彼女の恋人
「話、何だったの!?」
ロンは談話室にやってきたハーマイオニーを見るなり、せっつくようにして訊く。
授業終了後、ハーマイオニーはハッフルパフの男子生徒に呼び出されていた。
彼は万年主席のハーマイオニーに継ぐ成績の優等生で、彼女ともよく言葉を交わしている間柄だ。「・・・交際を申し込まれたの」
ハーマイオニーはほんのりと頬を染め、はにかみながら言う。
相手の男子生徒はなかなかの男前で、告白されて嫌な気持ちになる女子はいない。
思ったとおりの答えに、ロンは顔をしかめた。
今、グリフィンドールの談話室の一角にはロンとハーマイオニー、ジニーにフレッド&ジョージの双子、そしてハリーが集まっている。
ハーマイオニーのもたらした話題に、皆それぞれの反応を見せた。「賢い者同士、結構お似合いじゃないの」
「悪い噂も聞かないしな」
と、双子はなかなか好感触な様子だ。
「素敵ね」
異性から告白された経験のないジニーは瞳を輝かせている。
その中で、真っ向から反対しているのはロンくらいだ。「あんなにやけ顔の何考えてるか分からない奴、絶対やめた方がいいよ!!ハリーも、そう思うだろ」
「え、僕?」
急に話を振られ、ハリーは驚いて自分を指差す。
見ると、ハーマイオニーも熱心にハリーを見詰めていた。
「ハ、ハーマイオニーがよければ、付き合ってみていいんじゃないの」
俯いたハリーは、上ずったような声で答える。「・・・・分かったわ」
ハーマイオニーは何故か気落ちした様子で呟く。
先ほど、嬉しそうに部屋に入ってきた面影は微塵もない。
そのまま女子寮に向かうハーマイオニーの背中を見ながら、彼らは自然と口をつぐんだ。「止めて、欲しかったのかな・・・・」
ためらいがちなジョージの声は、一同の気持ちを代弁したものだった。
「・・・何て返事をしたのかなぁ」
ロンはいつもハーマイオニーが座っている席を見詰めながら言う。
夕食の席に、彼女はいなかった。
交際をするか否かを、ハッフルパフの彼に伝えに行っているのだ。
よほど気になっているのか、ロンはあまり食事に手を付けていない。
だが、ハリーの方は黙々と料理を口に運んでいる。「気にならないの?」
「別に。ハーマイオニーの決めることだし、彼女がしたいようにすればいいよ」
「・・・冷たいな」
ロンは頬を膨らませて不服そうにしている。
だが、ハリーの正直な気持ちはロンに言ったとおりだった。
ただの友達に、彼女の行動を制限する資格はない。
例え、どんなに自分が望まないことでも。
「ごちそうさま。僕、もう行くよ」
もたつくロンを尻目に、食べ終えたリーは足早に大広間をあとにする。
テーブルの横隅で別の友人と食事をしていたジニーが、一人になったロンのもとに移動してきた。「ハリー、何だか元気なかったわね」
「え!?どこが」
浮かない表情のジニーに、ロンは目を見張る。
彼の目には、全くいつも通りのハリーだ。
「鈍いわねぇ・・・・」
ため息をついたジニーに、ロンは憤慨して口を尖らせた。
グリフィンドールの寮へと歩いていたハリーは、ばったりとハーマイオニーに出くわした。
いや、接触したと言った方が正しい。
廊下の角から飛び出してきたハーマイオニーを避けたために、ハリーはかなりの勢いで壁に顔をぶつける。
目の前に、星が飛んだような気がした。「ご、ごめんなさい!」
床に落ちた眼鏡を拾い上げ、ハーマイオニーは青い顔で駆け寄ったが、ハリーは痛みのあまり暫く声が出なかった。
不安げに顔を覗き込むハーマイオニーに気付いたハリーは、必死で平静を装う。
「だ、大丈夫だよ。心配しないで」
額を押さえながら言うハリーに、ハーマイオニーはかえって表情を曇らせた。
「・・・・ハリー、痛いときは痛いって、言っていいのよ」
擦り傷の出来たハリーの顔にハーマイオニーはハンカチを当てる。
「あなたは人の気持ちを思いやることのできる人だけれど、自分の気持ちを素直に表に出すことも必要だと思うわ」ハリーが眼鏡を受け取ったあとには、ただ沈黙が広がる。
至近距離で見つめ合ううちに、先に口を開いたのはハリーだった。
「じゃあ、断ってきて」
唐突に言われ、ハーマイオニーは首を傾げる。
「何?」
「君が、交際を申し込まれた話」
ハーマイオニーは目を見開いてハリーを見上げる。
彼女を真っ直ぐに見詰めるハリーの瞳には、何の迷いもない。「それがあなたの素直な気持ち?」
「そう」
即答したハリーに、ハーマイオニーは破顔した。
ハーマイオニーの笑顔に、ハリーも傷の痛みを忘れて顔を綻ばせる。
同じ頃、食事を終えて廊下を歩いて来たロンは、すぐに二人の姿に気付いた。
「ハーマイオニー!戻ってきたの」
大声をあげて近づくロンに、ハリーとハーマイオニーはさり気なく距離を取る。
そして、ハリーの顔を見るなりロンは目を丸くした。
「あれ、ハリー、額赤くなってるよ?」
「ちょっと・・・・転んじゃって。ただの擦り傷だから平気だよ」
「そそっかしいなぁ。大丈夫」
「ん」
心配そうにハリーの顔を見詰めていたロンは、はたと気付く。「そうだよ。ハーマイオニー、あいつに何て返事をしたのさ!」
「ああ、あれね。断って来ちゃった」
ハーマイオニーは小首を傾げる動作をすると、エヘヘッと明るく笑う。
思わず胸をなで下ろしたロンだったが、
「他に好きな人がいるからって言って」
と、続いた発言に、目と口をこれ以上ないほど大きく開けた。「だ、だ、誰!!?」
「秘密」
驚きのあまりどもるロンに、ハーマイオニーは悪戯な笑みを浮かべる。
「ご飯、食べてくるわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」ロンの呼び声に振り返ることなく、ハーマイオニーは大広間への道を駆けて行った。
軽やかな足取りは、彼女がすこぶる上機嫌なことを表している。
ロンは当惑気味にハリーを見る。
「ねぇ、誰だと思う?」
「さぁ」
肩をすくめたハリーは、笑いながらロンを見詰め返した。
あとがき??
ハリーが告白された話を書いたので、逆も書いてみました。
炎のゴブレットでハーちゃんもてもてだけどね。
11年間ダーズリー一家の元で感情を押し殺して生きてきたハリーは、自分の気持ちを素直に表に出すことが出来ない子のような気がして。
あのとき、ハリーが少しでもロンに同調してくれたらハーマイオニーは満足だったんですけどね。原作に近いハリハーにしようと思ったら全然別物になってしまって何だかもうわけが分からなくなって切腹するしかないような気がしてきた今日この頃。(長い)