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転校生(カカシ編・その2)


『替魂香』に関する文献を見付けたのは、若い頃から医術の勉学のために様々な資料を読みあさったツナデだった。
特殊な香木を合わせて作るその香には、人の魂を入れ替える効果がある。
ツナデの話によると、すぐに作業に入るが完成には少し時間がかかるということだ。

 

 

 

「イタタッ」
足を僅かに引きずりながら不自然な格好で歩くカカシは、ゆっくりとした動作で手首を見やる。
昨夜サクラが握った場所がくっきりと痣になっていた。
おそらく、サクラはそれほど強く掴んだつもりはないのだろう。
だが、柔な子供の肌にはすぐあとが残ってしまうのだ。
元に戻ったら、気を付けようとカカシは胸に誓った。

血を見たあとは気が高ぶるものだが、カカシの場合は誰かが共寝しないと手足の震えが止まらなくなる。
そのため嫌がるサクラに無理強いしたわけだが、おかげで正常に動けるまで回復することが出来た。
問題は、内股の例の箇所に残っている鈍い痛みだ。
「初めてなのに、3回はきつかったか・・・」
傷には慣れっこのカカシだから翌日も普通に行動しているが、サクラ本人なら寝込んでいてもおかしくない。
12になったばかりの少女の体、しかもその前の任務後で術を使い疲れていた。
他人の体を酷使したことを少々反省しつつ、カカシは足りない睡眠を補うべく自宅へ向かっている。

 

 

二人は体が入れ替わった後も、7班の仕事はきちんと続けていた。
任務終了後、カカシの姿をしたサクラは報告書を提出に行っているはずだ。
ナルトの一楽への誘いを断り、一路自宅を目指すカカシは、人通りの少ない路地である人物に呼び止められる。

「春野、サクラさん」
「・・・・はい」
自分のことだと気づくのが遅れ、カカシは少し時間をあけて振り向いた。
はにかんだ笑顔で立っていたのは、昨日一緒に仕事をした新米上忍だ。
夜目でははっきりと分からなかったが、赤毛が特徴のなかなかの二枚目だった。
でも自分の方が勝っているな、と妙な対抗心を燃やしながら、カカシは笑顔で挨拶をする。

「こんにちは。昨日は先に帰ってしまって、すみません」
「い、いえ。こちらこそ、助かりました」
急に頬を赤らめて俯いた彼に、カカシは訝しげに眉を寄せた。
変な新人だと思っていたが、今日はさらに挙動不審だ。

 

「あのー・・・・」
「サクラさん、あなたに一目惚れしました。付き合ってください!」
どこからか取り出した花束を差し出され、カカシは目を丸くした。
女ならば数え切れないが、男から愛の告白をされたのは生まれて初めての経験だ。
自分ではなくサクラに対してことと納得はしたが、カカシは複雑な心境で彼の顔を見つめる。

「私、実はカカシ先生の愛人なんです」
「・・・・は?」
「ずっと前からそういう関係なんです。毎晩のように先生の相手をして・・・そんな女でも、好きって言ってくれるんですか」
カカシが思い付くまま口にした出任せに、彼の表情はあからさまに強張っていた。
これなら、諦めてくれるだろう。
どうせ彼が惚れたのは別の人格が入ったサクラなのだし、彼女自身は新米上忍の存在を全く知らない。
今のうちにふった方が彼のためだ。

 

 

「ごめんなさい。じゃあ」
「待ってください!」
踵を返そうとしたカカシを見て、新米上忍は素早く彼の肩を掴む。
「あなたの、意思じゃないんでしょう。きっと上忍としての権力を使って無理矢理・・・。そうに決まっています」
「え!?」
「俺はあの人よりも強くなります。そして、あなたを助けてみせます!」
「・・・・・・」

自分を悪人に仕立て上げたあげく、強くなると豪語する新米上忍にカカシは頬を引きつらせる。
確かに「サクラを無理矢理」のあたりは強く否定出来ない。
しかし、これでも木ノ葉隠れの里で指折りの忍者だという自負はあるのだ。
昇進試験に受かったばかりの新人に、簡単にそのようなことを言って欲しくなかった。

 

「ありがとう・・・・」
わざとらしく涙ぐむカカシは、新米上忍を手招きして屈ませると、その唇に吸い付くようにキスをする。
一生忘れられないくらい、熱烈にしたつもりだ。
高嶺の花からの、お別れのキスなのだから。

「応援しています」
春の花が綻ぶように笑う彼女が、腹黒い思惑を持つカカシだと、彼は一生気づくことはない。
残酷な幸せの中にいる新米上忍に、カカシは心の中で思い切り舌を出していた。

 

 

 

「バーーーカ」
しおらしく手を振って彼と別れたあと、カカシはすぐに花束をごみ収集場所に捨ててしまった。
「一昨日来いっての」
ぶつぶつと呟きながら歩くカカシは、近づいてきた気配に立ち止まる。
前から走ってくるのは、報告書を届けに行ったはずのサクラだった。

「カカシ先生――!」
カカシの前で一息つくと、サクラはにこにこと笑う。
「まだ帰っていなかったんだ」
「ちょっと邪魔が入ってねー」
「邪魔?」
「うん」
サクラの腕を掴むと、カカシはしごく真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「サクラ、元の体に戻ってからのことだけれど、赤毛の俺よりも劣るちょっといい男が言い寄ってきても、無視しないと駄目だぞ」
「・・・何、それ」
首を傾げたサクラだったが、その表情はすぐに笑顔に変わる。
「そうそう、火影様が明日の午後には『替魂香』が出来るから取りに来いって。良かったね!」


あとがき??
やっと終わり。
こう、男パートと女パートに別れた話は、『冷静と情熱の間』を思い出す。
内容全然違うけど。
入れ替わったり戻ったりが簡単に書かれているのは、その辺りが大事じゃないからです。
ただ、カカシ先生&サクラを書きたかっただけなので。
そろそろ飽きてきたので、早く書かないと完結できない・・・・。
いえ、現時点では筆が止まりまくっています。
ああ、カカシ先生がいつもより短気なのは、体の持ち主であるサクラの性格に引きづられているからです。


共通エピローグ