転校生(サクラ編・その2)


『替魂香』に関する文献を見付けたのは、若い頃から医術の勉学のために様々な資料を読みあさったツナデだった。
特殊な香木を合わせて作るその香には、人の魂(人格)を入れ替える効果がある。
ツナデの話によると、すぐに作業に入るが完成には少し時間がかかるということだ。

 

 

 

二人は体が入れ替わった後も、7班の仕事はきちんと続けていた。
サクラはカカシの代わりに任務の報告書を提出に来たのだが、一日中ぼーっとしている状態だ。
何をどうされたのか記憶が曖昧だが、とてつもなく気持ちが良かったということだけは覚えている。
全てはベテランであるカカシのリードが良かったおかげなのだろう。
あのときのことばかりが頭をちらつき、全く仕事にならない。

もうすぐ元の体に戻るのだし、これが病みつきになるようではマズイのだ。
自分は女なのだと、サクラは強く自分自身に言い聞かせる。
そうして悶々と考え事をして歩くサクラは、廊下の角からやってくるくの一の存在に全く気づいていなかった。

 

「キャッ!!」
「うわ」
サクラと出会い頭に接触した彼女は、抱えていた山のような書類を床に放り出してしまう。
サクラの見る限り、彼女に怪我はないようだがどうやら急いでいる様子だ。
「あー、ごめんなさい!」
「いえ。こちらも不注意でした」
散らばった紙を拾うのを手伝ったサクラは、彼女が持っていた書類の束も丸ごと引き受けて歩き出す。
「こっちで、良いんですよね」
「え、そ、そうですけど・・・」
「運びます。紙って結構重いし、また誰かにぶつかったり転んだりしたら、危ないから」

サクラが傍らにいるくの一に向かって微笑むと、彼女の頬は見る間に赤くなる。
実は彼女は以前からカカシに想いを寄せていたのだが、サクラがそうしたことを知るはずがない。

 

 

「はい、気を付けてね」
「有難うございました!」
彼女の向かっていた部屋の前に付くと、サクラは書類を手渡してにっこりと笑う。
「あ、あの」
「ん?」
「私、あと30分で仕事終わるんです。だから、一緒にお茶でも飲みに行きませんか!!」
「・・・・・」
恥じらいながら一生懸命に声を出す彼女に、サクラはぽかんと口をあける。
自分が言われたわけではないと分かっていても、頭が妙に混乱してしまった。

カカシならば、喜んで彼女の誘いを受けたことだろう。
だとしたら、自分もそのように行動した方がいいのだろうか。
サクラが悩む間も彼女は緊張し、顔はこれ以上ないほど赤くなっている。
思わず可愛いと思ってしまったサクラだが、彼女に手を伸ばしかけて、はたと正気に戻った。

同性に対して愛情を抱くなど、通常のサクラならば考えられないことだ。
心が体に引きずられている。
「ご、ごめんなさい!!」
大きな声で言うと、サクラはそのまま駆け足で廊下を走り去った。
これ以上、カカシの体の中にいたら危険だ。
一刻も早く『替魂香』の完成を望んだサクラは、自然とツナデの執務室に直行していた。

 

 

 

「明日の午後には完成するよ」
「本当ですか!!?」
頼もしいツナデの言葉に、サクラは瞳を輝かせて歓声を上げた。
「ああ。7班の仕事が終わったら取りにおいで」
「有難うございます!!!」

喜色満面のサクラは軽やかな足取りで火影の執務室をあとにする。
もうすぐ、この不自由な生活とおさらば出来るのかと思うと、顔が緩んで仕方がなかった。
廊下で通り過ぎる者達の中には、振り返ってサクラを見ている忍びもいるが、構わない。
どうせ、これは今日までの借り物の体なのだ。

 

「カカシ」
「・・・・はい」
自分を呼んでいると気づいたサクラは、ワンテンポ遅れて振り返る。
最初に見えたのは、扉の陰から手招きする白い手。
次に顔を確認したが、見たことのない美人だった。
カカシの交友関係について全くと言っていいほど知らないのだから、サクラが分からない方が正しい。

「何でしょう」
テクテクと近づいたサクラは、いきなり腕を掴まれたかと思うと、ほの暗い無人の部屋に引っ張り込まれる。
「ええ!?ちょ、ちょっと・・・」
細腕のどこにこんな力が、と変に感心するサクラは、背中に手を回してきた彼女に目を白黒とさせた。
彼女の肩を掴んで必死に体を引き離すと、涙の浮かんだ瞳で自分を見る美女がいる。

「最近、何で全然うちに来てくれないのよ!」
「・・・・え?」
「しらばっくれないで。一週間に一度は顔を見せるって約束したでしょう」
「・・・・・ああ」
暫く考えてから、サクラはようやく状況を呑み込む。
サクラを暗がりに引っ張り込んだこの美女は、カカシの恋人なのだろう。
カカシの体で行動を始めて数日、何度か似たような女性から話しかけられた。
彼女で4人目だ。
不実なカカシを軽蔑するサクラだったが、今は自分の力だけでこの場を上手く収めるしかない。

 

「火影様の、大事な仕事を任されているんだ。だから、忙しくて」
「・・・・」
「来週になったら絶対に行く!悪かったよ」
言いながら、サクラはそっと彼女を抱き寄せる。
「愛している」という甘い台詞だけで彼女が離してくれたのは、サクラにとって幸いだった。
それ以上を望まれても、サクラにはどうすることも出来ない。

「約束ね」
上目遣いにサクラを見つめ、微笑む彼女はサクラが今まで会った女性の中で五指に入る美女だ。
もちろん、スタイルもいい。
どうして恋人を一人に絞らないのかと、彼女の豊満な胸を眺めつつ男心を計りかねるサクラだった。


あとがき??
何だか、サクラが筆おろしをしたあとの少年のように・・・・。
申し訳ございません。
先生、外に何人も女がいるという私の見解は間違っているのか、そうでないのか。
この話はカカシ先生もサクラも恋愛感情が希薄なので、なかなかラブラブになってくれません。(涙)
エピローグでは、何とか。カカサクに。


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