あう時はいつも死人 2


何事も、始まりがあれば、終わりがある。
死んだ人間の魂を迎えに行くことも、新たな人間が誕生するためには必要な仕事だった。
だが、死神の存在は人間達には畏怖の対象でしかない。
たまに死神の気配を感じ取る異質な者に会っても、逃げられるのが常で、カカシのように平静でさらには「可愛い」などと言った人間は初めてだ。
カカシが霊界に来たために会話が出来たが、サクラは今までも彼の後ろをよく付いて歩いていた。
何しろ彼は任務で人の生死に係わることが多く、そばにいれば新鮮な魂が沢山手に入る。
そういった意味で「まだ生きていて欲しい」と思っていたサクラだったが、今では少しばかり考え方が変わってきていた。

 

「死んだら君とずっと一緒にいられるのかなぁ」
「当分は無理よ。閻魔帳で調べてみたけど、あなたは100歳くらいまで生きることに決まってるから」
「へぇー。わざわざ調べてくれたんだ」
「うっ・・・・」
言葉に詰まった少女を見て、カカシは明るい微笑みを浮かべる。
一度幽体離脱をしてコツを掴んだのか、カカシは頻繁に霊界にやってくるようになった。
近頃は「サクラ、サクラ」と彼女の名前を呼び捨てにして、妙に馴れ馴れしい。
理由を聞くと「死神なら自分より先に死なないから」というよく分からないもの。
どうやら今までよほど運に見放された人生を送ってきたようだった。

「あのね、何度も言ってるけど、生きているあなたがこんなところにいちゃいけないの。いくら寿命が残ってるからって、霊界に長くいたら本当に帰れなくなるわよ」
「・・・・だってさ、サクラに会いたいし」
「子供じゃないんだから!!」
サクラが怒鳴りつけると、カカシはしゅんとした様子で肩を落とす。
まるで自分が虐めてしまったようで、サクラは慌てて彼の顔を覗き込んだ。
「辛いときもあるけど、生きていれば、ちゃんと良いことに巡り会えるようになってるのよ。悪いときばかりはそんなに長く続かない。だから簡単に死ぬなんて考えたら駄目なの。分かった?」

言い終えると、丸まったカカシの背中をサクラは力いっぱい叩いた。
何故ここまで必死に説得しているのかサクラにも分からないが、彼にはきちんと人間の世界で幸せを見つけてもらいたい。
死神を見て喜んでいるようでは、やはり普通ではないのだ。
「・・・・絶対?」
「絶対」
念を押すカカシに、サクラはしっかりと頷いて答える。
「分かった」
初めて会ったときと同様に、カカシは口端を緩めてサクラの頭に手を置く。
無理に作った笑顔は見破られてしまったかもしれないが、カカシは彼女に従い、霊界に来ることはなくなった。

 

 

 

「おじさん」
ポケットに手を入れながら商店街のアーケードを歩くカカシは、それが自分に向けられたものだとは気づかずに通り過ぎる。
「おじさん!」
二度目の呼びかけでようやく振り返ると、そこには誰もいない。
いや、カカシの目線よりずっと下にその人物はいたのだ。
「今日は、ご本を読んで歩いていないのね」
「・・・・君」
柔らかく微笑む桃色の髪の少女を見るなり、カカシはこれ以上ないほど目を見開く。
彼女は首を切られて死んだはずだ。
いや、あのとき部屋は薄暗く、カカシもよく確認したわけではない。
同じ髪の色をした、同じ年頃の少女だったと言われれば、カカシもそんな風に思えてくる。

「・・・あ、そうだ」
暫しの間、呆然と彼女の顔を凝視していたカカシは、ポケットを探ってフルーツ味ののど飴を取り出した。
子供の好きそうな甘い菓子など普段持ち歩いていないため、これが精一杯だ。
「食べる?」
「うん。有り難う」
満面の笑みを浮かべて飴を受け取ると、少女はカカシに手を振って駆け去っていく。
惣菜屋から出てきた若い女性が母親らしく、彼女に手を引かれた少女は軽い足取りでカカシの視界から消えていった。

「本当だねぇ、サクラ・・・」
眦に浮かびかけた雫を拭いながらカカシは呟く。
人生悪いことばかりじゃない。
火影の命令で暗部を抜けて、来週からは下忍を従える班のリーダーになることに決まった。
嫌で嫌で仕方がなかった暗殺任務が自分のもとへ来る数は格段に減ることになる。
サクラに諭されて前向きに生きることにしてから、本当に運が向いてきたようだ。

 

「・・・・でも、おじさんはないよね。まだ20代だってのに」
少々気落ちした顔で不満を漏らすと、くすくすと笑う声がどこからか聞こえてきた。
誰だろうかと視線を向けると、そこに立っていたのは丁度会いたいと願っていた死神の少女だ。
驚いたカカシは、周囲を見回して町並みを確認する。
「俺、霊界に来ちゃってるの?」
「ちゃんと人間界にいるわよ」
てくてくとカカシに歩み寄ると、サクラは明るい微笑みを浮かべてカカシの顔を見上げた。
「ずっと働きづめだったから有給をもらったの。暫く人間界にいることにしたわ」
「有給って・・・・・・何日くらい?」
「80年くらい」
「・・・・」
絶句したカカシだったが、半永久的な寿命を持つ死神にすれば、さして長い日数ではない。
有給期間が終わるのは、丁度カカシの寿命月着る頃だろうか。

見ると、白い陶器のようだったサクラの肌は、きちんと血の通った人間のような皮膚の色になっている。
「・・・・あったかい」
「擬態してるから。普通の人間と変わらない体なの」
思わず頬に触れたカカシの手に自分の掌を重ねて、サクラはにっこりと微笑む。
運気が向上したはずなのに、満ち足りなかった物の正体に気づいたカカシは、彼女をそのまま抱き締めていた。
おそらく、初めて会ったときからこうしてみたいと思っていたのだ。
「有り難う」
伝えたいことは沢山あったが、今はこれ以外の言葉が出てこなかった。


あとがき??
「あう時はいつも死人」は墓場鬼太郎のタイトルですが、みょーーーにインパクトあったんですよね。
平仮名と感じの割合とか、響きとか。これ使って何か
SS書きたいなぁと思って、作ってみました。
私のSSって、天使とか悪魔とか死神とか、普通に出てきますよね・・・。忍者漫画なのに。

おまけSS 


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