転校生(カカシ編・その1)


カカシの精神がサクラの体に入ってから、一週間。
二人は妙な共同生活を送っていた。
サクラの両親には、7班の合宿のため、暫くカカシの家に泊まり込むと言ってある。
だが、実質は二人きりで同居している状態だった。

二人が入れ替わって事実は、ツナデにだけは正直に伝えてある。
彼らを診断したツナデは何とか信じてくれたのだが、里の人々には秘密にしておくよう厳命されてしまった。
誰かに説明したところで、気が狂ったと思われるのがオチだ。
よって、カカシがサクラになっていることを知っているのは、本人達の他はナルト、サスケ、ツナデの三人だけだった。

 

 

 

 

「先生、行かないで!!」
「そんなこと言われても・・・・」
カカシの姿のサクラは必死にサクラの姿のカカシにしがみついた。
ツナデによって仕事量を減らされたとはいえ、カカシの元には上忍専用の任務がいくつか舞い込んできている。
忍び装束を着たカカシが出かけることに、体の持ち主であるサクラは心配で気が気ではない。

「無茶して、私の顔に傷でも作ったらどうしてくれるのよ!」
「平気だって。今日は森に逃げ込んだ敵国のスパイをしばいて、首を火影様に献上するだけだから」
「いやーーー!!!」
野蛮な任務内容を聞いてしまっては、サクラがそのまま引くわけがない。
しっかりと自分の体を抱えるサクラに、カカシは大きなため息を付く。
頭の中身は別として、サクラは今、26歳の男の体だ。
か弱い少女の身では、いくらカカシでも簡単にふりほどけない。
ただでさえチャクラの量が少ないというのに、術を使って無駄な消費もしたくなかった。

 

「サクラ」
名前を呼ばれ、少しだけ腕の力を緩めたサクラにカカシはにっこりと微笑む。
サクラの顔を掴んだカカシは、そのまま有無を言わせず彼女の唇を奪った。
相手は自分の顔をしているとはいえ、男。
あまり気持ちのいいものではなかったが、効果は覿面だ。
悲鳴と共に驚いて体を離したサクラに、カカシは手を振りながら窓の桟に足をかける。

「じゃ、いってくるから。書類整理の方の仕事、頼んだよ」
「馬鹿―――――!!!!」
絶叫するサクラに構わずカカシは屋根伝いに走り任務地へと向かう。
ファーストキスがこのような形で終われば、サクラが嘆くのも無理はなかった。

 

 

 

 

「あの・・・・カカシさんは」
「私が代理ですvカカシ先生の生徒で、春野サクラっていいます。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる12歳の少女に、今日、初めて任務を共にする新米の上忍は明らかに困惑していた。
里でも有名なコピー忍者、カカシと仕事を出来ると思い、はりきっていたのだ。
そうしてやってきたのが彼女では、気落ちするなという方が無理だった。
「確かな話だ。拙者が保証する」
「ねっ!」
「・・・・」
念のために連れてきたパックンの言葉に、新米上忍は納得するしかない。
追跡能力のあるこの忍犬は、カカシの相棒として木ノ葉隠れの忍び達の間で広く知られた存在だった。

「じゃあ、パックン。さっそく頼むな」
「承知」
息の合った様子の彼らに、新米上忍はさらに不審感を募らせる。
本来、口寄せの術で呼び出した生き物は、主人にしか従わないものなのだ。
サクラと名乗った桃色の髪の少女、得体が知れなかった。

 

サクラの体になったあとも、それまで通り仕事をしているカカシだが、段々と容量が掴めてきた。
抜群のチャクラコントロールは彼女の武器だが、いかんせん、スタミナがない。
時間がかかるほど不利になると知っていたカカシは、パックンの力で敵の潜む場所に導かれるなり、さっそく攻撃を仕掛ける。

それまで、だたの子供にしか見えなかった彼女の突然の変化に、新米上忍は目を見張った。
彼女が組んでいる印は、上忍でも扱うのが難しい幻術だ。
易々と術を発動させると、クナイを握る彼女の姿はもうそこにはなかった。
彼の目にかろうじて映ったのは、クナイを使う彼女の残像。
月明かりの下、刃が光ったと思ったときには、勝負は決していた。

