写真


「ナルトってば・・・・。ご飯を食べに来るのはいいけど、こんなに大事なもの忘れないで欲しいわ」
夕食後、後片づけを終えて居間にやってきたサクラは深々とため息を付いた。
「え、何?」
「木ノ葉隠れの里の忍びとしての証明書」
サクラは証明書のカードが入ったパスケースを小桜に見せる。
これがなければ、里から出ることも、他国に入ることも出来ない、大切な身分証明証だ。
カードに貼られた写真は随分と前に撮ったものなのか、まだ少年然としたナルトが写っていた。

「私が届けに行ってあげる」
「これから?一人じゃ危ないわよ」
「大丈夫よ。近いし、私だってアカデミーに通う見習い忍者なんだから。それに、これがないと仕事にならないんでしょ」
「・・・うん」
サクラは心配そうに小桜を見ていたが、彼女はすでに身支度を始めている。
カカシはまだ仕事から帰宅していない。
サクラもついて行きたいが、一人で子供部屋に寝ている快を放って外出することも出来なかった。

パスケースを上着のポケットにしまおうとした小桜は、ふと手を止める。
ケースに、証明書以外の何かが入っていた。
「・・・何?」
指を入れて中身を出した小桜は、そこに二枚の写真が折り重なって入っているのを見付けた。
7班で昔撮ったと思われる4人の写真ともう一枚は・・・・・。

 

「小桜?」
サクラが後ろから小桜の手元を覗き込むと、彼女はびくりと肩を震わせた。
そして、サクラも小桜が持つ二枚の写真を確認する。
「あら・・・・、ナルトったら」
楽しげに顔を綻ばせたサクラに、小桜は何故か胸が痛くなった。
ナルトが、おそらく証明書のカードよりも大事にしているものが、そこにある。
桜の木の下で、カメラに向かって愛らしく微笑むサクラの写真。
小桜の知らない、アカデミーに通い始めた頃のサクラだった。

「いってきます!」
「あ、小桜」
パスケースをポケットに押し込み、踵を返した小桜にサクラは桃色のマフラーを巻き付ける。
「気を付けてね」
「・・・・」
優しい笑顔を浮かべるサクラは小桜の自慢の母親だ。
父親のカカシや弟の快と同様に、小桜にとってかけがえのない存在。
だからこそ、彼女に対して抱いた強い嫉妬を、どこに向ければいいのか分からなくなってしまった。

 

 

「・・・・知っていたもの」
外灯の下を歩きながら、小桜は足元の小石を蹴りつけた。
ナルトはいつでもサクラを見ている。
どこにいても、誰といても、小桜がナルトを見上げたとき、彼の視線はサクラへと向かっていた。
アカデミーの頃からの、無意識の行動かもしれない。
サクラがナルトに笑いかけたとき、彼はこれ以上ないほど嬉しそうな笑顔を返すのだ。
それらは、ずっとナルトを見ていた小桜だから気付くことだった。

もちろんナルトは小桜にも、他の誰に対しても優しい。
だが、小桜はそれだけでは満足出来なかった。
自分を一番に思って欲しいと、考えてしまう。
小桜が顔を上げた先、ナルトの家には煌々と明かりがついていた。

 

 

 

「有難う、凄く助かった!」
小桜の突然の来訪に驚いたナルトだったが、事情を知るとすぐに小桜に頭を下げる。
無くせば再発行に数ヶ月かかる物だ。
その間、仕事が出来なければ方々に多大な迷惑を掛けることになる。
ナルトの目に、忘れ物を届けた小桜は天使のように映っていたことだろう。

「中・・・、見た?」
小桜が頷くと、ナルトは頭に手をやりながら照れ笑いを浮かべた。
「気を悪くしなかった?」
心を見透かすようなナルトの一言に、小桜はぎくりとして彼を見る。
「な、何で」
「だって、小桜ちゃんの写真、勝手に持ち出していたから」
「・・・・え!!?」

ナルトの手からパスケースを奪うと、小桜は入っていた少女の写真を凝視した。
サクラだと思っていたが、何か変だ。
彼女の着ている服とよく似たものを小桜は持っている。
「小桜ちゃんのアカデミー入学式のときの写真。先生に頼まれてカメラマンをしたんだけれど、あんまり良く撮れていたから、一枚手元に残しておいたんだ」
「・・・・」
ナルトに言われ、小桜は段々と思い出していく。
アカデミーの入学式、ナルトが仕事の合間を縫って駆けつけてくれたことが嬉しくて、レンズに向かって満面の笑みを向けたのだ。
ドロドロとした暗い感情は消え去り、小桜は胸が熱くなっていくのを感じた。

 

「・・・・お礼が欲しい」
「え?」
「夜中に可愛い女の子が一人で忘れ物を届けに来たのよ。当然でしょ」
「うん」
“可愛い”という部分を強調して言う小桜に、ナルトは苦笑してその頭を撫でる。
「いいけど、給料日前だから高い物はちょっと・・・・」
「キスして」

言われた瞬間、ナルトは目を丸くして小桜を見た。
だが、彼女の表情は真剣で、ナルトをからかっているような気配はない。
「・・・何よ」
「えーと、カカシ先生が怖いし・・・・」
「意気地なしね!」
「家ではだらしないパパだけど、一応、カカシ先生ってエリート上忍なんだよ。殺人許可証も持っているし」
「そんなの知らないわよ。ナルトの馬鹿!!」
癇癪を起こした小桜は両手を振り上げてナルトに挑み掛かる。
もちろん、子供の小桜の腕力でナルトにかなうわけがなく、その両手首は易々と掴まれた。
そして、屈んだナルトは小桜のおでこに触れるだけのキスをする。

「カカシ先生より、小桜ちゃんに嫌われる方が怖いや」
みるみるうちに赤くなる小桜の顔を見つめて、ナルトは面白そうに笑った。


あとがき??
小桜10歳。ということは、ナルトは27歳・・・・。す、素敵!!!(笑)
そのさんが「ナルト×小桜、本命」とおっしゃっていたので、嬉しくてついこんな話を書いてしまいました。
小桜がお嫁に行くとき、ナルトはカカシ先生より強くなっているはずですので、大丈夫かと思われます。
サクラは一目であの写真が小桜だと気付いたので、笑っていたのです。
アカデミーにいた頃、ナルトとサクラがそれほど仲が良くなかったのを小桜は知らないんですね。
拙い駄文ですが、そのさんに捧げさせて頂きます。

おまけでカカサク夫婦の話も書いたのですが・・・・何故かホラーに・・・・・。心霊写真のような気持ちで。
よ、よろしければどうぞ。 


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