よけいな横やりを入れたから。
だから、二人の仲が気まずくなったのか。
気遣う視線に気付いたハリーは、抑揚なく呟く。
「君のせいっていえば、君のせいかな」

ハーマイオニーは泣きそうな顔でハリーを見た。
「・・・・怒ってる?」
「怒ってるよ」
ハリーは薬を塗りおえた傷口にガーゼをあててテープを貼る。
ハサミを使いテープを切ると、ハリーはようやくハーマイオニーに顔を向けた。
「ベルに対してね」

 

目を見開いたハーマイオニーに、ハリーは頭を垂れた。

「ごめん。怪我、させちゃって」
ハリーのその行動に、ハーマイオニーは仰天する。
「ど、どうしてハリーが謝るの」
「ハーマイオニーはむやみに人を傷つけたりしない。その相手がベルなら、きっかけは僕が関係したことに決まってる」
「・・・・」
「彼女が撲にとって不名誉なことを言ったんだ。そうだろ」

念を押すハリーに、ハーマイオニーは口を固く引き結んだ。
喧嘩をしたとはいえ、ベルの悪口を言うのは、告げ口をするようで嫌だった。
それでも、ハリーが自分を信じていてくれたことが、心から嬉しい。
そのことだけで、涙が出そうだ。

「撲とベルのことは気にしないでいいよ。彼女の話ときたら自慢話ばかりだし、君が怪我してるのを見たら、何だか急にベルが憎らしくなっちゃった」
一度言葉を切ると、ハリーは淡い笑顔と共にハーマイオニーを仰ぎ見る。
「関係ないなんて、嘘だよ」

 

 

 

「もったいないなぁ」
ハリーがはっきりとベルに別れを告げてから、彼女はハリー達を全く無視するようになった。
ロンなどは、ベルの姿をちらりとでも垣間見ると、しきりに残念そうに繰り返す。
根に持ったベルがあることないこと吹聴したのか、レイブンクローの女子はハリーを避けるようになった。

「きっと、ハリーに近づいた子はハーマイオニーに殴られるって噂が回ってるよ」
「・・・ちょっと」
険しい表情のハーマイオニーにロンは肩をすくめる。
「怖い怖い。こんな見張りが付いてたんじゃ、ハリーに近づく奇特な女の子はハーマイオニーだけになっちゃうかもよ」
大袈裟なことを言うロンに、ハリーは苦笑いする。
「別にいいよ。それでも」


あとがき??
私の駄文って悪役キャラが登場しないので、ベルちゃんは割と好き。
実際、ハリーとお付き合いする人は大変なんじゃないかなぁと思いまして。
相手は世界一有名な魔法使いの少年ですから。
ゴシップネタとして格好の話題になりそうな。
しかしベルちゃん、ハリーのシーカーとしての腕を忘れてるな。

結論として、ハリーはベルちゃんよりハーちゃんの方が大事らしいです。
そのあたりの絆を書ききれなかったなぁ。反省反省。
ハリーにとってのbelleはハーちゃん、ということで。


駄文に戻る