BELLE 1
「ハリー」
背後から声をかけられ、ロンやハーマイオニーと廊下を歩いていたハリーは振り返る。
そこにいたのは、ハリーより一つ年長のレイブンクローの女生徒、ベルだった。
流れるような長い金髪と、エメラルドの瞳が目を引く、学年一の美少女と誉れの高い生徒だ。
「何?」
ハリーは丁寧に返事をする。
彼女の存在は知っていたが、話したことはない。
ハリーの両隣にいるロンとハーマイオニーも訝しげな表情で彼女を見詰める。
「私、あなたとお付き合いがしたいの。駄目かしら」
単刀直入に切り出した彼女に、ロンとハーマイオニーは唖然とした。
顎をつんと突き出したようなポーズを取る彼女は、ハリーが了承するのが当然と思っている余裕の態度だ。
ハリー一人を呼び出すのではなく、皆が見ている前で堂々と告白するあたりが、もう、彼女の自信のほどを表している。
二人がハリーの様子を窺い見ると、あまり表情を変えることなくベルの瞳を見詰め返していた。「いいよ」
思案時間を全く要さないハリーの返事に、傍らの二人は目を丸くする。
「こんにちは」と挨拶を返したような、あっさりとした口調。
ハリーとベルは今日初めて言葉を交わした間柄のはずだ。
見る分にはハリーはとくに嬉しそうでも、嫌そうでもない。
まるで感情の読めないハリーだったが、ベルは満足そうに微笑んだ。
「有難う。じゃあ、またあとでね」授業開始の鐘が鳴る前にと、彼女はハリー達に背を向けて走り出す。
そしてハリー達も、早く次の教室に移動しなければならない時刻だった。
「ハリー、あの子のこと、好きなの?」
足早に歩きながら、ハーマイオニーはハリーに訊ねる。
「別に」
「じゃあ、何で交際をOKしたのよ」
「悪い人じゃなさそうだし、話していくうちに好きになるかもしれないだろ」
「そんなの駄目よ!好きでもない人を恋人にするなんて」
立ち止まると、ハーマイオニーは声高に言い放つ。
咎めるような眼差しを向けてくるハーマイオニーに、ハリーの顔が僅かに曇った。「君には、関係ないだろ」
ハリーはいつになく、突き放したような声音で言い放つ。
笑顔なことが多いハリーなだけに、少し声の調子を変えただけで、ハーマイオニーには目の前にいる彼がまるで別人のように見えた。
「何してるんだよ。早くしないと間に合わないぞ!」
ハリー達より数歩進んで歩いていたロンが、二人をせっつく。
それから教室に付くまで、二人は全くの無言で、目を合わせることもなかった。
以降、ホグワーツ魔法魔術学校の校内では、ハリーとベルが仲良く歩く姿が頻繁に見られるようになった。
それに伴い、ハリーがロンやハーマイオニーと一緒にいる時間もめっきり減る。「いいなぁ。あんな綺麗な子と・・・」
談笑する二人を遠巻きに眺め、ロンは羨ましそうに呟く。
呆けたようにベルを見詰めるロンを、ハーマイオニーはじろりと睨んだ。
ハリーの恋人になったベルという少女。
女のハーマイオニーの目から見ても、彼女はモデル顔負けの秀麗な面立ちだと思う。
最初はあまり釣り合わないのではと皆に噂されたこの組み合わせも、目に慣れてきたのか、似合いの二人と映るようになった。
それが、ハーマイオニーには何故か面白くない。
彼女の中で、もやもやした、嫌な気持ちがずっと続いている。
ハリーに「関係ない」と言われた、あのときから、ずっと。ハリーの冷たい目を思い出しただけで、自然と涙が滲んできた。
自分の感情をコントロールできないなど、ハーマイオニーにとって初めてのことだ。
図書館でいくら本をあさっても、こんなときの対処の方法は書いていない。
「ハリー。何だかさ、ハーマイオニーの様子が変なんだよ」
ハーマイオニーと離れた選択の授業中、ロンはこそこそとした声でハリーに話しかける。
「どんな風に?」
「情緒不安定っていうか、突然泣いたり、怒り出したり。どっか体の具合が悪いのかな」
「へぇ。全然知らなかった・・・・」
「最近、僕たちとあんまりいないからだろ」
すねたような声を出すロンに、ハリーはくすりと笑う。
「僕が訊いても何も言わないしさ、ハリーも何かあったのか訊いてみてよ」
「分かったよ」
そうして授業終了後、教室を出た二人にとんでもない話が飛び込んできた。
ハーマイオニーが、公衆の面前である女生徒と取っ組み合いの大乱闘をしているらしい。
知らせに来たネビルを前に、ハリーとロンは顔を見合わせる。
あまりの驚きに、なかなか二の句を告げなかった。「あ、相手は誰?」
「・・・レイブンクローのベル」
あとがき??
うちのハリーは、好意を向けられると好意を返して、敵意を向けられると敵意を返す人です。
よって、交際を申し込まれたら、素直に受け入れてしまうのです。(笑)
心ここにあらずのふわふわしたお人なので、彼を好きになった女の子は大変だと思いますよ。思い切りオリキャラ登場させてすみません。ベルちゃん。
フランス語の形容詞「美しい」belleから。『美女と野獣』と一緒。
原作に同名の娘が登場してたら、また、すみません。名字ならいたけれど、名前はいない気がしたので。
今、原作手元にないんですよ。戻ってきたら、再び別の人の手に渡っているという状況で。
・・・・何で私、こんなにハリポタを布教してるんだろう??
レイブンクロ−にしたのに深い意味はないです。ハリー駄文は、作品によってハリーの性格が微妙に変わります。根本は変わりませんが。
特に指定のあるもの以外は、単独作品で内容繋がっていないですし。
今回のハリーは・・・・結構冷静。