「・・・あとの始末、お願いできます?」
微笑みながら声をかけられ、新米上忍ははっとなる。
敵の数は5人。
そのうち4人は彼女がかけた幻術にかかり、混濁する意識の中、互いに斬り合いをして果てた。
リーダー格の忍者はさすがに幻術返しをしたようだが、細身の体を活かした彼女のスピードに体が追いつかず、首を切られて絶命している。
とんでもない早業だった。

 

今、血の付いたクナイを丁寧に拭いている少女のは、何者なのか。
外見だけで判断した自分の愚かさに打ちのめされた。
自分を凝視していることに気づくと、彼女は新米上忍に向かって柔らかく微笑する。
新米上忍はまたしても、裏切られた気持ちだった。

普通ならば、どう考えても太陽の日差しの元で笑う方が似合う少女だ。
なのに、今夜の彼女は月さえも味方につけている。
頬に返り血を付けて艶やかに笑う姿に、背筋が凍り付いた気がした。

 

 

「何だかさー、ぼーっとしちゃって、あの新米くん大丈夫なのかね」
帰りの道すがら、カカシは真剣な表情で考え込んでいる。
「・・・無理もないと思うぞ」
「え?何で」
半眼で見つめてくるパックンに聞き返したが、答えは返ってこない。
上忍のカカシはともかく、下忍のサクラは木ノ葉でほとんど知られていないのだ。
その彼女が下忍の能力に見合わない活躍をすれば、驚くのも当然のことだった。

「じゃあ、もう帰っていいよ。お疲れ様」
「うむ」
カカシが巻物を開くと、パックンは大人しく元の場所へ戻っていく。
もう一度呼び出すにはサクラの体に流れる血が必要だが、今日の仕事はこれでお仕舞いだ。

 

「・・・・さて、どうしようかな」
いつもなら、幾つかあるなじみの女の家にしけ込むところだが、今はサクラの体だ。
人を殺した夜は、人肌が恋しくなる。
誰かにそばにいてもらいたくても、寄り道をすればサクラが怒るに決まっている。
民家の屋根に腰掛け、暫く月を眺めていたカカシは腹を決めた。
変化の術で見せ掛けだけ元の自分に戻ることは可能だが、これがサクラの体という事実は変わらない。
全ては彼女の了解を得れば解決することだった。

 

 

 

 

「先生――!!!」
窓を開けるなり飛び付いてきたサクラを、カカシは何とか受け止める。
「怪我はなかった?」
「・・・平気」
サクラをどけると、カカシは靴を脱いで窓の鍵をしっかりと閉めた。
そしてサクラに向き直るなり、小さな声で呟く。
「金縛りの術」
「え」

素早い動きで印を組むカカシを呆然と眺めたサクラは、身動き出来ずに倒れ込み、初めて彼が自分に向かって術をかけたと悟る。
「ちょ、ちょっと、先生、どういうつもりよ!!!」
「サクラとエッチなことしようと思って」
自分にのし掛かり、服を脱がし始めたカカシにサクラは仰天する。
「正気!?」
「俺さ、夜に人を殺すと、誰かを抱きたくなるんだよね。サクラの体で男を誘うわけにもいかないでしょ」
「当たり前じゃない!!」
「だから、サクラとしようと思って」
「や、嫌だって!やめてよ」

 

唯一動く口で抵抗の意思を見せても、体が微動だにしないのでは意味がない。
だが、しくしくと泣かれていては、気が散るのだろう。
一度手を止めると、カカシは上からサクラの顔を覗き込む。

「このまま外に出ていっても、いい?」
「・・・・・」
歯噛みしたサクラは、涙をためた瞳でカカシを見る。
顔も知らない行きずりの男に自分の体を好き勝手にされると思えば、現状の方が幾分マシだろうか。
「・・・やり方、分からないわよ」
「だろうねぇ」
悪戯な笑みを浮かべたカカシは、サクラの唇に口づける。
「サクラはじっとしていればいいから」


あとがき??
思えば、サクカカでエッチな場面を書きたくて考えた話でした。でも、前置きだけで満足してしまった。
というわけで、肝心な部分は省いて2に進みます。
気が向いたらそのあたりも浦の部屋にアップたいですが。
仕事をしたあとは人肌で温まらないと正常な体に戻れないという設定は、『死化粧師』ですね。
ここで書けなかった二人の日頃の生活振りは、サクラ編で。


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