beautiful dreamer

メッセージ V


カカシの身の回りのものを持って病院にやっていきたナルトは、点滴によりなんとか命を存えているカカシの姿に打ちのめされている様子だった。
カカシはナルトが気の毒になってくる。
ナルトはカカシが自分に近づいている死をむしろ喜んでいることを知らないし、理解もできないだろう。
「迷惑かけて悪かったな」
カカシが笑顔を向けると、ナルトは堪えきれずに泣き出した。
カカシはナルトを羨ましげに見詰めた。
ナルトのように素直に感情を表に出すことができれば、どれだけ気分が楽になることか。
「お前はそのまま変わるなよ」
言うまでもないと分かっていながら、カカシは口にせずにはいられなかった。

 

「カカシ先生、これ、まだ読んでないの」
ナルトの用意してきた荷物には、サクラの手紙も混じっていた。
「ああ」
ナルトはカカシに咎めるような視線を向ける。
大切な人の死に目に会えないのと、大切な人の死を見取ること、どちらが辛いと思うのかは、人それぞれ。
だが、メッセージを残されたものと、そうでないものでは、故人の想いの差は歴然だ。
「サクラちゃん、怒ってるよ」
最後にそう言い残して、ナルトは病室から去っていった。

「怒ってる、かぁ」
黄泉の国でもう一度サクラに会えるのなら会いたいが、その時サクラに怒られるのは嫌だな、とカカシは思った。
ようやく手紙を読んでみようかという気持ちになる。
カカシはナルトが置いていった手紙に目を向けた。

桜色の封筒に、桜の花びらの模様が入った便箋。
内容は、ただ一言。

『シロのお墓にお参りに行って』

 

夜中に、カカシは病室を抜け出した。
向かった先は、病院から、そしてカカシの家からもさして遠くない森。
サクラと木立の中の桜木の下にシロを埋めたのは、つい二ヶ月ほど前のことだ。
身体はもう以前のように動かなくなっていたが、手紙を見た瞬間、カカシは這ってでもその場所に向かわなければならないと感じた。

 

足元をふらつかせながらたどり着いたその場所に存在していたのは、狂い咲きした桜。
桜木を前に、カカシは思わず感嘆の声をもらした。
もう季節的には葉桜になっていておかしくない桜が、まるでカカシが来るのを待っていたかのように、今が盛りと一斉に咲き誇っている。
月明かりに照らされ群れ集う満開の桜は、この世のものとは思えないほどの美しさだった。
サクラとこの場所に来たのは、まだ蕾も膨らんでいないころのこと。
サクラはここが絶好の花見場所だということを知っていたのだろうか。

カカシは自分の考えに苦笑し、手で目頭を押さえた。
聡い彼女のことだ。
当然気付いていた。
だから自分にここに来いと言ったのだ。

 

サクラは自分の命が残り少ないと知ったとき、カカシと軽はずみな約束をしたことを悔いた。
だが、謝ろうにもカカシは遠くの地にいる。
カカシはああ言ったが、自分がいなくなった後、彼が哀しむことをサクラは分かっていた。
それでも、カカシの口から言葉が聞きたくて、いろいろな問い掛けをしたのだ。

サクラは、手紙にどんな言葉を書こうとも、嘘をついた自分をカカシが許してくれないと思った。
だから、せめてもの贖罪の意味で、カカシにあのメッセージをおくった。
自分が死ぬ時期と、シロを埋めた近くの桜木が全て咲ききるのとほぼ同時のはず。
その花を見て、カカシの心を少しでも慰められれば良い。

そして、もう一つ。
カカシが馬鹿な考えを起こさないようにするための戒めの意味のメッセージ。
サクラがカカシに課した役目であり、彼のためだけに残した、たった一つの遺言。
これからも、シロのお墓にお参りに行って。
私の変わりにシロの墓守になって。

どうか、私の後を追ったりしないでください。

 

サクラが決死の思いで残したメッセージは、しっかりとカカシの心に届いていた。

サクラは自分の死を望んでなどいない。
生きてくれと言っている。

熱い涙が吹き零れるのと同時に、カカシはその場に泣き伏した。
サクラは最後の最後まで、自分のことを気にかけてくれていた。
自分はこんなにもサクラに想われていた。
愛されていた。
舞い散る花弁が淡雪のように降り注ぐ中、カカシの嗚咽する声が森に響いた。

カカシは今まで生きてきて、サクラに出会えて本当に良かったと、全ての必然に感謝した。
例え誰かが、暗殺任務に明け暮れ、殺伐とした生活をおくっていた過去を消してくれると言ったとしても、きっと自分はサクラと出会うことのできる暗部としての人生を選ぶだろう。
サクラに愛された命を、初めていとおしいと思うことができた。
サクラの気持ちを抱えて、これからも自分は生きていくことができる。

 

死後の世界がどうなっているのかなんて誰にも分からない。
できることなら、いつか再びサクラに会って、自分はサクラの嘘を怒っていないのだということを伝えたい。
そして価値がないと思っていた自分の生を、意味のあるものにしてくれたサクラに、有難うの言葉を捧げたい。
カカシは切にそう願った。


あとがき??
なんだか、私が書いた作品じゃないみたい。
これ、気付いたら自然にふらふらっと書いてしまったのですよ。摩訶不思議!
何かにとりつかれたかのように一心不乱に手を進めてました。何だったんだろう??
でもいろいろ手直しした。
だって、最初はカカシ先生、別件で死んでたんだもん。ヤバイ。
「メッセージ」の題名は、カカシ先生からサクラちゃんへの言葉も入っていたみたいです。
前もどこかに書いたけど、自分の存在を肯定してくれる人が一人でもいれば、生きていけるという話。
カカシ先生の半生がどんなに血まみれだろうと、カカシ先生に会えて良かったというサクラちゃんの気持ちは変わらないみたいです。

手紙の中は、白紙、とかいろいろ考えましたが、いつの間にか、こういうラストになってました。

「アニマル・ロジック」(山田詠美著)の影響大な話。
「暗い部屋」に置くべきかとも思ったけど、あそこの作品ともまた雰囲気違うし。
とにかく異作です。

この話はここで終わりですが、ちらっと続きを書いてみたり。
映画版「ケイゾク」っぽい。この部屋のどこかにあります。(簡単)
続きのわりに、この話とは別物なので、見ない方がいいかも。
追記しておくと、死にネタはあと2つか3つある。そのうち。


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